23.王宮秘密会議
就業時間はとうに過ぎて、よほどの残業を抱えた者もほぼ帰った後の王宮で。
二人の男がしかめ面で向かい合っていた。
「キアラ・レンツァーの任務は、概ね予定通りに遂行されているようだな」
ベルクフォル元帥は、アイスブルーの鋭い瞳を目の前の男に向ける。
「まあそうですな。レンツァー師の部下、アズーラ中尉へ自ら接触したということですから、良い傾向と言えるでしょう。
此度の任務は、護衛だけでなくレンツァー師自身の教育も兼ねております。
魔法兵団に所属するのに必要な学習を進められているものと考えます」
その突き刺さるような視線を意にも介さず、グライナー魔法兵団長は話を続ける。
「それに、生徒会に入り、護衛対象のルーレスト殿下への接触を増やせたのは、レンツァーにしてはよくやった方だと思います」
「そもそもルーレスト殿下の暗殺を企てている者が誰なのか、特定はまだ出来ぬのか?」
さっきまでより数段鋭さを増した視線がグライナー団長に刺さる。
「はい、全く掴めておりません」
そもそも、ルーレストは第3王子で、第1王子と同じ、正妃の息子だ。
現王には妃が3人いて、子供が4人いる。
第一妃の子供は第1王子と、第3王子ルーレスト。
第二妃の子供は女の子で王位継承権が低い。
そして第三妃の子供が第二王子だ。
王位継承権を巡って狙われるとすれば、相手は第1王子になるのが筋で、第3王子ルーレストを狙っても何のメリットも無い。
その上、第三妃の実家は暗殺など企てていないと明言しているのだ。
もちろん言葉だけを信用する訳にはいかないが、何もかもが不自然極まりない状況だからこそ、キアラを護衛に付けたのだ。
キアラならば、年齢的に学園に入学しても全く不自然でないし、護衛に慣れた者特有の動きや雰囲気も全く無い。
しかしいざとなれば戦闘力があるので守ることは出来るだろうと見なされている。
「ふむ。そう簡単に掴めるとは考えておらぬが、引き続き調べるように。
また、魔王復活の神託と、勇者の出現についても調査が必要だ。
特に、勇者はガレス王国にとって魔王に対抗する生命線。早期に確保するよう」
「はい。もちろんです」
「キアラ・レンツァー魔導師が王国防衛に必要であれば、学園任務から離すことも可能だが、如何する?」
アイスブルーの瞳が挑発するようにキラリと光ったのを見て、グライナー団長は威嚇を強める。
「小娘一人、欠けたところで揺らぐほど、魔法兵団はヤワじゃありません。
レンツァー師に頼り切りでは、魔法兵団の名が廃るというものですよ」
「それならば、当面はこのまま続行させるとしよう。しかし……」
ベルクフォル元帥はアイスブルーの瞳の奥で考えを巡らせる。
魔王復活の一報を聞いた時には、キアラ・レンツァーが勇者かと考えたのだ。
だが、調べれば調べるほど不自然さが際立つ。
過去の文献によると、勇者は魔王復活の報と共に出現し、それまではごく普通だったという。
それに、無差別に大規模攻撃を出来るわけではないので、毎回部隊を編成して魔王討伐に向かう。
勇者は、確かに魔王に対する唯一の対抗手段だが、逆に言えば魔王以外の敵に対して万能ではない。
しかも、勇者の力に目覚めると勇者の証が右手の甲に浮かぶ。
キアラ・レンツァーには証は確認されていないし、証がないのにあれだけ無敵の強さを持つのは説明がつかない。
そうした諸々の文献記述を考慮すると、キアラ・レンツァーが勇者だとするには少しばかり不自然にも思える。
(だが、それもいずれ分かることだ)
ベルクフォル元帥は自らの頭の良さに自信があるが、それでも世の中には考えてわからないことが沢山あることもよく理解している。
(だからこそ、どうなっても王国を守れるよう、万全の体制で望まねばならない)
強い決意に、アイスブルーの瞳が光った。




