83 パーティです③
「そういえば・・・・・」
私は、ふと、ある事を思い出し、フェイト様に声をかけた。
「どうした、アイリ嬢」
「いえ、ミリーネ嬢の姿が見られないのですが」
そう。
身分的には、もう出席していないといけないはずのミリーネ嬢の姿が、ここに見えないのだ。王太子殿下が来るのであれば、彼女もここに居ないといけないはずなのに。
「ああ、その事か」
フェイト様は一つ頷き、
「彼女は、後から来る」
とだけ言った。
後から?
疑問符を頭の上に浮かべてフェイト様を見つめると、
「彼女は、ジルベール家の馬車で来る手筈になっている」
と、言葉を続ける。
なるほど。
そういう事か。
ジルベール家と言ったら、ミリーネ嬢の家の寄り親の寄り親と言っていたか。
ミリーネ嬢が、そのジルベール家の養女になる事を、このパーティで知らしめようという訳か。着々と、ミリーネ嬢が王太子殿下の側室になる計画は進んでいるという訳か。
側室になる事は発表できない。
が。
匂わせる事は出来る。
という事か。
「王太子殿下とミリーネ嬢の噂は、学院では有名なのですか?」
「王太子殿下の動向に目を光らせない学生は、居ないだろうな」
そりゃ、そうか。
という事は、全課程の学生は、ミリーネ嬢がジルベール家の馬車から降りて来た時点で、王太子殿下との婚姻の話が進んだと推測するのか。
「ミリーネ嬢も、下手に下級貴族の様な振る舞いは出来なくなりましたね」
「心配あるまい。こと、淑女教育に於いて言えば、君などより、よほど優秀と聞く」
「そこは、ぐうの音も出ませんね」
ミリーネ嬢が、普通に淑女として華を開かせているのに対し、私はと言えば、すぐにぼろが出るような、付け焼刃の淑女にしかなっていないのが現状なのだ。
「まぁ、そこが君の魅力ではあるのだろうが」
「おや、婚約者様を放っておいて、口説きに来てますか?」
「まさか。婚約者様の目の前で、と言うか、たとえ隠れてでも、そんな事をする訳がないだろう」
フェイト様はそこで言葉を切り、
「俺は、君の事を、槍働きでしか見た事が無い」
と、そう言い切った。
それはそれで、腹立つな。
私は僅かに眉を顰めた。
中身はおっさんではあるけれど、見た目はものすごい可愛らしい、女の子なんだぞ。私の理想を詰め込んだ、とびきりの美少女なんだぞ。
「なんだ。女性として見られたいのか?」
「それは、お断りです」
認めて欲しいのは、美少女と言う点だけです。
性的なアプローチはノーサンキューです。
「面倒な女だな」
面倒で、良いですよ。
心はおっさん、外見は美少女だなんて、面倒以外の何物でもないんだから。
ただ、
「見た目を褒められないのは、私としては、癇に障るというものなんですよ」
そう正直に言うも、
「男も女も、中身だよ」
そう言われて、返す言葉がなくなった。
はい、正論ゴールです。
そんな。
私が言葉を返せなくなっている所を見て、
「あら、アイリ嬢は可愛らしいでしょう?」
ジュリーネ嬢が助け舟を出してくれる。
が。
フェイト様も、アイゼン様同様、くそ真面目な眼鏡だった
「俺には、シェリーが居る」
ああ、そうですか。
お熱いことで。
という所で。
パーティ会場にざわめきが起こった。
フェイト様がポソリと、
「ああ、来たな」
と言う。
果たしてざわめきが起こったそこには、レアノーラ嬢と、彼女をエスコートする男性の姿が見えた。
二人は、真っ直ぐにこちらへと歩いてくる。
近付き、そして、
「待たせたな」
と、アイゼン様とフェイト様に、男性はそう言った。
男性は、多分初見だな。
近くに居るジュリーネ嬢に、
「どなたですか?」
と聞くと、
「ミルト・ヴァン・モーリー・フェルニス様。フェルニス侯爵家の次男。王太子殿下の側近候補で、レアの婚約者様よ」
そう教えてくれる。
王太子殿下の側近という事は、彼もまた、攻略対象なのだろう。
イケメンだし。
だが。
彼もアイゼン様やフェイト様と同様、婚約者であるレアノーラ嬢の事しか見ていないように見えた。
だって。
レアノーラ嬢の腰に手を回して、彼女に甘く微笑んでいるから。
リーズディシア嬢。
ミリーネ嬢が攻略対象を魅了して回ったって、ガセなんじゃないの?攻略対象者の方が、ビジネス優しさを見せただけなんじゃないの?
これは、リーズディシア嬢が、ゲームの設定とやらを信じ切って、勘違いを発動させたとしか思えないのだが。
後で確認を取ってみよう。
そんなことを考えていると、ミルト様は私の姿を見つけて、レアノーラ嬢と共に近寄ってきた。
「やぁ、ジュリーネ嬢」
「こんばんは」
「こんばんは。隣にいる方は、見かけない顔だが、噂に聞くアイリ嬢で間違いが無いかい?良ければ、私にも紹介して頂きたいものだが」
私はその問いに、
「アイリ・ジル・アイリーン・ストーンです」
短く、そう答えた。
そこで、おやっと思う。
言ってはなんだが、私の顔は学院中に広まっていると思っていた。
だが、このミルト様は、私の事を見ない顔だと言って、名前を確認してきた。どういう事なんだろうか。
と、思っていると、
「彼、勉強の虫でね。あまり噂話には興味を示さないの。貴女の名前を知っていただけでも、貴女はかなりの有名人だと思って良いわ」
ジュリーネ嬢が、そう説明してくれた。
なるほど。
そういう人も居る訳か。
なるほど。
なるほど。
活躍したと言われ続けて、顔を誰もが知っていると思い込んで、私は天狗になっていたのか。
恥じるべき事だ。
そして。
感謝すべき所だ。
うん。
謙虚になろう。
と、私が自身について考えていると、サロンの入り口がワッと沸いた。
見るに、リーズディシア嬢とミリーネ嬢を連れた王太子殿下が入ってくる所だった。
「さぁ、パーティの始まりだ」
アイゼン様が、ポツリとそう言った。
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