30.白熱の試合
順当に団体戦予選が進んで、次は2年生の試合だ。
団体戦用の結界は魔力消費が激しいので、維持者を回復させる為にも一度解除して個人戦を挟む。
それに、団体戦は武闘大会の花形なので分けて試合をする方が観客の熱量も上がるので。
2年生でキアラが知っている出場者はルーレストだけだ。学年1位を譲ったことがない、というのだから、王族の血筋に甘えず、地道に努力するルーレストらしいと思う。
だが、エルデほどの大火力を扱うことは出来ないそうで、雷魔法での攻撃と、素早い回避、合間に打ち込む剣戟と、バランスのとれた戦い方をしている。
というかエルデの火力が、学生としては異常すぎるのだ。
入学時点で魔力量が70を越えていて、しかもその魔力を高い精度で扱いきれるのは、やはり天才と言わざるを得ない。
(……ん?)
なんて考え事をしながらルーレストの試合を見ていたキアラだが、今行われている1回戦の相手に、僅かな違和感がある。
知らない相手だし、どこが、と言われても分からないのだが、何かがおかしい。
(……何だろう。こう……、嫌じゃないんだけど、変、っていうか。
人間っぽくない魔力な感じがするというか……。
そうか、何となく魔境っぽい感じがするのかも。
だから、私が気持ち悪いって思わないのかな)
そうしてキアラは納得したが、冷静に考えれば、いち生徒から魔境の魔力を感じるなど、只事ではないと気づけたはずだった。
だがその相手に対して多少苦戦したもののルーレストは勝ちきり、その後も危なげなくトーナメントを勝ち上がる。
決勝戦ではギリギリの白熱した試合を魅せ、観客を大いに湧かせて優勝したのでキアラもルーレストに全力の拍手を送った。
そして次は、団体戦の続きだ。
キアラの魔力切れを心配したルーレストが、結界拡張のための応援を寄越してくれたので大人しく作業を手伝ってもらう。
もちろんキアラひとりで全然問題はないが、断ったら流石に不審すぎるだろう。
団体戦の決勝は、バトルクラブVS決闘部だ。
ここ15年ほどはずっとこの対戦カードだそうだが、その分互いのライバル意識も強くかなりの盛り上がりを魅せるので、観客の期待も大きい。
キアラとしても、決闘部はイヴ・アズーラが、バトルクラブはルーク・ウェブが総大将を務めているので期待が高まる。
どちらも尊敬する生徒会の3年生の先輩だから、どちらか一方を決めて応援するのは難しい気持ちなので、両方を応援しようと思っている。
キアラの周りで見ている観客は、かぶりつきの席をキープするだけあって、かなり武闘大会に情熱を燃やしている人々だ。
なのでその話を聞いているだけで、キアラも情勢に詳しくなれるのでお得だ、と喜ぶ。
ちなみにキアラは結構耳がいいのでこういううるさい場所でもそれぞれの話し声を正確に聞き分けられる。あんまり活用しないけどこういう時には便利だよね、程度のものだが。
今年のバトルクラブは『焔の剣戟』ルーク・ウェブを筆頭に、炎、雷、風と対人性能の高い攻撃メインのパーティーを組んでいる。
中・近距離で剣や槍を巧みに使い、重い一撃を狙う、近接重視の火力編成だ。
対する決闘部は、『水の囁き』イヴ・アズーラが中心のパーティーだ。
イヴは支援向きな水属性を使い、しかもメインの武器は剣でも槍でもなく水の触手というレアな戦闘方法を使う。
ちなみに本人曰く、『お兄ちゃん達に勝とうと思ったら、剣では無理だもの。こういう搦手なら、勝ち目があるんだよ!』ととても楽しそうに話してくれた。
なので土属性の支援使いをもう一人入れ、支援魔法と相性のいい風属性2人がメインで攻撃する遠距離重視のパーティーだ。
近接ゴリゴリの火力パーティーと、遠距離でバフ・デバフ祭りのジワジワ系パーティーが真っ向からぶつかる。
両者共に実力者揃いなので、観客席の勝敗予想も大いに盛り上がっている。
『試合、始めっ!』
その掛け声と共に一斉に走り出すバトルクラブパーティー。
距離が遠くなるにつれ、精度も威力も落ちるものなので、決闘部の最初の詠唱が終わる前に一気に距離を詰めようという算段だ。
