43.side:ルーレスト
ルーレスト・フォン・ガレスは、ガレス王国国王の正妃・ラフィーアヌの次男、そして王国の第3王子として産まれた。
兄は王太子のレオンハルトで、6歳年上。持って生まれたカリスマ性があり、人望が篤い兄を見て、『兄のようになりなさい』と周りの皆に言われて育ってきた。
兄の事は尊敬していて、いつもああなりたいと思って努力している。
初等学校の頃から常に学年1位をキープし続け、でもそれは当然だから、それ以上の成果を、と求められてきた。
それに思う所が無いわけではないが、自分への期待の証だと思って努力を続けた。
順風満帆な人生のはずだったのに、高等科へ進んだ頃から、身近な所で事件が立て続けに起こるようになる。
始めは、領地へ馬車で帰っている時に突然馬が暴走したことだった。
次は、領地で外出していた時の巨大な落石だ。
誰かが意図して起こせるものではないと言われつつも、偶然にしてはあまりに出来すぎている気がしてならなかった。
両方とも領地で起こった事件なので、実家の誰かが小細工をしたとしか考えられず、家族とも徐々に距離を置くようになる。
そして迎えた新学期。
精霊学の授業が一緒になり、流れで互いの精霊を見せることになったキアラという1年生は、何が、とはいえないのに何かが気になって仕方がない。
その後、学園の新歓パーティーで、彼女の精霊が自分のグラスにとまった時は、何かされるのが不安で、結局飲まなかった。
全部、自分の考えすぎで、何も無いのかもしれない。ただの偶然かもしれない。
けれど、『暗殺』の二文字が、脳裏から離れてくれなかった。
実家には疑いの目を向け、かと言って学園で気を許せる相手もおらず、常に暗殺に怯える生活。
精神的に追い詰められている時に、右手の甲に『勇者の証』が現れた。
(何故、なぜ僕に? 兄上が、勇者なら良かったのに……!!)
いくら擦っても消えてくれない、勇者の証。
幼少期から絵本で見て憧れていた証は、現実に自分の手に浮かべば酷く恐ろしいものに思えた。
しかも、自分は暗殺者に狙われている身だ。
誰にも見つからないよう、手袋をして誤魔化すことにした。
実家の家族も、一緒に活動する生徒会のメンバー達も、信用出来なくて疑心暗鬼を拗らせてしまう。
武闘大会も、予選で負けようかと何度も思った。もしくは、体調不良で休もうか、とも。
だが、幼少期から常に『兄のようになれ』と言われて来た自分は、相手が何であれ逃げることが許せない。
だから出場し、何事もなく1位を取れたが、エキシビションマッチで事件は起こった。
生徒会の1年生コンラート・エルデが魔族に操られ、有り得ない威力の攻撃を受けたのだ。
そのただならぬ雰囲気から、暗殺者の仕業ではないと思って、勇者の力を初めて使った。
効果は劇的では無かったものの、多少は有効だったのか、偶然も作用して結果的には死ななかった。
しかも、魔族に操られた友人を救った勇者と称えられ、国民の心理を安定させたい国王陛下がすぐにそれを宣伝した。
どこへ行っても勇者と呼ばれ、学園内でも落ち着かない。
王族の責務として、国民の声に応えはするけれど、勇者として何もしていないのに称えられるのは、重圧でしかない。
(兄上が勇者なら、良かったのに)
もし兄上なら、エルデに対抗出来ただろう。
自分のように偶然に頼らずとも、正面から魔族を打ち倒していたに違いない。
だから、自分もそうならなければ。
王宮はどこに敵が潜んでいるか分からないので、勇者の力の訓練は学園で行う。
それも訓練所を長時間使うなら申請が必要なので、空いている所を見つけて少しづつ練習を重ねる。
どこに敵が居るか分からないので、なるべく痕跡を残さないよう慎重に動いていた。
更に、勇者の相手は魔族だけでは無い。
自分は王子でもあるので、政治家にも対抗出来なければならない。
だから、少しでも功績を挙げ、立場を強くするのだ。
外交は自分の分野なので、隣国の使節団を歓迎するパーティーではいかに良い関係を築けるかに焦点をあてる。
相手との間柄が良ければ、成果はおのずと付いてくるから。
だが、急に空気が変わった。
エルデの時と同じ空気で、すぐに魔族だと分かったので身構える。
まだ、勇者の力は万全ではない。
扱いきれていないし、覚醒しきってもいない。
そんな不確かな力を、皆が見ている王宮のパーティーの場で使うことがとても怖いけれど、自分は勇者なのでやらねばならない。
ルーレストが覚悟を決めるより前に、魔族からの攻撃が飛んできた。
咄嗟に迎撃しようとするが、その前に、目の前が結界で覆われた。
ガレス王国が誇る魔導六師《殲滅の魔女》キアラ・レンツァー師の結界だ。
あまり表舞台に出てこない人なので顔は見たことがないが、自分より年下の女の子なのに既に魔獣討伐数は歴代1位。
自分を庇う背中はとても小さいのに、覆う結界はあまりに強い。
過大な魔力放出が起こっているようで、全身が揺らめくような気がする。
レンツァー魔導師が魔族に応戦し、しばらくの後に魔族は撤退して行った。
(僕は勇者なのに、何も、出来なかった)
残ったのは、その無力感だけ。
だが、レンツァー魔導師があの小さな背中で守ってくれなければ、自分は魔族と戦えただろうか。
いくら考えてみても良い未来は想像できなくて、そんな自分が嫌になる。
せめて、礼を言わねばと思ったのに、見つけたレンツァー魔導師には隣国レスティスの王子シシュトが付き纏っていた。
それだけ魔族が怖かったのだろうし、守って貰いたい気持ちは分かるが、少女の後をつける青年の構図がどう見えるか考えた方がいい。
「話はこちらで聞きますよ、シシュト王子」
彼女はきっと助けなんて必要ないほど強いだろうけれど、せめて僕が得意な外交の場では、彼女を守りたい。
そうして王子と牽制しあっているうちに、またレンツァー魔導師を見失ってしまった。
だけど。
(僕は、僕に出来ることをしよう。
レンツァー魔導師は、素晴らしい術者だった。
あれだけの魔法を維持した上、魔族を撃退するなんて。
本当は彼女が勇者なんじゃないかと思うような成果だ。
でも、彼女に守られるだけではいけない。
僕が勇者なのだから、いつか、彼女を守れるくらいに強くならければ。
それには、まず勇者の力をもっと扱えるように訓練が必要だ。
いつか、レンツァー魔導師のように、なる)
確かな目標が出来たことで、ルーレストは更に努力し、訓練するようになる。
それは、自分を守ってくれた、憧れの彼女に少しでも近づくために、必要なことだから。




