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《殲滅の魔女》は虚弱体質 〜魔力無限の最強魔導師ですが、コミュ障なので学園潜入任務はお断りしたいです〜  作者: ことりとりとん


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48.夏休み前に



「うっしゃあ! 夏休みだ!」


 生徒会室で大声で吠えるウェブは、休みが余程楽しみらしい。

 だが、イヴは不審な目を向ける。


「そんなに喜ぶ事? 私たち、就職活動で夏休みは結構潰れるわよ?」


「結局、先輩方は魔法兵団志望ですか?」


 ルーレストは興味があるようでそう訊いている。


「そうよ! やっぱり憧れの花形だもん。夏休みに実地演習と選考があるから、頑張らなくちゃ」


 ぐっと拳を握りしめるイヴを見て、そういえば、夏には慣れてなさそうな若い人が増えるんだった、と思い出した。

 てっきり新人だと思っていたけれど、あれは学生だったのか。


 じゃあ、うっかり鉢合わせないように気をつけないとな、と思った。

 前は人が増えるのを嫌っていたけれど、今はそれほど嫌ではない。


 イヴもウェブも成績優秀で戦闘向きの魔法使いだから、今の人員不足な魔法兵団には採用されるだろう。

 というか、もし万が一落ちたらキアラ・レンツァーの個人部下として採用したいくらいだ。


「兵団の実地演習は、本当に魔境へ行くんですって。授業では散々やったけれど、もちろん行ったことはないから、怖いけれど楽しみなの。

 魔族と戦えるような、強い魔法使いになるのよ!」


 熱く語るイヴは、魔法兵団に憧れているのがよく分かる。


 そこへ、遠慮がちにルチアが口を開く。


「あの、アズーラ先輩。もしも、手芸部の作品が使われていたら、教えてもらえますか?」


「もちろんよ!」


 ルチアにとって、手芸部で作っている魔法陣は、誇りだ。

 魔導六師《殲滅の魔女》キアラ・レンツァー直々に依頼を貰い、直接納品している、至極の逸品。

 だからこそ、それが使われる所が気になるのだ。


 ちなみに既に実戦投入されているし、キアラ自身の魔法には遠く及ばないものの実用的だとして注目されている新兵器だ。

 キアラが毎週魔法を込めているし、きっとイヴが見る機会もあるだろう。


「会長はどうするの? 仕事?」


「うん、まあね。当分は、学園に残る予定だけど」


「あれ、帰らないんだ」


 イヴが目を丸くしているのもそのはず。

 この春までは普通に王宮へと帰っていたが、この夏は帰らないそうだ。


 殿下たっての希望だと聞いていたが、遠くを見つめるようなその瞳は、ただ実家が嫌いな反抗期とは全く違う。


「帰るところ、無いんですか?」

「おい、キアラ!」


 それまで黙って先輩方の話を聞いていたキアラが急に暴言を吐いたものだから、隣のエルデが制止する。


「……ぁあ、ぁの、ぁあ、す、すみませんっ!!」


 ルーレストははっきりと胸を刺されたような顔をしていて、本当に本当に申し訳ない。

 いつもお世話になっている相手なのに。


「すみません、すみませんっ!」


 こんなに大事な場面で、日頃人付き合いから逃げてきた弊害が出てしまうとは。

 暗殺未遂が多発していることも、勇者の証が発現してから、王宮で微妙な立場であることも、知っているのに。


「……すみません。私と同じかな、って思って。私も、帰るところも、家族もないから」


 キアラなりのフォローのつもりだったが、ルーレストの顔色はさらに悪くなった。


「いや、でもさ! 私もほとんど家には帰らないし! ね! もうみんな、いい歳じゃん!

