26.イヴ先輩
エルデとウェブの勧めで、生徒会室で勉強するようになったキアラ。
キアラの座学は誰がどう見たって激ヤバなので、先輩方が教えてくれるのが本当にありがたい。
(それに、一人で居るよりもここの方が楽しいかも……)
元々キアラは村育ちで、多くの人と一緒に生活してきた。
魔力暴走で周りを傷つけるのが怖くて距離をとってきたけれど、みんなの輪の中に居ること自体は好きなのだ。
それに、お喋りな方ではないけれど、他の人の話を聞くのは大好き。
今日はルーレスト殿下とアズーラ先輩が居る横で勉強している。
「あれ、会長。夜会でもないのに手袋してるって珍しいね」
「うん、たまにはね。ちょっと手荒れが激しくて」
「王族でも手荒れとかするんだ? 水仕事なんてしないでしょ?」
「生きてれば手が荒れることもあるよ。錬金術系統の授業も取ってるし」
なんて、些細な会話を聞き流しつつ勉強するのは、最近のキアラのお気に入りだ。
「で、キアラちゃんは今日は何やってるの?」
「……ぇっと……魔法陣学を……」
「そうなんだ。私のお兄ちゃんが魔法陣めっちゃ得意なんだよね〜。大丈夫そう? 教えてあげよっか?」
アズーラ先輩はキレイ系なのに姉御肌で、何かとキアラの面倒を見てくれる。
「……ぁの、ここが、分からなくて……アズーラちゅうっ、、、、アズーラ先輩、教えて欲しいです」
「ん? いいよ、ここはね……」
キアラが噛んだのは気にせず解説してくれているが、内心冷や汗ものだった。
(危ない、あやうくアズーラ中尉って呼んじゃう所だった……!)
最近は毎週末魔法兵団に帰ってアズーラ中尉に勉強を教えて貰っているので、ついついそう言ってしまうのだ。
しかも、この二人は切れ長なアメシストの目がそっくりだから、余計間違えそうになる。
中尉に先輩呼びするのはまだしも、学園内で間違えるのは大変なので何とかしないと。
「て、いう感じ。どうかな? この練習問題、やってみて」
アズーラ先輩に言われた通りに練習問題をすると、今聞いた話だからちゃんと分かった。
「うんうん、キアラちゃん結構出来てるじゃん! その調子で頑張ろうね」
アズーラ先輩が元気よく励ましてくれると、キアラも益々やる気が出る。
「……ぁの、アズーラ先輩、イヴ先輩って、呼んでも、いいですか?」
キアラとしては致命傷を避けるための苦肉の策としての提案だったが、アズーラ先輩はとても嬉しそうだ。
「ええ〜! いいの〜!? 嬉しいんだけど! ぜひ呼んで!」
「……ぇっと、イヴせんぱい……」
「きゃー!かわいいー!」
「うぐぅっ」
女性にしては鍛えられた身体で急に抱きつかれると、キアラはひとたまりもない。
そんな二人の様子を見ていたルーレストがひと言。
「ふぅん。副会長はイヴ先輩なのに、僕は『殿下』って呼ぶワケ?」
「……???」
イヴ呼びは対策のためのつもりだったが、キアラの予想以上に喜んでもらえた。
日々勉強を教えて貰っているし、これからもお世話になる先輩達が相手だから。
「……ぇっと……ルーレストせんぱい……?」
王族の名前なんてどう呼べば不敬にならないのか知らないけれど、本人が呼べと言うのだからきっと良いのだろう。
それに、不敬どころか呼ばれた本人はいたく満足げだ。
呼び方ひとつでこんなに喜んで貰えるのならいいか、と考えるキアラには、人見知りの仔犬が懐いてくれた先輩達の嬉しさは、分からないのであった。
そして中間テストも迫り来る頃。
武闘大会も近づいて来ているので、今日は生徒会の活動日だ。
「久しぶりに皆集まってくれてありがとう。
テストが終わればすぐに武闘大会があるから、今日はその概要を説明しておこうと思っているよ」
武闘大会は剣も魔法も何でもアリな、戦闘狂のための大会だ。
与えた攻撃は緩和された痛覚が発生するだけで怪我はせず、その威力に応じてダメージ計算がされてゼロになれば負け、という分かりやすいルールだ。
そのための結界維持も生徒会の仕事らしいので、キアラの膨大な魔力を活かすチャンスかもしれない。
「個人戦はトーナメント方式で、まず各学年16人まで、魔法実習の授業内で予選を実施して選抜する。
当日は本戦のみの実施だ。
学年別に順位を出して、最後に各学年の1位がエキシビションマッチを行う。
団体戦は4人1組の自由エントリーで、クラスやクラブ、友人同士でも応募できる。
放課後に予選をして32組まで減らすから、その統括も生徒会の仕事だね。
生徒会は総合運営をするけど、もちろん出場していいから。個人戦でも良い成績を出せるように、期待しているよ。
特に軍に就職したいなら絶好のアピールの機会だから、3年生だけじゃなく1年生の2人も頑張ってね」
ルーレストにそう言われて、キアラは俄然やる気になった。
最近まるでいい所がない自分でも、戦闘であればきっといい結果を残せるだろう。
「そうよね、私たちにとっては最後の武闘大会だもの。ウェブ、今年こそは負けないわよ」
「当たり前だ。俺とお前で優勝は1回ずつだから、今回勝った方が真の勝者だ!!」
3年生のイヴとウェブは既に熱く燃えている。
「今回最後だから、お兄ちゃんにも見に来て、って言ったんだけど、やっぱり忙しいから無理なんだって」
「お前、毎年それ言ってるよな。魔法兵団なんだったら忙しいだろうから無理言うなよ」
「ん〜、そうなんだけどねぇ」
「本当にお前は兄貴が好きだよな」
「そんなんじゃないんだけど!」
じゃれるように言い合う二人の話を聞いて、キアラは考える。
(イヴ先輩の兄はアズーラ中尉だから、来てもらえるんじゃないかな?
きっと当日は武闘大会だから待機しておこうと思ってるんだろうけど……。
アズーラ中尉への命令権は私が持ってるんだし、イヴ先輩のために、来てもらおうっと!)
これだけお世話になっている先輩のためだから、とキアラは色々画策するのだった。




