47.恋バナ
今回の補習は2科目だけなので、6日間ぴったりできちんと終えられた。
前回はいつまでも行き続けていたので、多少成長したと思っている。
そして、学園はもう全体的に夏休みムードだ。
クラスでも、一緒に遊びに行こうとか、故郷に遊びに来て、とかの話が聞こえてくる。
「ねぇキアラ、夏休みの間に、私の地元に遊びに来ない?」
ああいう話が出来る友達が居るっていいな、と聞き流していたけれど、キアラにも誘ってくれる友達だ居た。
「……ぅん、行けたら、行きたい」
「そうだよね、キアラは夏休みの間は仕事があるんだっけ。
私は家をちょっと手伝うくらいで特に予定は無いから、来れそうなら来てよ」
「……ぅん、ありがとう」
「手紙は出すから、宛先教えてね。絶対返事をちょうだいよ」
「……ぅん、わかった」
これは、アズーラ中尉に相談案件だな、と思う。
バカ真面目にキアラ・レンツァー執務室に届けて貰う訳にはいかない。
そして、生徒会は既に夏休み明けの文化祭に向けて活動を始めている。
なのでキアラも手伝おうと生徒会室へ行ったら。
「あら、キアラちゃん。今日はおひま?」
「……ぁっ、はぃ」
珍しくルチアに声を掛けられた。
「それなら、一緒に手芸部へ行きましょうよ」
「……ぇっ、生徒会は……?」
「生徒会はいいのよ、まだ夏休み明けで充分間に合うわ。
でも、夏休みの間、手芸部の活動は出来ないでしょう? 《殲滅の魔女》様の魔法陣を作らなくちゃ。
夏休み中も各自でやろうとしたら、情報機密の観点から、持ち出し禁止だって言われちゃったのよ」
「……ぁっ、はぃ」
キアラとしては、自分が頼んでいるものなので、行ける時にはせめて手伝おうと思っている。
ソフィアとカリナも手芸部へ行くと聞いているので、丁度いいから行きたいな、と思ってルチアについて行った。
着いた先の手芸部の部室には、その可愛らしい部屋に不似合いな軍服の男が居た。
「任務ご苦労。では、完成品は回収して行く。暫し、活動を観察するが、特に気遣う必要性は無い。いつも通りの活動をするように」
(……ぅわっ、アズーラ中尉だっ)
本人が聞けば、そんなに嫌がる事ですか、と文句のひとつも言われそうだが、今のキアラはなるべく会いたくない。
だって、自分は極秘任務には向いていない性格で、諜報の訓練も受けていない。
何かあれば絶対にキョドってしまうから、目を合わせることすらしたくないのだ。
「キアラちゃん? どうしましたの?」
「……ぃぇ」
しまった。
目を逸らしたことで、ルチアに不審に思われたらしい。
「アズーラ様は、軍人さんで怖く見えますけれど、優しくて穏やかな方ですわよ。
生徒会のイヴ先輩のお兄さんですから、怖がることはありませんわ」
「……はぃ」
別に怖がってはいないが、そういうことにしておこう。
向こうも気づいてはいるだろうが、もちろん声を掛けてなど来ないので、こそこそと逃げるに限る。
「逞しい軍人さんですわね」
「魔導六師さま付きの方なんですって」
「きゃあ、凄いエリートじゃない!」
周りの女子達はキャッキャと盛り上がっていて、アズーラ中尉はいかめしい顔をしているけれど、内心ちょっと嬉しそうだ。
(そりゃあ、日頃はむさ苦しい男しかいない魔法兵団に居たら、この手芸部は可愛らしいよね)
と、アズーラ中尉の気持ちには激しく同意するキアラだった。
そうこうしているうちにアズーラ中尉は帰って行ったが、その後も恋バナは続く。
「ステキな殿方でしたわね」
「強い上に地位もあって、将来有望なエリート様でしょう? 最高じゃない!」
「結婚してらっしゃるのかなぁ」
「指輪はしていませんでしたわよ?」
「やっぱり、付き合っている方はいるでしょうけれどね」
「生徒会のイヴ・アズーラ先輩のお兄様ですよね? 婚約者とか、いらっしゃるのかなぁ」
(アズーラ中尉は独身だし、婚約者も彼女も居ない。日々むさ苦しい魔法兵団で男に囲まれて過ごしてるから、この手芸部でもちょっと嬉しい、そんな男だよ)
