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《殲滅の魔女》は虚弱体質 〜魔力無限の最強魔導師ですが、コミュ障なので学園潜入任務はお断りしたいです〜  作者: ことりとりとん


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12.絶望的



 しかも、結果的には午前の座学の方がまだマシだったのだ。

 午後は基礎体術で、それはそれは絶望的だった。


 団長を思い出すようなムキムキマッチョな先生が言うには、

「体術は、戦場での全てに直結するっ! いかに魔法が上手くても、敵に接近出来なければ意味が無いっ!

 体術、体術、体術こそ全てえぇっ!!」

 だ、そうだ。


 キアラは後方大砲ポジオンリーなので体術を使ったことは無いが、団長や剣聖はそれはそれは素晴らしい戦闘をするらしい。見た事はないけれど。


 素振りも摺り足も出来ない、どころか走ることすらままならないのはキアラ一人だった。

 しかも、キアラは所定の距離を走りきれずに道半ばでぶっ倒れてしまった。


「キアラちゃん、大丈夫?」


 男女別なので一緒に走っていたソフィアが、ゴールしてから戻ってきてキアラを抱えあげようとしてくれる。

 しかし腕力的に無理だったので、先生を呼んできてくれた。


「おうお前、体力が無さすぎるぞ!

 そんな体では、軍での活躍など夢のまた夢!

 体力を付ける所から始めろっ!」


 熱血筋肉馬鹿ではあるが、無理はさせないだけの常識はあるので今日の所はキアラを休ませてくれた。


 キアラは《殲滅の魔女》として活躍しているが、それは魔境の転移陣周辺の限られた場所での戦果だ。

 軍としては魔境の戦線維持こそ至上命題なので、キアラの魔力に釣られて来る魔獣を一掃すれば良いという考えだ。

 しかし、機動力があるに越したことはないだろう。


(……体力も、付けなくちゃ)


 キアラは、学校に来るまで自分が有能だと思っていた。

 それは魔導六師に選ばれたし《殲滅の魔女》の称号もあるからそう思っていたのだが、自分が思っていたほど有能ではないのかもしれない。


(……がんばろ)


 もちろん任務優先ではあるが、今のところ第三王子が暗殺されそうな予兆はない。この学園全体を強力な結界が包んでいるので部外者が忍び込むことも難しい。


 しかも、護衛対象に近づくことすら出来ていないので元帥閣下には怒られそうだが、余裕があるという意味では自分のための勉強のチャンスでもある。


 自分はぶっ倒れてしまったのに、クラスメイトはまだまだ授業を続けているのを見ながら、キアラは頑張ろうと決意した。





 次は待ちに待った選択科目なので、錬金室に向かう。昨日の学校案内の時に、この部屋だけは意識して覚えたのだ。


 広い部屋に設備が大量にあって、キアラがいつも居る師匠の部屋とはだいぶ違うが、錬金塔にもこういう部屋はある。

 大勢で共同で使うタイプだ。


 そして、全く授業について行けなかった午前中とは打って変わって、気難しそうでぶっきらぼうな先生の話は全て分かった。

 器具の扱いや基本材料の話だったので、キアラはいつもしていることだからだ。


(改めて、私って偏りが激しいなぁ)


