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《殲滅の魔女》は虚弱体質 〜魔力無限の最強魔導師ですが、コミュ障なので学園潜入任務はお断りしたいです〜  作者: ことりとりとん


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44.精霊石



 (んー、やっぱり、アシェには仕事の時にもついてきて欲しいなぁ)


 学園では蝶々の姿でずっと傍にいてくれているアシェだけれど、《殲滅の魔女》としての仕事では、そうはいかない。


 周りは魔法に特化した人たちばかりだから、迂闊に見せると正体を見破られる危険があり、精霊だと分かれば研究対象として連れ去られるかもしれない。


 更に、学生キアラがアシェを連れていることはルーレストに知られているので、彼の前でアシェとキアラ・レンツァーが一緒に居るところを見られるわけにもいかない。


 アズーラ中尉にも隠しているので、蝶々のアシェにその辺をヒラヒラされると普通に困る。


 だから、魔導師キアラの時にはアシェについてきて貰うことは諦めていたのだが、前々回の精霊学の授業で良いことを聞いたのだ。


 それは『精霊石』のこと。


 ルーレスト殿下のヴィルヘルムが、黒い石のペンダントから出てくるように、精霊は魔石を住処にできる。


「じゃが、魔石ならなんでも良い、というわげではないぞ。

 属性はもちろん、その精霊の階級に見合った大きさで、さらに精霊本体と感性が合う石でなければならない」


 お家探しと似たようなものだとしたら、好みも色々とあるだろう。


 アシェは水の精霊なので、水属性の青い魔石を用意すればいいはず。

 ヴィルヘルムの黒い魔石はキアラですらあまり見たことがないけれど、青はよく見る。


 大きい魔石があるかは分からないけれど、キアラは魔獣討伐数歴代1位らしいので、多分取れるだろう。

 でも、アズーラ中尉に理由を聞かれると困るので、まだ調達出来ていないのだ。

 アシェのことを隠したままで、魔石を貰えるちょうど良い言い訳がほしい。


 色々と考えてはいるけれど、術式学の時間なので一旦保留しよう。


「よし、授業始めるぞ〜。

 今日は魔石の活用法についてだ。

 魔石に術式を刻むことで、魔石に含まれる魔力を使って魔法を行使できるようにする手法だ。

 通常詠唱とは違って使用者の魔力量に関係なく行使できるが、魔石の魔力を使い切るまでしか使えない。

 そのため、使い捨てになってしまうのがデメリットだな。

 それを再装填できるように作られた物が魔法陣だが、維持に魔力がかかるため、運用出来る人間は限られる。

 つまり、魔石を使うのは魔力がかなり少ないが、魔法を使いたい人だな。

 又は、魔法陣では維持の魔力がかかりすぎるほど強力な魔法を込めたい時。

 お前らが使うことはあまり無いだろうが、魔石加工はカネになる。小遣い稼ぎとしても、覚えといて損はないぞ」


 最後の方は若干生々しい話が入ってきたが、キアラが魔法兵団で見たことない理由が分かった。

 単に要らないから無いだけだ。


 (……ってことは、この前の王子様は魔力があんまりないってことか)


 防音魔法を使うのに、魔導具を使っていたのはそういう理由か、と今更納得がいった。


 (でも、この授業は良かった!

 これを言い訳にすれば、アシェが使う用の魔石を確保出来るかも!)


 その週末、早速アズーラ中尉に聞いてみた。


「……ぁの、術式学で、魔石加工っていうのを、習ったんです。

 私も、やってみたくて……。魔石、貰えたりしませんか?」


「レンツァー師が魔石加工ですか?

 そんな仕事、学生か新人にさせておけば良いとは思いますが」


 魔法兵団において、魔石加工の地位は低いらしい。


「……でも、練習したい、です。

 大きい魔石が、欲しいです」


「大きな魔石はそれ自体が貿易用の外交資源ですので、大きな物を今すぐに確保というのは難しいでしょう。

 しかし、小さなものであればご用意できます」


「……じゃあ、お願いします。ぁの、水属性が、いいです」


 アズーラ中尉が持ってきてくれたのは、キアラの小指の爪ほどしかない、気を抜いたら見失いそうなほど小さな宝石だった。


 ルーレスト先輩のヴィルヘルムの石と比べてあまりにも小さいので、きっとアシェには小さすぎるだろうと思いながらも受け取った。


「アシェ、魔石もらってきたけど、どうかな? 小さすぎる?」


「これ? ちいさいよ! 壊れてもいいの?」


「うーん、多分良いと思う」


「じゃあ、ちょっと、入ってみる」


 女の人の姿だったアシェがくるんと宙返りをして蝶々の姿になり、魔石に入ろうとしたけれど、耐えきれなくて石が割れてしまった。


「やっぱり、むりだよ? ごめんね」


 割れた石を薄青い手のひらに乗せて、アシェが申し訳なさそうに見上げてくる。


「大丈夫。アシェの魔力に耐えられるくらい大きい魔石、探してくるね」


「うん。石があれば、存在が、安定する、らしいよ。ヴィルが、言ってた」


「そうなんだ」


 新しい情報に、魔石を集める意欲も上がる。

 それに、アシェがどこでヴィルヘルムと話したのか、少し気になる所だ。

 でも、人には聞かれたくないことがあるように、精霊にもきっとあるだろうから、アシェが言ってこない限りは黙っていようと思う。


 翌日。


「すみません、魔石が小さすぎて割れちゃいました。もっと大きなのはないですか?」


「やはり、レンツァー師の魔力に耐えられませんでしたか。

 でしたら、魔石を取りに行きましょう!

