82 パーティです②
アイゼン様に連れられていった先には、ジュリーネ嬢、シェリアエル嬢、アムレット嬢と、その婚約者、そして、取り巻きの女性たちが揃っていた。男性もちらほら。当然、フェイト様も居る。
そんな中をアイゼン様は進んでいき、
「連れて来た」
と、アムレット嬢にそう言った。
「お疲れ様です、アイゼン様」
アムレット嬢が寄ってきて、アイゼン様の手を取り、労いの言葉をかける。
そして私に、
「よくお越しくださいました、アイリ様」
と、そう言った。
皆の視線が、私に集まる。
胡散臭そうに見る女性や、期待に満ちた瞳で見つめる男性など、男女構わず、私を見る目は様々だった。
まぁ、先の戦争の件も知れ渡っているのだろう。
好意的な視線が多かったが。
あと、胡散臭そうな視線は、私が新参者の、出自もよく分かっていない娘だと知っている人か。
それならそれで、理解できなくもない。
私はというと、澄ました顔でアムレット嬢の手を取りながら、
「お誘いいただき、ありがとうございます」
そう、感謝の意を言葉にした。
これは本心だ。
出自を疑われているからこそ、どこかのコミュニティに参加していないと、こういうパーティのような場になると、ボッチが確定してしまうのだ。そのコミュニティが、私と友人関係を結んでおけと王妃様から言われている娘たちなら、心配は要らない。
王妃様の淑女教育の場でも、仲良くさせてもらっている、と思っている。
自然と、良いように取り計らってくれるだろう。
「あら、来たのね、アイリ」
ジュリーネ嬢も、そう声をかけてくる。
「ええ、来ちゃいました」
紳士淑女の卵の団欒の場に、戦う事しか能の無い、血まみれの女が。
それを言うと、ジュリーネ嬢は小さく微笑んだ。
「貴女、今日はしっかりと淑女の卵をしているわよ」
「そうですかね」
「そうよ」
自分なんて、霞んで見えるほど、と、ジュリーネ嬢は言う。
まぁ、見た目だけは、ね。
「大丈夫ですよ、アイリ様。私たちが見張っていますから」
シェリアエル嬢も、そう言って話に入ってきた。
もうこうなってしまえば、取り巻きたちは、自分たちのリーダーが認めのだと、私の存在を納得するしかなくなってくる。
場が弛緩した。
「それは、心強いですね」
「もっと崇め奉っても良いんですよ」
「ちょっと、シェリ―」
ジュリーネ嬢がシェリアエル嬢を窘めるが、
「良いじゃない、ジュリー。私がアイリ様に敵う所なんて、人脈位しか無いんだから。少しは良い所を見せたって」
シェリアエル嬢は、そう言ってジュリーネ嬢に言い返した。
仲が良いんだな、相変わらず。
おじさん、ほっこりするわ。
といったところで、私は一人足りない事に気付いた。
「あの、レアノーラ嬢は?」
「あぁ、あの娘ね」
「あの娘は、こういう場になると、いつも遅いんです」
「婚約者様が侯爵家の後取りだから、侯爵家の時間で来るのですよ」
なるほど。
と、いうことは、だ。
侯爵家と同等と言われる辺境伯家の娘である私は、
「早く来過ぎた?」
「まぁ、早く来ても、学生のパーティだから、それ程問題視されないわよ」
それなら良かった。
「王妃様の耳に入ったら、その辺はきっちりと修正されるでしょうけど」
あかんやつじゃん。
王妃様の耳に入る奴じゃん。
「次にお会いする時は、覚悟を決めて行きますよ」
と、そこに、
「女性だけで話すのではなく、私の紹介もしてもらいたいものだな、アム」
横から、アイゼン様が声をかけてきた。
横にはイケメン眼鏡が立っている。
「ごきげんよう、フェイト様」
「あぁ・・・・・」
フェイト様は眼鏡の中心を右手の中指で直しながら、端的にそう言った。
そして、
「アイリ嬢には、自己紹介が済んでいるのじゃないのか?アイゼン」
と、アイゼン様に向かってそう言う。
それを、アイゼン様は、
「婚約者様が居るのに、紹介も受けずに話すなんて、私には出来ないよ」
と、そう答えた。
で、そこで私は一つの疑問にぶち当たる。
攻略対象者って、ミリーネ嬢に夢中なんじゃなかったっけ、と。
まぁ、聞くのは藪蛇を出しそうなので聞かないが。
それも、王太子殿下がミリーネ嬢を伴ってやってきたら判る話だ。
とりあえずは、
「その一言で、為人は判断できますね」
とだけ言っておく。
私の見立てでは、ミリーネ嬢を側室に迎えると言っただけで、王太子殿下がリーズディシア嬢に真摯であったように、彼らもまた、婚約者には真摯であるように見える。
多分、それで正解だ。
乙女ゲームの世界とは、また違った動き方をしていると思って良い。
リーズディシア嬢の思い込みだ。
ゴブリン騒動で、ランド卿が亡くなった事からも、それが判る。
「ほう」
アイゼン様が目を細めた。
「君には、私がどう映った?」
「クッソ真面目なチャラ男」
「ぷっ」
私の端的なアイゼン様の評価に、アムレット嬢が噴き出す。
そして、
「アイリ様は、人を見る目をお持ちなのですね」
と言って、コロコロと笑った。
その言葉が、私の推測が正しかったことを証明していた。
優しくアイゼン様の背中に手を回すアムレット嬢の瞳に、嫌悪の色は無い。むしろ、愛情しか見えない。
「良いわよね」
ジュリーネ嬢が、ポツリとそう言った。
そう言えば。
ジュリーネ嬢は、伴侶となるランド卿を喪って、婚約者が見つかるのを待つばかりだったな。
人生を共にすべき伴侶を喪って。
王妃様から紹介された婚約者を待つのみ、か。
どんな気持ちなんだろ。
私には、
「善い人、見つかると良いですね」
「そうね」
そういう会話をするしかなかった。
それに対してジュリーネ嬢は、
「王太子殿下が、直近の部下にしたいと思った方になるでしょうね。ランド様の代わりという訳。傷はあるけれど、私はその方を愛していく事になると思うわ」
と、そう答える。
考え方が、封建社会のそれ、そのものだな。
だが。
あぁ。
私はランド卿の事をよく知らないのだが、この娘は、きっとランド卿の事を愛していたんだな。
そんな言葉だった。
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