46.テストの評価
そうして、キアラが全身全霊で取り組んだ期末テストがようやく終わった。
今回は実技もあったが、アズーラ中尉と練習したうえ、魔境で訓練しているので全く問題無かった。
の、だが。
「……ぁの、エルデ君、今日、生徒会の日だよね……?」
「ああ、そうだけど。お前、まさかまた……?」
エルデの顔が恐怖に引き攣る。
「……ぅん、補習になっちゃったから、遅れます、って言っといてもらえる……?」
「マジで!? あれだけ勉強してたのに!?」
「……ぅん。術式学と、魔力論が、補習になっちゃった……」
「そうか。理論系や記述は、暗記対策だけでは厳しいからな。そこまで深く勉強する時間は無かったし。
でも、中間より良くなったんだろ?」
「ぅん! 中間テストは、5個補習だったけど、今回は、2個になった!」
「おぉ、頑張ったな。その調子で、補習も頑張れよ!」
「ぅん!」
客観的に見れば、補習2科目というのは決して誇れることでは無いし、褒められる事でもない。
でも、キアラの周りのみんなは、キアラ自身の頑張りと成長をきちんと見ていて、褒めてくれる人たちだ。
だから、キアラはみんなのことが大好きで、『守りたい』と思うのだ。
「おっ! キアラ、今度は補習何科目だ?」
補習の教室に入ると、早速グレイ・スカーが話しかけてくれた。
キアラにとって、中間テストの補習を共に戦った仲間だ。
「……今回は、2個だけ!」
「すげー! 頑張ったんだな!」
「……ぅん!」
補習クラスに来ている時点で凄くはないはずだが、グレイは素直に褒めてくれた。
「俺は今回3科目だ」
「……やった。私の、勝ち! でも、グレイ君も、中間テストより、良いよね」
「まあな! 俺も勉強したし」
そこへ、今日の補習監督教師 カレン・フルールが割り込んでくる。
「スカー、あまり調子に乗らないように。キアラの努力は本物ですよ。努力量でいえば、間違いなく学園トップレベルでしょう。
ただ、幼少期からの積み重ねは、簡単に覆せるものではありません」
優しい笑顔をキアラに向けて、尚も続ける。
「まだ今の時期に挽回することは難しいでしょうが、卒業までまだまだ時間はありますから、大丈夫ですよ。
夏休み中も、油断せず努力を続けて欲しいと、思っています」
「……はぃっ!」
キアラの努力を見ていて、評価してくれていることが堪らなく嬉しい。
日頃、魔法兵団では『出来て当たり前』だ。
キアラは、まだ16歳ではあるけれど、王国の魔法使いのトップである魔導六師の地位と、《殲滅の魔女》の称号を貰っている。
だから、どれだけの成果を挙げても、褒められたことはほとんど無い。
この前、元帥閣下が珍しく褒めてくれたくらいだろうか。それも、ひと言「評価に値する」と言っただけで、キアラは喜んでいた。
そんなキアラにとって、目覚ましい成果を挙げた訳でもないのに、頑張った自分を褒めて貰えることは、とっても嬉しい。
言われた通り、夏休みも頑張ろうと決意するのだった。
不本意ながら慣れてきた補習を終わらせて生徒会室へ向かうと、もうみんなは活動を始めているようで、ルーレストしか居なかった。
「……す、すみません、遅くなりました……」
「キアラ君、補習お疲れ様。術式学が赤点になってしまったと聞いたよ。
僕の力不足だね、ごめんよ」
「いぇっ!全く、そんなことはありません!」
勉強不足なキアラが悪いのであって、ルーレストが謝る必要性は、全く無い。
「あれだけ頑張って勉強していたのに。でも、多少は良くなったんだろう?」
「……はぃ、中間テストは、赤点5個だったけど、今回は2個に、なりました」
「それは良かった。頑張ったな」
わざわざ立ち上がってこちらへ来るのでどうしたのかと思ったら、つい、と手を上げ、その手のひらがぽんと頭にのる。
昔、おばあちゃんがしてくれたような、でもちょっと違う手。
ルーレスト先輩の、思っているより大きくて剣だこの目立つ手で頭を撫でて貰えると、ものすごく嬉しくて、頬が勝手に緩んでしまった。
「がんばりました!」
いつも消極的で下を向きがちなキアラだし、そもそも決して誇れるような成績ではない。
でも、自分なりに必死に努力したし、それを支えてくれる人が沢山居た。
だから、今日だけは、キアラはまっすぐに自分を誇りたい。
魔法兵団で魔境任務をこなすよりもずっと、努力したと思っているから。
「……夏休みも、勉強頑張ります」
「うん、そうだね。頑張れ!」
髪を撫でてくれるルーレスト先輩の手のひらが、とても心地よかった。