 それより、夏休み明けの文化祭のことなんだけど……」


 キアラが険悪にしてしまった空気を、イヴが必死に変えようとしてくれいる。

 それがつらくて、申し訳なかった。


 夏休み前最後の生徒会活動は、軽い打ち合わせと雑談で終わり、実家に帰る準備などで忙しい皆はすぐに生徒会室から帰っていった。


 だけど、ルーレストはまだ書類を広げているので、キアラはそのまま勉強を始める。


「キアラ君は、夏休みどうするんだい?」


 普段は二人だと無言でそれぞれの作業をしていることが多いが、今日はルーレストが話しかけてきた。


「……仕事、です」


 先程の暴言があるので、言葉選びは慎重にする。


「そう。家は、あるのかい?」


「……ぇっと、職場の、寮です」


 錬金塔の師匠の実験室を寮と呼べるかどうか微妙だが、あそこをキアラは自分の部屋扱いしている。


「……そう。大変だね」


 その声は、なぜか絞り出したような痛みを伴っていた。


「……いえ、ルーレスト先輩の方が、大変です」


 魔法兵団で討伐任務をしていればいい自分とは違い、ルーレストは勇者の証と王子の責務の両方を背負っている。

 それを知っているからこそ、帰るところが無いのかと心配になったのだ。


「帰る所がある人が、たまに羨ましくなる」


 それは、きっと、ルーレストの内に秘めた、偽らざる本心だ。


「……はぃ」


 キアラは立場上王宮にも出入りしたことがあるが、それはあくまでも職場で、そこで生活する人がどう感じるのか、それは分からない。


 でも、きっとルーレストにとって、王宮は『帰る場所』ではないのだろう。

 キアラにとって、錬金塔が帰る場所ではないように。


「誰が自分を消したがっているのだろう、と考えると、何処にも居られなくなるんだよ」


 少し前まで、ルーレストにも帰る場所があると思っていた。

 それは、母方の領地で、1年に数度しか帰れなくとも、自分の家のようだと勝手に思っていたのに。

 そこで、二度も暗殺未遂に遭った。


 きっとあれは魔族の仕業だったのだろうと、今なら思う。

 けれど、あの時彼ら疑ってしまった自分が、のこのこと帰るのは気が引ける。


 しかも、暗殺されかけた自分を、帰る場所だと思っていた領地の人々は、守ってくれなかった。

 ただひたすらに、自分達の無実を証明することだけに必死で、ルーレストのことなど誰も気遣ってはくれない。

 早く王宮へ帰れと言われ、ここは自分を受け入れてくれる所ではないと思い知った。


 だから、自分には、『帰る場所』なんてないと、そう思っている。


「……大変、ですね」


 暗殺のことを、正体を知らないキアラに言うくらいだから、余程精神的に参っているのだろう。


「そうだな。怖い」


 薄い表情で零れるように呟いた最後のひと言に、今のルーレストの全てが詰まっているように感じて、キアラは返す言葉を必死に探す。


「……ぁの!! 私、ルーレスト先輩を守りますから! 安心してください!」


 あまりに打ちひしがれている先輩をどうにか元気付けようと必死だったのに。


「あはははは」


 なぜか大笑いされてしまった。


「……?」


 きょとんとするキアラに、


「威勢のいい宣言をどうもありがとう。ちょっとは元気になったよ」


 ルーレストからしたら、キアラはただの後輩だ。

 まだ半人前で、成績も悪く必死に勉強している可愛い後輩。

 そんな相手でも、守ると宣言してくれたことは、純粋に嬉しかった。


 一方でキアラは、なぜ笑われたのかよく分からない。けれど、ずっと難しい顔をしていたルーレストが笑ってくれたので、よしとする。


「夏が来るね」


「……はぃ」


 キアラは、今まで夏を楽しみにしたことなんて無かった。それどころか、季節を感じることすら、村を出てからほとんどしていない。


 けれど、今年の夏は、なんだか楽しみだと思えた。


これにて一巻が完結となります!


物語はまだまだ中盤ですが、これから益々盛り上がって行きますので、面白いと思ったかたはぜひ★★★★★での評価をお願いいたします!


これからも、《殲滅の魔女》をよろしくお願いします

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