 そんな考えごとをする程度には、余裕があった。


 その授業後に、基礎材料と部屋の設備を使わせてもらうために先生の所へ行く。

 ちなみに他に必要な材料はまとめて荷物に入っていたので、また部下にお礼を言わなければならない事が増えた。


「レンザから聞いている。設備の説明は必要か?」


 いかにも研究者然とした初老の男性は、必要最低限の問いをキアラに投げかけた。


「……ぃぇ」


 レンザというのはキアラの師匠のことで、師匠もこの先生に錬金術を習ったと聞いた。

 話は通しておく、と言われていたがあまり信用していなかったのだが、意外とちゃんと連絡してくれていたようだ。


 作業に戻った先生の後ろでぼーっとしていたら、鬱陶しそうに錬金釜の方を指さされた。


「邪魔だ」


 話はあれだけで終わりなのか。

 人間嫌いのキアラとしては助かるが、この先生もキアラに負けず劣らず人間嫌いだな、と思う。


 というか、この学校の先生に普通の人は居ないのか。

 キアラの生まれた村での先生といえば、教会の司祭様だった。

 優しく温和で子ども好きな先生が暖かく見守ってくれる、という雰囲気しか知らないキアラにとって、ここの先生達はかなり異質だ。


 なんてことをつらつら考えている間に、手に馴染んだ作業は終わった。

 点滴と薬草ビスケットを来週の分まで作れたので、しばらくは安心できる。


 チラッと先生の研究室を覗いたら真剣に作業中だったので、声を掛けずにそっと帰った。




「で、キアラ。どうするの?」


 点滴と食事が終わってから、カリナの部屋にお邪魔していた。

 カリナは平民とはいえ貴族の母を持てるほどの豪商の娘なので、キアラの部屋よりもずっと設備が充実している。

 本も一通り持たせてもらっているので、こちらにキアラを呼んだのだ。


 キアラとしても、薬品ばかりの自分の部屋に入られてカリナに点滴のことを知られるのが嫌だったのでちょうどいい。

 先輩達とソフィアは受け入れてくれたけれど、毎日点滴が必要だなんて普通じゃないこと、隠せるものなら隠しておきたい。


「……ぅう」


 どうする、なんて言われても、それが分かればここまで絶望していないと思う。


「私の本を貸してあげるわ。初等科や中等科の頃のものを、念の為持ってきていて良かった。

 私はもうほとんど要らないから、しばらく持ってていいわよ」


「……ぁありがとう」


「それでも、本を読むだけで全部理解するのは難しいと思うわ。

 私も教えてあげるけど、他に誰か教えてくれそうな人、居ないの?」


「……ぇと……ソフィア、ちゃん……?」


 キアラにとって、カリナ以外の誰かといえば、唯一名前を挙げられるのがソフィアだ。


「そっか、キアラの寮のペアだもんね。学年5位だし、レミトラ魔法学校の中等科出身の秀才よ。私でも名前を知ってたくらいなんだから、座学はソフィア・シュタールさんに聞いた方がいいかも」


 2人でソフィアを探しに行くと、先輩のラウラと放課後活動の話をしている所だったので、カリナと2人で話に混ぜてもらうことになった。


 クラスメイトとはいえ話したことのない相手とスムーズに話すカリナのコミュニケーション能力は見習いたいものだ。


「ねぇ、せっかくだから、キアラちゃんとカリナちゃんも、一緒の所へ行ってみない?」


 ソフィアがそう誘ってくれるのは嬉しいのだけれど、二つ返事で喜ぶ訳にはいかないキアラは少し考える。


 この学校のカリキュラムは少し早めに授業を終わり、夕方に各自必要な活動をできるようになっている。

 その活動は本当に様々な種類があって、冊子に載っているのは学校に申請している団体だけ。

 水面下の団体はどれだけあるのか分からない、らしい。


 だが、キアラは曲がりなりにも任務中だ。

 人の流れが変わる放課後は、授業中よりも暗殺に向いている。護衛の必要性も高まるはずだから、その時間帯は空けておくべきだろう。


「……ぅうん、ゃめときます。勉強、しなきゃ」


「そうそう、シュタールさん。キアラの座学レベルがかなり低いね、って話なのよ。詠唱学どころか、基礎魔法理論から始めないといけないくらい」


「そうなの。あんなに魔法が使えるのに、どうして?

 でも、座学に関しては、聞いてもらえたら答えられることも多いと思うわ」


「……ょよろしく、ぉねがぃします……」


 頭のいい友だちが居て良かったな、と思う反面、相当頑張らないとヤバいぞ、と脳裏の元帥閣下に睨みつけられた気分のキアラだった。




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