って、言いたいキアラだけれど、当然のことながら言えないので、黙って針を動かすのだった。
ソフィアとカリナの横に移動して刺繍の続きをしていると、向こうの恋バナグループに影響されてか、こちらでも恋バナが始まった。
「ねぇ、ソフィアちゃんは、いいひと居るの?」
「カリナちゃん、急な話ね。居るわよ、昔から婚約してる相手が。私が卒業したら、結婚するでしょうね」
「そうなんだ。高位貴族って、そういう感じなんだね」
事も無げに話す二人だけれど、キアラにとっては想像もつかない世界だ。
「ちなみに、お相手はどんな人なの?」
「4歳年上で、王宮で政務官をしている方よ。
あのね、あのね……すっごく、格好良いんだから!」
婚約者を自慢するソフィアはとっても楽しそうだ。
「エリートでイケメンって、何それ超良いじゃん!」
「えへへ、そうなのよ〜。とっても優しくて、頼りになるのよ」
「いいね、いいねぇ! ソフィアちゃんは大好きな人と結ばれそうなんだ」
合いの手を入れるカリナは、もはや庶民のおばちゃんのようだ。
「そう言うカリナちゃんはどうなのよ」
「ええ〜、私? 今のところ、全然興味無いかな。正直、恋愛よりも商売の方が面白くて楽しいよ」
「そうなのね。でも、学園では商売出来ないじゃない? 誰か、気になる相手はいないの?」
「いないよ〜。私なんかよりさ、キアラはどうなのよ」
「ぇっ!?」
のんびり話を聞いていたら、急に振られて驚いた。
「いい人居ないの? 王都で働いてても、魔法学園卒業なら凄く箔が付くでしょ?
っていうか、絶対有象無象が寄ってくるんだから、今のうちに対応出来るようになった方がいいよ」
「そうね、それは間違いないと思うわ! 『俺と一緒に来てくれ』とか言ってくる勘違い野郎が、来ないとも限らないのよ」
最近どっかで聞いたような台詞だな、とは思ったけれど、思い出す前に話は続く。
「そうだよ、キアラ。いい人居たら、簡単にアタック出来るのも平民のメリットだよ」
「今は、恋愛とか要らないかな。めんどくさいよ」
任務中に、色恋沙汰に現を抜かしているなんて、元帥閣下に知られたら、懲罰もの所ではないだろう。下手したら降格だ。
「いや、キアラ、それは良くない!
私たちの青春は、今しかないんだよ!
ほら、どんな人がタイプか、とかあるじゃん!」
カリナは、自分は『恋愛より商売が良い』と言うくせに、キアラには恋愛を勧めたいらしい。
「タイプ……? 考えたこともないよ」
「じゃあ今考えよう! 年上が好き? それとも年下?」
「……ぇえ〜……」
よく分からない、それが本音だけれど、なんだか変なテンションのカリナはそれで許してくれそうにない。
頼みの綱のソフィアも、興味津々でこちらを見ているし。
「ほら、身近な人で、年上の男の人をイメージしてみて? どう?」
キアラの周りの、年上の男。
元帥閣下は子持ちだし、団長も結婚している。
副官は独身だけれど……。
「うーん、ちょっと……」
「それなら、年下は?」
「……そもそも、居ないかも」
魔法兵団は、原則魔法学園を卒業してから入団する。だから、キアラより年下の人間は、居ない。
「そっか、働いてたらそうなりがちかもね」
「でも、キアラちゃんには、年上の方が似合いそうだと思いませんこと?
しっかりしていて、ぐいぐい引っ張ってくれそうなタイプとか」
ソフィアもノリノリだ。
「……そぅ、かなぁ」
「だって、キアラは大人しくて可愛いけど、ちょっと抜けてる所があるじゃん。
そういうの、フォローしてくれる人が良いかもよ。前に言ってた、王都で働いてる、同じ村の人は?」
「……うーん。それはちょっと……」
それは設定上にしか存在しない人で、正体はアズーラ中尉なので考えても仕方がない。
でも、よくよく考えるうちに、ルーレスト先輩の手のひらが心地よかったことだけは、ふと思い出した。