だが、決闘部もそうはさせない。
イヴの水の触手が足元を絡め取り、デバフをかけ始める。キアラの場所からでは遠くて効果までは分からないが、鈍化のデバフだ。
近接で武術を使うバトルクラブとしては、足の重さは命取り。だからこそイヴも初手で鈍化のデバフをかけたのだ。
だが、デバフがかかった所で気合いで動け! というのがバトルクラブ。
デバフ効果は触手から離れれば比較的すぐに消えるのだから、とにかく触手を切り捨てて先へ進もうとする。
そして、触手に足を取られながらも詠唱が終わった雷が、
『□□□□□□……奔れ、雷っ!』
決闘部の頭上へと降り注ぐ。
だが決闘部もさすがの運動神経で躱し、多少のダメージを受けつつも反撃に出る。
そこからは色とりどりの魔法が入り乱れ、キアラの良い目でも追うのがギリギリの接戦が繰り広げられた。
団体戦でもダメージ計算は個人に対して行われるので、被弾が多い者から強制退場になる。
バトルクラブのウェブ以外の3人をどうにか倒したものの、決闘部も前衛攻撃の風使い2人が脱落。
残りメンバーは2人居るものの後方支援組だけだが、イヴの本領発揮はここからだった。
本来彼女は個人戦でも有力な優勝候補となるほどの使い手だ。
団体戦では後方に控えていたが、それは温存と同義。
長い試合の中で多少の疲れが見え始めたルーク・ウェブに、イヴの触手の鞭が迫る。
ウェブも剣で応戦するが、さすがに二対一では押し負けてしまい。
『勝負ありっ! 勝者、決闘部!』
「わぁああっ!!!」
大歓声の中、勝敗は決したのだった。
「……すごい、すごいね……っ!」
手に汗握る大興奮の試合に、キアラも大満足で感動した。
いつもは仲良く仕事をしていても、いざ戦いとなると全てを尽くして相手を攻め続ける姿勢が、とても格好いい。
見応えのある試合にキアラだけでなく観客席全体が大熱狂していて、実力伯仲の接戦を語りまくるのだった。
見どころであった団体戦は決着がついたが、武闘大会はまだまだ続く。
次の種目は3年生の個人戦で、団体戦に出場した選手にとっては連戦となるが、その不利を感じさせないさすがの動きに、また観客は魅了される。
「……イヴせんぱーい! が、がんばってくだしゃぃっ!」
キアラは目立つのが嫌いだし、大きな声を出すことは本来とても苦手だ。
それでも周囲の熱量にあてられて、大声でイヴを応援するくらいの大盛況。
しかも、イヴの試合を見るために、アズーラ中尉はかなり頑張って前の方の座席をキープしている。
あれだけ来て欲しいと言っていた兄が観戦しているとあれば、イヴもヤル気になるというもの。
それを見ているキアラも、(やっぱり呼んで良かったな)とひとり満足げだ。
だが、試合の結果は気合いでは決まらない。
決勝戦はやはり優勝候補筆頭のウェブ対イヴになったが、この2人の気迫は他を圧倒して郡を抜いていた。
特に、団体戦で負けたウェブの執念は尋常ではない。
『試合、初めっ!』
「□□□□□……爆ぜろ、焔っ!」
試合開始と同時にウェブの炎が弾け、それにイヴの触手が応戦する。
先程の団体戦とは違い、今度はウェブが遠距離から爆撃を仕掛け、イヴが触手で防御しつつウェブに迫る試合となった。
「せんぱーい、がんばってー!」
楽しくなったキアラは柄にもなく大声で応援して、出場していないのにまるで一緒に戦っているかのような気持ちになれる。
『勝負ありっ! 勝者、ルーク・ウェブ!』
「うぉぉおおおお!!!」
大きな雄叫びと共に勝利宣言がなされ、団体戦で敗北を喫したウェブが、個人では勝利した。
(いいなぁ、武闘大会! めちゃくちゃ盛り上がるし、超楽しい!
出れないのが嫌だと思っていたけれど、全然そんなこと無かったな。来年も、結界維持係がいい)
キアラは呑気に楽しんでいるが、実際の所、今日は部外者も立ち入りできる日なのでいつもより厳重に護衛すべきなのだ。
キアラが目をキラキラに輝かせて試合に釘付けになっている様子を逆サイドの観客席から見ながら、来て良かったかもしれない、と思うアズーラ中尉だった。




