4.入学時試験
とにかく今1番大きな問題は魔力測定機を壊さないようにすることだ。
(どうしよう〜。アシェと話が出来たら、「全力で魔力を食べて!」って頼むのに……)
(きあら、どしたの?)
(えっ!?)
アシェとは普段、普通に話をしているし、念話で伝わるとかいうミラクルは起こっていないはずだ。
(今、きあらと、あしぇ、とっても近い。ちょっとだけ、おはなしできる)
なるほど。
キアラの帽子に止まっているアシェとは、人間の姿では不可能なほど近くに居る。
その効果が出ているということだ。
(あのね、アシェ。あそこに魔法の石があるでしょ? あれに私が近づいたら、めいっぱい魔力を吸って欲しいの。
そうしないと、漏れ出す魔力で壊しちゃうから)
(ん〜? きあらの魔力、ぜんぶ、あしぇのもの。いつでも、ずっと)
キアラは知らなかったが、アシェが精霊の姿を持って契約してから、ずっとアシェはキアラの魔力を吸い続けている。
アシェが近くに居れば、魔力が漏れ出すことはあまり無い。
(じゃあ、大丈夫なのかな。
でも、あんまり長く触っていて、ちゃんと計測されたらそれはそれで困るよね。一瞬触るか触らないか、くらいにすることにしよう)
アシェとの話が終わってキアラが一安心した頃、一人目の試験が始まった。
「コンラート・エルデ、魔力量78。実技に移りなさい」
女教師にそう言われた少年は、的の前まで進み出て長い長い呪文を唱えてから、炎の球を生み出した。
『弾けろ、炎っ!』
「おお〜っ」
生徒たちから歓声が上がったので、きっとあれは凄いことなのだろう。
でもキアラにとってはまた難しい問題が出されたも同然だった。
(えっ、あんなに小さい魔法にしなきゃいけないの!?)
そもそもキアラは魔法の練習なんてした事がない。
「えいっ」と言えば勝手に出るものだし、言わなくとも勝手に出てしまうこともあるくらいだ。
それを魔境で乱れ打ちするだけなので、威力をコントロールしようとしたことがない。
どれほど威力を絞ればあの大きさの火の玉になるか、分からなかった。
それに加えて、師匠の言葉を思い出す。
『アヒャヒャヒャ、お前の魔法は本当に大きいねぇ。普通、魔境では、魔法の威力は3分の1ほどになる。
逆に言えば、お前が王国内で魔法を使えば、魔境の3倍の威力が出るんだ。
自分の魔法で死にたくなけりゃ、きちんと覚えておくんだな』
ヒョロガリ白衣がウネウネ動く気味の悪い姿もついでに思い出してしまったが、アドバイス自体は役に立つ。
いつもの3分の1の魔力でいつもと同じ。
それよりももっと小さくしようと思ったら……。
(もうこれ以上出来ないくらいに小さい魔法にしよう)
キアラはそう心に固く誓う。
成績が悪いのは別にいい。
ただ、自分の魔法で周りを傷つけてしまうことだけが怖かった。
「次!」
色々と考えている間に、もうキアラの番が来てしまった。最初の少年以外ろくに見れていないが、もうやるしかない。
「魔力測定を」
女教師に言われて魔導具に手をかざす。
(触らないように、ほんのちょっと、ちょっとだけ……)
意識したおかげで、手のひらが魔石を掠めるくらいに出来た。
「キアラ、魔力量75。実技に移りなさい」
魔力量75。
最初の少年よりは低いし、何より魔導具を壊さなかった。
よし、OK。と自分に甘めの判定を出しつつ実技の的の方へ行く。
キアラは知らないが、魔力量70と言えば軍属魔法使いの合格基準だ。
まだ15歳で、これからの3年間でまだまだ伸びる余地のある子どもの値としては破格。
コンラート・エルデは天才と名高いのに、それに匹敵する魔力量を見せつけたことになる。
「……ぇぃ」
そうっとそうっと、ほんの少しの魔力だけで魔法を使う。
今まで一度もやったことのない小細工をした魔法は。
ぽすっ
気の抜けた音をたてて少し煙が上がっただけだった。
「受験者キアラ、無理に短縮詠唱にしなくても良い。魔法を行使するように」
教師の厳しい言葉に焦る。
というか、これで判定してくれても良かったくらいなのだが、失敗したと見てリトライさせられるらしい。
「……とぉっ」
ぼふっ
さっきよりは多めの魔力を込めたつもりだが、それも失敗してしまう。
火の玉を出したいのに、出たのはやっぱり煙だけ。
教師の厳しい視線はそらされないので、まだ続けさせたいようだ。
(ええい、もう仕方ない。いつも通りやろう。
アシェ、もしも他の人に被害が行きそうなら、全部魔力を吸ってね!)