 今までの分は軍に納めていましたが、本来新規獲得の魔石は採取者に権利があります。

 これから採ったものは、レンツァー師の好きなようにできますよ」


「そうなんですか! じゃあ、行きますよ!」


 前までは嫌々行っていた魔境任務も、最近ではかなり積極的に行くようになった。

 やはり、人間らしい暮らしをして、きちんと学ぶということは大切だな、と思う副官だった。



 それからしばらくして。


「……疲れていないのですか?」


 既に4拠点で周辺討伐をしたというのに、キアラはまだまだ元気そうだ。


「大丈夫です! 良い魔石、出ましたか?」


「水属性の最上ランクが2個出ていますから、充分ではありませんか?」


「んー、もうちょっとだけ、集めましょう。

 アズーラ中尉は、疲れてたら、先に帰っていいですよ」


 普通、魔境での活動では非常に消耗度が高いと言われる。魔境の魔力が作用するとか、生気を吸われているとか色々と説はあるが、『魔境ではとても疲れやすい』これは誰もが納得する事実。


 の、はずなのだが。


 虚弱体質で有名なキアラ・レンツァー魔導師は、まだまだ元気に討伐を続けている。

 ただ後ろに立っているだけのアズーラ中尉はもうへとへとで動けなくなっているというのに。


 帰っていいと言われても、小さな女の子がまだ討伐を続けるのに、はいそうですか、とは帰れない。

 軍人以前に、男としてのプライドがある。


 もう1拠点を周り、水の最上ランク魔石をもうひとつ手に入れる様を、少しぼーっとしてしまいつつも、気合いだけで見守っていた。


 (……あれ、アズーラ中尉、体調悪いのかな。じゃあ、帰った方がいいか)


 一方、一人で戦っているキアラは特に疲れて居ないが、後ろに控える副官の顔色が真っ青になっていることには気づいたので、帰ることにした。


「……ぁの、今日は、これでお仕事終わりにしますから。

 アズーラ中尉も、おうちでゆっくり、休んでくださいね」


「いえ、大丈夫です」


「絶対大丈夫じゃない顔してますから、帰ってください」


 魔境の魔力にあてられて瀕死になっているアズーラ中尉を無理やり帰らせ、自分もアシェの待つ錬金塔に帰るのだった。


「アシェ、魔石取ってきたよ。どれか、好きなのあるかな」


「きあら、ありがとう。見せて見せて!」


 アシェの薄青い手のひらの上に乗せてあげると、ひとつひとつ光に透かすように丹念に観察している。


「これが、いいかも」


 くるりと宙返りをして蝶々の姿になり、すぃっと吸い込まれて行った。


「……改めて見ると、凄いね」


 人間と同じ姿になれるとはいっても、やっぱり違う生き物なのだと痛感した。


「きあら、これがいい!」


 余程気に入ったのか、魔石を握りしめたまま離さない。


「分かった。他のはどうする? 要らない?」


「んー、今は、要らないけど。もし、石が割れた時のために、これは、置いといて欲しいかも」


「じゃあもう一個予備に置いといて、あとの一個は返すね」


「うん! きあら、ありがとう」


 キアラは簡単に魔石を確保したが、普通なら何年もかかって探すものだ。

 一人では討伐出来ないし、7人がかりで倒した魔石は権利も7分割される。

 お金には置き換えられないほど価値のある魔石を自分のものにするためには、かなりの努力が必要なのだ。


 (でも、この魔石、どうしようかな……)


 この石が気に入ったアシェは早速魔石の中に入って出てこなくなったので、手元でころころと転がしながら考える。


「存在が安定する、って言ってたからそれはいいんだけど、結局持ち歩きにくいのは変わってない気がする……」


 蝶々よりは目立たないだろうが、原石のままでは持ち歩きにくい。

 ルーレストのようにペンダントに加工したいが、秘密裏に頼める相手の当てなどない。


「仕方ない、とりあえずこれに入れとこ」


 机の引き出しから出したのはキアラお気に入りの巾着袋。

 昔むかし、おばあちゃんが作ってくれた物だ。

 安い布だし、薄汚れてきているので綺麗ではないけれど、お花の刺繍がしてあって、蝶々のアシェにぴったりだと思った。


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