68.第1回魔王討伐
その週末、予定通り魔王討伐戦の一回目が行われるということで、兵団に呼び出されていた。
というか最近毎週呼び出しを受けている気がする。
闇の精霊の情報収集に行きたいのに、魔王城に行くヒマもない。
「あの、アズーラ中尉。魔王討伐って、実際どうやるんですか?」
普段は作戦なんて気にしないけれど、自分が討伐される側になれば、さすがに教えて欲しい。
「今日は魔王戦にはなりませんよ。勇者が魔境に行くと、8割くらいの確率で魔族が出現しますので、まずはそれと戦います」
「出てこなかったらどうするんですか?」
人間を傷つけるな、という命令を出しているので、魔族には出てきて欲しくない。
適当な所でお茶を濁して帰れないだろうか。
「出てくるまで待ちますが、今回は初回ですから、魔獣討伐のみでも構いません。
というかルーレスト殿下は初めての魔境ですから、慣らしも兼ねて軽く魔獣戦で充分じゃないですかね」
「なるほど」
それならあまり警戒しすぎないでもいいかもしれない。
でも、キアラの魔王命令では魔境内は自由に動けるはずなので、勇者の存在を感知したら魔族は来てしまうだろう。
(それは困るよね。友だち同士が戦うなんて嫌だもん。最悪、私かアシェが魔族役をしていい感じの所で追い払われるフリでもしようかな……)
今回は魔獣相手でも良いというのなら、魔族のみんなには城で大人しくしてて欲しいんだけれど出来るだろうか。
(……無理だろうなぁ)
魔族は魔族で、自分たちが生きていくために必死なので、勇者討伐に来るだろう。
キアラに出来ることは、いい感じにお互い怪我なく帰らせるくらいか。
(出来たら先に魔王城に行って説明したかったけど、その時間も無さそうかな)
アズーラ中尉が歩きながら説明していたので、もう集合場所についてしまった。
各部隊から選抜された精鋭が揃う中、勇者ルーレストが演説を始める。
「皆の者、魔王討伐のために集まってくれて、ありがとう。我らは、この国を、そして世界を守るため、魔王を討伐しなければならない。
それは永く険しい道のりだろうが、必ずやり遂げなければならないことだ。
王国に住まう全ての人のために、魔王を討伐するんだ。
完全復活までもう時間がない。それぞれが出来る全力を尽くし、魔王を討伐するぞ!」
「「「応っ!!」」」
団員の野太い声が呼応するのを、キアラは感動して見ていた。
(さすがルーレストせんぱいだ。凄く惹き付けられる、いい演説だったなぁ)
その演説の敵は自分なのだけれど、それを気にすると怖くなるので、あえて考え無いことにした。
その後、ルーレストを先頭に魔王城に一番近い第4拠点に移動する。
そして転移した先は、いつもの拠点と違った感覚で満ちていた。
(……これが、勇者のオーラ……!!)
びりびりと肌が震えるほど感じるのが、勇者のオーラだろう。
何も知らなくても、本能がそう告げている。
「魔王が近くに居るぞ!!」
そして、オーラを感じたのはキアラだけではない。ルーレストも同じだ。
ザッ、と全員が戦闘態勢に入るが、当然ながら魔王は襲ってこない。
「どこだ、近い、近いぞ……」
ルーレストが周りを注意深く見回すのが、キアラにはちょっと滑稽にも見える。
ずっとここに居ますよー、って言いたい気持ちになっちゃう。言わないけど。
そこへ、うさ耳少年の姿をした魔族がふらふらと現れた。空を飛んでいるので、地上から見ると大変目立つ。
キアラが何度か魔王城を出入りするうちに、転移陣近くまで迎えに来てくれるようになっていたのだけれど、それが裏目に出てしまった。
「魔族だっ!!」
叫ぶと同時に、ルーレストが攻撃魔法を飛ばす。
勇者の存在に気づいたうさぎ君は慌ててガードしたけれど、何が起こったのか分かっていなさそうだ。
(……うさぎ君に説明したいけど、アズーラ中尉が居るから古代語で喋るわけにもいかないし……そうだ)
いい事を思いついたキアラは、次の攻撃魔法を使おうと詠唱を始めるルーレストを手で制し、近くをうろつく魔獣の方を指さす。
攻撃魔法はそちらに使ってくれ、と伝わるように。
(……アシェ、お願い)
(わかった!)
そしてキアラはアシェの翅で空を飛び、うさぎ君に近づく。
〈魔王さま、どうしましたか!?〉
〈ごめん、説明してるヒマがないの。私に向けて、攻撃魔法を撃って!〉
〈ええっ、魔王様に、ですか!? 勇者ではなく?〉
〈そう、早く!〉
意味不明な指示でも、うさぎ少年は言われた通りに魔法を撃った。
当然、キアラは打ち消せるので、多少くらった振りだけして、体勢を立て直す。
〈もう一回!〉
〈はいっ!〉
指示通りうさぎ君が魔法を撃った所へ、ルーレストの声が響く。
「レンツァー師!!」
〈勇者は、何と言ってますか?〉
〈私の名前を呼んでるよ。心配してくれてるんでしょ〉
〈勇者が、魔王さまを?〉
〈うん〉
「おのれ魔族! レンツァー師が攻撃出来ないように、何かしているんだろう。
□□□□□□□□□ 轟け、雷っ!!」
〈わお、本当だ。ボクを狙っていますね〉
〈そうでしょ? だから、ちょっと戦っているフリして〉
〈はい、魔王さま!〉
従順なうさぎ少年はこの茶番にも嬉々として付き合ってくれる。
「□□□□□、奔れ、嵐!!」
ルーレストが放った魔法を軽く手を振って消し、うさぎ少年の魔法もルーレストに届く直前に威力を半減させる。
あの程度なら、他の団員でも充分迎撃出来るだろう。
〈今から魔法を使うから、大ダメージを受けたフリして城へ帰って!〉
〈はいっ!〉
うさぎ少年はむしろこの場を楽しんでいるようなので、キアラは魔力操作で生み出した、炎っぽい見た目をしているけれど実際何も感じないモノを発射した。
それを受けて、派手に吹き飛んでそのまま撤退したような感じで、うさぎ君は帰って行った。
「レンツァー師!!」
「…………」
アシェの翅を消しながら拠点に降り立ったキアラの元へ、ルーレストが走り寄る。
「役に立たず、申し訳ありません。本当に助かりました。ありがとうございます」
キアラの茶番にルーレストを付き合わせてしまっただけで、役立たずなんてことはない。
けれど声を出せないので、その場で軽く首を振る。
そして、問い詰められる前に先に一人で転移陣で帰還する。
「か、格好良い……っ!」
その背中を見つめる勇者が、どんな目をしているかも知らずに。




