79 サイド アイリーン
「貴女が嘆願に来るほど、西は危険な状態なの?」
王妃様のその言葉に、
「はい」
私は短く、そう答えた。
まだ、危険と断定する段階ではない。が、少し話を盛った方が良いと、私の勘は警鐘を鳴らしている。
考えは変わらない。
それ程に、アンザス王国の、ソリスティア教国への使節団派遣は、気になる事柄なのだ。
もし、教国に野心があったら。
もし、秘密裏に騎士団を送り込んでいたら。
この前の東との戦争以上に、不利な状況となる。
いかに我が国が軍事大国であっても、少なくともストーニアだけでは国を守る事は不可能と言っても良い。
意地でも追い返してやると言いたいところだが、これが事実だ。
しかも、だ。
東側で戦争があったばかりで、短期決戦で勝てたとはいえ、全軍を西に回す訳にもいかない。
しかも、しかも、だ。
「リズの造反問題は、どう片を付けるつもり?」
問題は、内側にもある。
そこは、
「現在の、あの子たちの様子を見て頂くしかないかと」
と、答えるしかない。
まぁ、そこに関しては。
その私の苦しい答えに、王妃様は、
「そうね。今のあの子たちの様子を見る限り、リズに造反の意図は無いと思っても良いわね。アウルディールも、獲った魚に餌を与えるという事を覚えたみたいだし」
そう仰せ下さった。
感謝だ。
感謝しかない。
場合によっては造反を考えていた私たちに、そんな言葉をかけてくださるとは。
さすが、としか言えないお言葉だった。
私は視線で王妃様に礼を申し上げる。
そして、
「では、西側の情勢は・・・・」
そう問い直した。
「陛下に謁見をして、直接嘆願されると良いでしょう」
王妃様がお墨付きを下さる。
よし。
これで、準備は整った。
面倒だが、仕方あるまい。
私は臣下の嫁であって、よく言って、有名な西の辺境伯家の一武将だ。国王陛下に謁見するためには、それなりの手順が必要になってくる。
まず、繋がりのある王妃様から攻めてみたのだが。
すっと話が通って良かった。
アイリも居る。
これで、西側は安泰だ。
と、思ったのだが、
「アイリは置いて行きなさい」
王妃様に釘を刺された。
あの娘は、ストーニアにとって、切り札になり得る戦士なのに。
「何故、ですか」
私の、義理の娘なのに。
「あの子は、所謂人質よ」
そう来たか。
アイリを、王国の重要人物として、認定しているという訳か。
「悪いわね、アイリーン」
「仕方ないですね」
本当に、仕方がない。
「増員は五百人、色を付けるから」
「千人ですね。あの娘には、それだけの価値があります」
お解りでしょう?
千人でも、足りないと思えるほど、アイリの存在は大きいのですよ。先日の東での戦争の折、多大なる戦果を挙げ、士気を上げたと聞いております。
そんな士気を上げるような武将は、替えの利かない、無二の存在なのですよ。
だから、手元に置いておきたいのでしょう?
援軍に送る部隊の中に、組み込みたいのでしょう?
にっこりと笑ったまま、私は王妃様にそう訴えた。
王妃様もそれを理解してか、
「分かりました」
と、そう応えてくれる。
「加えて、新たなる回復術師の部隊の運用方法も教えます」
ほう。
「新しい戦術ですか?」
「ええ」
「それは、どのような?」
「私の口からは説明がし辛いので、詳しくはリズから聞いて頂戴」
ほう。
リズが、新しい回復術師の部隊の運用方法とやらを編み出したのか。
あの娘にも、驚かされる事が多い。
小さなころから、あの娘は色んなものを編み出してきた。
天才、という奴なのだろう。
あの娘が考える事だ。根拠があって、実際に効果を発揮したから、王妃様に上奏したに違いない。
一応、
「効果は?」
と聞いてみるが、
「学院の実習で、アイリの部隊を除いたら、それまで中堅どころの成績だった生徒が、軒並み上位に入ってくるほど、効果があったらしいわ」
との答えだった。
「実際に、正規軍でも運用を開始しようと、編成を考え直している所よ」
「それは、興味を引く話題ですね」
とても、興味深い話題だ。
ゴブリン討伐をメインとする実習でも成果を上げているという事は、実戦の場でも役に立つ戦法になり得る可能性は充分にある。
「分かりました」
私は立ち上がり、
「リズに直接聞いてみる事にします」
そう言って、王妃様の下を去る為に一礼をした。
その私に向かって、王妃様は、
「アウルディールがあの娘を離さないから、リズと話したいのなら、アウルディールの後にしてもらえるかしら?じゃないとあの子、機嫌が悪くなるのよ」
そう声をかけてきた。
私は一礼をして、その言葉を了承したと伝える。
そして。
私は王妃様の下を去った。
さて。
王妃様は千の騎士を付けると仰っていたから、実際に西方に送られてくる戦力としては六千が良い所だろう。辺境伯家で用意できる騎士が一万として、西方諸国の総力で二万。二万六千の数字で、アンザスと教国の相手をしないといけなくなった。
負ける、とは思っていない。
が。
辛い戦いになるであろうことは、これで決定となった。中央の応援が来るまでは、下手な戦い方は出来ないだろう。
チュントは。
放置だな。
現状の戦力で対応してもらうしかあるまい。
籠城さえしてしまえば、あそこは、ジリ貧になって撤退をする以外の手段がなくなる。
大丈夫だ。
問題無い。
「アイリは確保できなかったけれど・・・・・・」
将来における守備の目処は立った。
良し、としておこう。
西も東も、戦渦の波の音が聞こえてきている現在、アイリは中央に置いておいた方が都合良いのは、頭では理解している。ストーン家の娘だからと言って、西に縛り付けておくのは、国の為にならない。
そもそも、アイリが王国に忠誠を誓っているかどうかも怪しい。
今はリズの友人として働いてくれているから良いのだけれど。
さて。
王国は、何で報いれば、あの娘の忠誠を買えるだろうか。
せめて、学院で友人知人を作って、王国があの娘の居場所として認定されると良いのだけれど。
王妃様も、それを狙って動いているようだし。
国王陛下に上奏して、王都の人材を、アイリの部下として付けるようにして頂くか。
「アイリが気に入れば、だけど・・・・・・・」
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