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俺の親友が異世界へ行くらしい  作者: 音無響一


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002.忍び寄るモノ

「タダシ君よ、俺らは裸足だしなんの用意もしていないんだ。トイレの心配は二の次だろ?まずはこの後どうするか考えないとじゃないのか?」


「バカ言ってんじゃねぇ!今なんだよ!してーんだよもうすでに今!」



こいつは本当に⋯⋯⋯⋯


緊張感の欠片も無いのか。



「その辺でしとけ。見ないでやるから。周りの警戒は任せろ」


「は?なんで見ないんだよ。見てしろって言ったろ」


「見るわけねーだろ!さっさとしろ!」


「いやする!もはやソウちゃんにかけるくらいの距離でする!」


「なんの宣言だ!お前のションベンなんて浴びたくねえよ!」


「ションベンじゃねーし!」


「もっとダメだわ!」



親友にする相手を間違えたのかと思うくらい殺意が芽生えてしまうんだが。───その時だった







「お前ら人族か?こんな所でなにしてる。ここが獣人族の支配してる森と知らんのか?」



ギャーギャー言い争っていると不意に声を掛けられる。


二人で声の方向に顔を向ける。


気配なんて感じないし物音すらしなかった。


こんな鬱蒼と生い茂るジャングルで物音一つさせずに接近できるってどういうことだ。


身の危険を感じ緊張感が走る。


背中に冷たい汗が流れるのを感じる。


タダシ君もそうだろう。



「じゅ、獣人きたあああああああ!」


「え、何言ってんの?」



違った、全然緊張感なんてなかった。



「ソウちゃん獣人だって!やっぱりここは異世界なんだな!やったぜ!」



引っぱたきてぇゑゑゑゑゑゑゑゑ!


なんて能天気なんだ。


殺されるかもしれないんだぞ?



「異世界?どういうことだ?お前らはどこから来たんだ?それにその格好は人族でも見たことない格好だな」



言葉が通じるのが不思議だが、今はそんなことを考えてる場合じゃない。


ここをどう切抜けるかが問題だ。


獣人と言えば身体能力の高さは俺たちの何倍もあるだろう。


走って逃げるなんてまず無理と思った方がいい。


どうする、どうしらいい、なんて答えればいいんだ。



「うぉぉ!ケモ耳、ケモ耳だよソウちゃん!本物だよな、すげー!」


「な、なんだお前は、ケモ耳?なんの事だ?変なやつだなお前は」



獣人もドン引きしてるじゃないか。


こいつには遠慮とかないのか。


そもそも警戒心すらないじゃないか。


ちょっとは危機感ってものがあるはずなのに、あいつの危機感はどこいったんだ。



「ま、まてよタダシ君!無警戒に近づくなよ!」


「むりむり、こんなファンタジーなこと目の前にして興奮を抑えられるわけねーじゃん!」


「な、なんなのだお前は、やめ、やめろこいつ!俺の耳に触るな!」



うわぁ、まじで触ってるよ。


もしかしてそんなに怖くないのか?


獣人は身長はそんなに高くない。


俺とタダシ君は身長180cm位だ。


対する獣人は身長170あるかどうか位だろう。


見た目は虎のような雰囲気の耳としっぽをしている。


顔は人間とほとんど変わらない雰囲気だ。


上半身は裸だが、思ったより毛むくじゃらな感じはしない。


少し体毛が濃いかな?位だ。


言うなれば耳としっぽが本物なだけの人間って感じだ。


俺とソウちゃんみたいなヒョロがりな感じではなく、体格はとても筋肉質だ。


見るからに強そうではある。


そんな強そうな獣人をタダシ君が翻弄している(ただ耳を触ろうとしてるだけ)



「うおおお、しっぽまであんぞ!」


「ひいっ!目が、目が怖い!やめ、ちょ、本当にやめろ!や、やめて!やめてください!」



あーあ、獣人が泣きそうになってるじゃないか。


もしかして弱いのか?


それともタダシ君が頭おかしすぎて混乱の極みか?


嫌がってるみたいだし、とりあえず止めておくか。



「おいタダシ君、その辺にしとけ。嫌がってるだろ」


「え、まじ?嫌だったのか、すんません!」



やめてって言ってたの聞こえてなかったんかこいつは。



「はぁはぁ、み、身の危険を感じるとは思わなかったぞ⋯⋯⋯⋯」



ぐったりしちゃってるじゃん。


なんでこの獣人は抵抗しなかったんだろうか。


とっても優しい獣人なのか?


謝罪して現状を伝えるしかないだろ。


危なくなったらタダシ君にまた頑張ってもらうとしよう。



「大変失礼しました。俺達はどうやらこの森に迷い込んでしまったようで⋯」


「どういうことだ?お前らはどこの国の人族だ?」


「俺らは日本から来たんだぜ!」


「ニホン?聞いたことない国だな。怪しすぎるぞお前ら」



やっぱりおバカだこいつは⋯⋯⋯


なんで本当のこと話してんだよ。


異世界なんだから日本なんて分かるわけないだろが。


余計怪しまれるだけって思わないのか。


ここは俺が話すしかないだろう。


次にタダシ君が口を挟んたら止めないとだな。



「我々の住んでいた大陸には獣人族がいなかったので、恐らく違う大陸から強制的にこっちに飛ばされた可能性があります」


「はぁ?ソウちゃん何言っ────?」


「タダシ君は黙ってろ!」


「お、おう、わかった」


「お前らはこの大陸の人族じゃないってことはわかった。だが強制転移なんて聞いた事ないな。この森は獣人族の聖域だ。人族が居ていい場所じゃない」


「俺達もここに来たくて来たわけじゃないんです。すぐに出るので、森の出口を教えてもらってもいいですか?」


「おいソウちゃん、こんなチャンスないぞ?なんで出る────」


「いいから黙ってろ!」


「お、おう。怖いぜソウちゃん⋯⋯⋯」



なんのチャンスだよ。


下手したら殺されるかもしれないのにチャンスもクソもないだろ。


ここを穏便に切り抜けなきゃ俺達に明日はないんだぞ。



「お前らは怪しいが、獣人族に危害を加えようとしてる訳じゃないんだな?」


「もちろんです!さっきこいつがしたのは、獣人が初めてで珍しかったからなだけなんです!」


「なるほどなぁ。よしわかった。それじゃあ────」



腕を組み、獣人はじっと俺たちを見据えた。


森の静寂が、やけに重くのしかかる。


俺たち、ほんとに生きて帰れるんだろうか。




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