32.異常すぎるエキシビション
そして迎えたエキシビションマッチ。
初戦はエルデ対ルーレストだ。
ルーレストは、1年生決勝のエルデの相手、ノーマン・ブライトほどではないが魔法構築が速い。
いくらエルデが天才でも、特大火魔法の詠唱が終わるよりもルーレストが攻撃を仕掛ける方が速いだろう。
なので、決勝の時のように剣に炎を纏わせて突撃するかというのが大方の予想だったが、それを裏切って、試合開始と同時に詠唱を始めた。
「□□、弾けろ炎っ!」
「速いっ!」
エルデの大火球が、ルーレストへ向かって一直線に飛ぶが、あまりにも魔法構築が速すぎる。
キアラ並の速度があり、こんな芸当ができるのなら王国魔導六師に選ばれる、というレベルだ。
とてもじゃないが、魔法学園の学生が使う精度ではない。
だが、火魔法が来ること自体は予想していたルーレストは、かなりのダメージを負いながらも間一髪の所で躱した。
しかし、ルーレストが詠唱に入る間もなく大型の風の刃が迫る。
(やっぱり、変だ。エルデ君は火魔法特化型。風魔法は不得意だし、あんなに大きな魔法は撃てないと思う)
予想外の攻撃に対応しきれず、一方的に押されるルーレスト。
いくらエルデが『天才』と名高いとしても、不自然としか言えない。
そもそも、大火球の短縮詠唱も、大型風魔法も、今日の試合では一度も使っていないし、授業中の予選でも見ていない。
エルデは使えるものは全部使う主義で、出し惜しみをするタイプではないのに、この大型魔法の連打は絶対に異常だった。
それにはルーレストも気づいているようで、無理に攻撃詠唱はせず、防御に専念して状況把握に努めている。
そして、絶対に避けられないほどの密度で大火球が襲来した時、ルーレストが天に手を翳し、同時に手の甲が眩い程に光り輝いた。
その瞬間、ルーレストの動きは完全に変わった。
足さばきの素早さを増し、ひとつひとつの魔法の威力も見るからに上がっている。
エルデの異常な魔法に対して、迎撃出来ているのだからその威力は凄まじい。
今まで防戦一方だったのが、多少なりとも反撃出来るようになっているので、その違いは一目瞭然だった。
急にルーレストの動きが格段に良くなり、観客から戸惑う声が上がる。
エルデもルーレストも、学生同士のエキシビションマッチの枠を越えた、ある種異様な戦いを繰り広げているのだ。
だが、キアラはそれよりもずっと激しい嫌悪感に苛まれていた。
エルデに感じた違和感は、いつもと違うというだけで嫌だとは思わなかった。
しかし、謎の力を発動したルーレストには、本能が警報を鳴らしているかのような、壮絶な嫌悪感を覚える。
そんなキアラの症状に、誰も気づかないまま試合は進む。
謎の力を使ったとはいえまだルーレストは劣勢なままで、逆にエルデの調子はどんどん上がっていく。
試合開始直後は、大火球の行使に多少の詠唱をしていたが、今ではほとんどしていない様子。
それはあまりにおかしなことなので、スカウトのために来ていた軍の面々がざわつき始める。
だが、キアラは何故かどんどん体調が悪くなるのでそれどころではない。しかも、結界を維持するだけのはずが、激しく魔力が吸われている感じがする。
中で使われる魔法の威力が上がると維持に必要な魔力は増えるが、それにしたって限度がある。
何もかもが、異常という他ない状況だった。
そして、健闘するルーレストに対して、ますます調子を上げるエルデが迫り、何も見えなくなるほどの高密度大火球がルーレストに降り注ぐ。
それは、王国内トップの火力を有するキアラですら、行使するのにかなりの神経を使うような、それはそれは大規模な魔法だ。
当然のごとく、避けられるようなものではないのでルーレストに直撃し、大幅にダメージが加算される。
『勝負あり! 勝者、コンラート・エルデ!』
異常続きとはいえ試合である以上、勝利宣言さえすれば終わり、と皆が思っていたのだが、そうはならなかった。
攻撃終了すべきエルデは、まだ詠唱を続けているのだ。
『コンラート・エルデ! 試合終了!』
叫ぶ審判役の教師の声も届いていないかのように、なおも魔法の行使を続ける。
結界の効果はライフがゼロになっても続くので、怪我をする心配はないがそういう問題ではない。
教師達が結界の外で慌ただしく動き始めるが、試合中は不正防止のために中に入れない仕様だ。
そして、今結界を解除したら、エルデの超火力がルーレストを直撃し、命の危険がある。
教師たちも手を出しあぐねている最中。
バリンッッ!!
「結界がっ!!」
あまりの魔力に耐えられなくなった結界が大きな音をたてて破れ、皆の悲鳴が響く。
しかも、大きな魔力の揺らぎが起こり、中に居るルーレストがその余波を浴びて意識を失った。
それは、エルデにも分かるはずだ。
結界が破れて無くなったのに、そのまま攻撃魔法を行使すればどうなるか。
小さな子どもでも分かるはずのことなのに、エルデは止まらない。
「□□□□□□……」
教師陣が詠唱を始めるが、迂闊に使うとルーレストにも被害が及ぶし、エルデにも無差別に攻撃していいものでは無い。
咄嗟の判断が遅れるうちに、事態はより悪化する。
「□□、爆ぜろ焔っ!」
エルデが、得意の大火球を行使する。
それも、いつもの規模とは比べ物にならない、キアラが魔境の魔獣に向かって放つような、常軌を逸した攻撃だ。
これが当たれば、どうなるか。
それを誰よりもイメージしやすいキアラは、思わず叫んだ。
「……ルーレスト先輩が!! エルデ君、やめて!」
結界は破れたものの、残りの術式に何とか魔力を送り込み続けていたキアラの声は、反響して周囲に響き渡った。
そして、それと同時にエルデの魔法は瞬時に消滅し、エルデもまた、意識を失ってその場に倒れ込む。
これでとりあえずは一安心、かと思ったその時。
「ぐぁああああ!! □□□□!! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
「……えっ、先生!?」
副審を勤めていたバトルクラブ顧問の教員ガングが、急激に苦しみ始めたのだ。
副審は勝敗の決着が微妙な時にだけ必要とされるので、基本は結界外で待機している。
今もそうだったので、周囲の軍人が不審者として取り押さえようと、一斉に動きだす。
「……ぇっ!?」
しかし、取り押さえるよりも遥かに速く、ガングの身体は灰となって崩れ去ってしまった。
まるでそこには元々誰も居なかったかのように、衣服すら残すことなく消えたのだ。
残されたのは、大きな魔石ひとつきり。
意識を失ったルーレストとエルデ、そして灰となって消えた教師ガング。
異常事態にすぐさま軍が始動し、その場を押さえるために規制線を張る。
もちろん、そのまま試合が続行出来るわけもなく、武闘大会は幕を閉じたのだった。