(うんっ!)
他の人の前で普通に魔法を使うなんて、一人では怖くて怖くてとてもじゃないが出来ない。
でも、暴発した魔力をアシェが吸ってくれるなら、キアラは魔法が使えると思う。
「……ょぃしょっ!」
いつも通りに使った魔法は、魔境よりも大きくなるはずなのに、むしろ小さくなった。
威力としては半分くらいで、一人目のコンラート・エルデよりは少し小さい。
「ええっ!?」
エルデの時は皆が期待して見ていたから歓声が上がったが、さっきから何度も失敗しているキアラがこんなに大きな魔法を使えるとは誰も思っていなかったから、上がったのは驚きの声だった。
(……よしっ!)
でも、キアラは他人からどう見えるかを気にする余裕なんてない。
誰にも怪我をさせず、恐怖の目で見られていない。悲鳴が上がらなかった。
それだけでおっけー!と、またまた自分に甘めの判定を付けた。
だが、現実はそこまで甘くない。
「ねぇ、キアラちゃん! あなた凄いじゃないの。詠唱をしないって、短縮詠唱が使えるって事だったのね!」
「……ぅぅ」
試験が終わったので先程の講堂に戻る途中、早速カリナに声をかけられた。
「キアラちゃんなら、学年一位を狙えると思うわよ。一緒に頑張りましょうね!」
何だか知らないが、仲間意識を持たれているようだ。
でも、キアラはどう返事をしていいか分からず黙り込んでしまう。
「おい、お前! どこの中等科の出身だ!」
いきなり真後ろから怒鳴りつけられて、怖くなったキアラは咄嗟にしゃがみこんでしまった。
「あのねぇ、エルデ君? あんたと違ってキアラちゃんは繊細なのよ? 女の子に怒鳴るなんて、どんな教育を受けてきたのかしら」
何も出来ないキアラの代わりに隣のカリナが返事をしてくれる。
というか、どうも二人は知り合いみたいだ。
「ふん、平民風情には分からんだろうな。だが、主要な学園の中等科にも、魔法塾にも居なかったのにその成績だ。どこの出身者か、気になるだろう」
カリナと二人で話しているので恐る恐るキアラは顔を上げた。エルデ、と呼ばれたのはキアラが試験の参考にした一人目の少年だった。
「何とか言えよ」
キアラに突き刺さる視線は、よく言えば向上心に溢れた、悪く言えばプライドが高そうなもの。
(ああ、そういうこと)
キアラはその視線に覚えがあった。
軍に入ってすぐの頃、小さな身体のくせに魔境で活躍するのが気に食わない連中のなかで、特に負けん気の強い人から浴びせられたのと同じものだ。
キアラが魔導六師の座と《殲滅の魔女》の称号をもらう頃には突っかかってこなくなったが、それまでは面倒だった記憶がある。
そして、キアラができる唯一の対応方法は。
(逃げるが勝ちっ!)
尚も喧嘩を続けるカリナとエルデ君を放置して、すさささっと足を速める。
庇ってくれたカリナにお礼も言えないのが申し訳ないが、キアラには対応しきれない。
「おいっ!」
少年の声を背中に受けながら講堂へ向かうしかなかった。




