37.魔獣の活発化
武闘大会の週最後の授業、精霊学を終えて、翌朝まで待たずにキアラは魔法兵団へ帰還した。
今週は、生徒らを心配する家族が多かったので、休日まで待たずに前夜に帰る人が多かったようで、あまり目立たず済んで良かった。
「……ただいま、帰りました……」
ようやく慣れてきた自分の執務室へ行くと、1週間前とは比べ物にならないほどやつれたアズーラ中尉が出迎えてくれた。
「……大丈夫、ですか……?」
「はっ、レンツァー師にご心配おかけし、申し訳ありません。自分は非常に健康です」
とても健康的とはいえない顔色でそう言う姿に、申し訳ないが笑ってしまう。
「……すみません……大変でしたよね……?」
「正直にご報告申し上げますと、とてつもなく大変でした」
「……ぅう……すみませんでした……」
キアラ相手には上官扱いしなくなっていたアズーラ中尉がここまで言うのだから、武闘大会事件の後始末は余程大変だったのだろう。
以前お礼にと渡した錬金部特製『本当に効果のあるハーブティー』の『疲れがちょっとマシになる』のゴミが机の上に散らばっていたので、また買って来ようと思う。
しかし、魔王復活に伴って魔獣の動きは非常に活発になってきている。
魔獣討伐を今日中にするためにわざわざ放課後急いで帰ってきたので、雑談もそこそこに魔境へ向かう。
「……結局、魔族の攻撃、だったんですよね……?」
普通の魔法使いは、魔法を使うためには詠唱が必須なうえ、危険な魔境任務に必死だ。
だから、討伐任務中に呑気にお喋りなんて出来ない。
だが、キアラは魔境を何とも思っていないしヒマなので、隣で立っているしか仕事のないアズーラ中尉と楽しくお話が出来る。
少し前のキアラは、なるべく人とは関わりたくないと思っていたし、魔境任務に副官が付いてくると聞けば絶対に任務を拒否しただろう。
だけど、今では楽しくおしゃべりができる。
人間、変われば変わるものだな、としみじみ思う副官だった。
「しかし、魔境の魔獣は日に日に勢力を増しています。正直に言って火力が全く足りていないので、レンツァー師の威力が羨ましい限りですよ」
「……そぅ。大変ですね……私の魔法も、魔法陣にできればいいのに」
「それが出来れば苦労はしませんが、維持するだけでどれだけの魔力がかかるか。
それなら火力にまわした方が良いですし、現実的ではありませんね」
あくまでも夢物語として聞く副官だが、キアラは最近色々と勉強しているのだ。
魔法陣学の授業以外でも、自分のローブに縫い止めた魔法陣は理解しようと頑張って解読した。
「……魔力を維持するための、別の魔法陣を、組み合わせて、作れませんか?」
複合魔法陣、という単元をこの前習ったのだ。
詠唱破棄を実現するために、使いたい魔法の他に、トリガーとなる魔法陣を組み合わせるものだった。
「複合魔法陣ですか? 何を複合するおつもりで?」
火力不足に悩む魔法兵団の団員としては、興味津々の話題だ。
「……ぇっと、私の魔法が、次に帰ってくるまでの一週間だけ使えて、持ち運べたらいいんですよね?
だから、大きな魔法陣に、魔力維持専用の魔法陣を付ければいいんじゃないかな、って思うんです。
きっと、すっごく沢山の魔力が必要だと思いますけど、魔法を込めるのが私なら、別に問題ないと、思いませんか?」
「なるほど。新たな知見をありがとうございます。早速、装備部へ行ってきてもよろしいでしょうか」
キアラが返事をする前に、アズーラ中尉は行ってしまったので余程早く実現したいのだろう。
キアラのローブの魔法陣を作ってくれた、アズーラ中尉の兄が装備部の魔法陣部門の責任者だそうなので、彼が行けば話は早いだろう。
だけど、副官が居なくなったキアラは一人で討伐任務の続きをすることになった。
今まで一人にしてくれと頼み続けていたのに、今では一人は寂しいとすら思っているなんて、勝手なものだな、とか考えつつ討伐を続ける。
魔法兵団は魔境に12拠点を構えているが、いつもキアラは一拠点しか行かない。
20人ほどでする仕事なので一人で一拠点なら充分すぎるほどの成果なのだが、最近のキアラはかなりやる気があるのだ。
具体的に言えば、大切な友だちが沢山いるこの王国を守りたいと願っている。
だから。
『キアラ・レンツァー、第11拠点周辺討伐終了しました。応援要請あれば受けます』
いつもならさっさと帰るのに、まだ行くよ、と初めて自己主張をしたのだ。
それに驚いたのは兵団本営。
通信手は一瞬聞き間違いかと思ったほどだ。
だが、いつもなら一方的に切られる通信がまだ繋がっている。
『応援要請、第5拠点へ』
猫の手も借りたい魔法兵団にとって、願ってもない連絡だったので、すぐさま行き先が決められる。
『了解』
討伐のために、生徒会にも行かずに帰ってきたのだから、とやる気満々のキアラは、その後またもうひとつの拠点へも行った。
3拠点同日討伐という偉業をまたひとつ成し遂げたがそんな自覚は全くなく、それでも満足気に帰還するのだった。




