7.寮の先輩と寮のペア
「はーい、どうしたのかしら〜?」
さっき会った、のんびり寮母さんを先輩が連れてきてくれた。
みんなの視線が自分に集まっているし、説明を求められていることは分かる。
話をするのは苦手だけれど、必要な連絡事項の伝達は可能だ。
身体が大きくて怖い軍人相手でも出来るんだから、ここでもできる。
自分にそう言い聞かせて口を開いた。
「……ぇっと……毎日、朝と夜の、2回点滴が必要です。飲み薬は、一日3回、飲みます。
薬は、自分で作っています」
「あら〜、そうなのねぇ。じゃあ、薬を置く場所が決まったら教えてくれるかしら。何かあった時に使えるようにね。
出来れば、誰でも分かるようにしておいてね〜」
たったそれだけで帰ってしまった。
もっと色々質問されるかと思っていたキアラとしては肩透かしだ。
「寮母さん、あっさりしてるでしょう? だって、女子だけで一学年100人、全部で300人居るのよ?
いちいち構ってられないんだと思うわ。
でも、何かあれば絶対に守ってくれるから。ひと言伝えておくのが大事なのよ」
アイリーンがそう断言してくれると、安心できるから不思議だ。
「……すすす、すみませんっ」
自分の点滴のせいで先輩二人に面倒をかけまくっているから、とても申し訳なくなって頭を下げる。
「いいのよ、それが寮の先輩の仕事だもの。私も去年そうやって色々教えてもらったわ」
「ねぇ、アイリーンちゃん、どうする? 後にする?」
くるくるパーマさんが言いにくそうに口を挟む。
「ここで話をして大丈夫なんだって。だから、部屋からクッション持ってきたの」
「あ、そうなの。じゃあソフィアちゃん呼んでくるね」
「ありがと」
ふたりは仲が良いようで、話す間に遠慮はない。
ああいう友だちが居るっていいな、とキアラは少し羨ましくなった。
「すみません、お邪魔します」
くるくるパーマ先輩の後ろに続いて入って来たのは、深緑色の長髪の女の子だ。
「じゃあ、みんな揃った所で改めて自己紹介するわね。私はアイリーン。平民出身で、実家は商売をしているわ。母が魔力の強い貴族だから、私も魔法が使えるの。
同じ平民出身ってことでキアラちゃんの寮の先輩になったから、一年間よろしくね」
「……ょろしく、ぉねがぃします……」
キアラが話はじめるまで辛抱強く待ってくれたから、きちんと返事をすることができた。
次はふわふわパーマ先輩が口を開く。
「私はラウラ・ケリー。男爵家の次女で、土の魔法が得意だけど、戦うのは怖いからちょっと苦手。将来は錬金術師とか結界術師みたいな、サポート役の仕事につきたいと思ってるの。
ソフィアちゃんの寮の先輩になったから、一年間よろしくね」
「私はシュタール伯爵家長女のソフィアと申します。風の魔法が得意ですけれど、あまり魔力が多くありません。
この3年でもっともっと強い魔法使いになりたいので、よろしくお願い致しますわ」
「でも、ソフィアちゃん女子の中じゃあ二位だし、全体でも五位よね。凄いじゃない」
ラウラがソフィアを褒めると、ソフィアは照れくさそうだけれど嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございますわ。今年一位のコンラート・エルデは前から天才と言われていましたけど、キアラちゃんも同じくらい凄いですから。
私も頑張ります」
「……ぇっと、キアラ、です。平民です。……よろしく、お願いします」
軍のことは隠した経歴が作られてはいるが、それでなくとも話の下手なキアラは上手く言えず、最低限の自己紹介になってしまった。
アイリーンとしては点滴や薬の説明があるかと思っていたが、本人が口を開く気が無さそうなので無理に聞き出さなくてもいいか、と思い直した。
「じゃあ、改めてよろしくね。クッション持ってきたから座って、座って! 私の部屋じゃないけど!」
キアラと違ってアイリーンのハキハキした話し方は場を明るくしてくれるし、さすが商売人の子だけあって、寮の施設の説明も上手だ。
「私はキアラちゃんの、ラウラはソフィアちゃんの先輩ってことになってるけど、キアラちゃんとソフィアちゃんは寮のペアだからね。
私でもラウラでも、好きな方に声を掛けてくれたらいいわ」
それからソフィアからの質問を交えながら一通りの説明をしてくれた。
それが終わるころにはキアラの点滴も終わったので、針を抜いて軽く傷口を押さえ、チューブの後始末をする。
キアラは傷の治りが早い方なのですぐに血が止まる所だけは便利だと思う。
その様子を見ていたラウラがひと言。
「すごく、手際がいいね。私が教えて欲しいくらいだわ」
将来は錬金術師になりたいと言っていたから、興味があるんだろう。
でも、キアラは何と返していいか分からなかったのでそのまま黙って作業を続けた。




