77 友達の友達です
さて。
王太子殿下の下を後にした訳だが、これから、どうしようか。
ホムンクルスに念話を使ってもらって、馬車を寄越してもらうのが一番丸いのだが。
と、ホムンクルスを探していると、エルフィン嬢と目が合った。
やっぱり。
居たのね。
馬車が来るまで、彼女と話すか。
リーズディシア嬢抜きで、彼女とも話してみたかったんだ。
私はメイジ・プルを呼びながら、エルフィン嬢の方へと足を進めた。
「エルフィン嬢」
「はい」
「少し、お話しませんか?」
「かしこまりました」
「かしこまるような話は、しないつもりなのですがね」
「そうですか」
エルフィン嬢は、表情を真面目なものから変える事無く、私の目を見てそう言った。
「では、どの様なお話を?」
「リーズディシア嬢の友人として、お互いの事を知るための、実りある話を」
まぁ、今までそういう話をしてこなかったのも、私たちの怠慢なんだけどね。
エルフィン嬢は控え目な娘さんみたいだから、私の怠慢、になるか。
とにかく、リーズディシア嬢の陣営に居る以上、お互いの事を知るために会話を深めておく必要があったのだ。
今。
「良いかな?エルフィン嬢」
「承知いたしました」
エルフィン嬢はそう返事して、サロンの隅に置いてあるソファへと足を向けた。私もそれに倣い、エルフィン嬢に続く。
途中、私は近寄ってきたメイジ・プルに、馬車の用意とお茶の用意をお願いした。
「とはいえ」
と、エルフィン嬢は私に先に座るようソファを促しながら、
「私はリーズディシア様の剣ですので、特に語る事は無いのですが」
そう言う。
ほう。
彼女は、彼女の思う所が有ろうと無かろうと、リーズディシア嬢に盲目的に仕えると言いたいのか。
「左様です」
「なぜ?」
なぜ、人生をかけて、リーズディシア嬢についていけるのか。
死地に残れと命令される事もあるかもしれないのに。
それを聞いた後のエルフィン嬢の答えが、これだった。
「私の望みは、リーズディシア様の手によって達せられていますので」
お腹一杯、食事を摂る事が出来ている。
その恩返しだと、彼女はそう言った。
聞くに、エルフィン嬢の幼少期は酷いもので、幼い頃から貧民街で盗みを働いて生計を立てていたのだそうだ。
常にその日暮らし。
毎日が空腹との闘いだった。
それを救ったのが、リーズディシア嬢なのだとか。
わざわざ、幼いリーズディシア嬢が訪ねて来て、当時の仲間六人を、フェンデルトン領の施設へと移動をさせてくれた。
もちろん、リーズディシア嬢に打算があった事は理解している。
が。
それで救われた事も事実で。
エルフィン嬢は、それからはリーズディシア嬢のために命を張ると決め、魔術の猛特訓をしたのだそうだ。
そこまですることか。
とも思うが。
そこは人間社会、どこへ行っても義理人情は存在するようだ。
「アイリ様も、義理で動かれているのではないのですか?」
「まぁ、それは、そうだけど」
同郷の誼、という義理で動いている部分はあるな。
とはいえ、娘のようで可愛いから、というのも一緒に居る理由になっている。
「リーズディシア様をそのように思って頂ける方が世に出て来られて、私としても嬉しい限りです」
「私の他に、リーズディシア嬢と境遇を同じとする人は居ませんからね」
「前世、でしたか」
リーズディシア嬢、近しい者には全てを語っているのか。
良いんだけど。
頭おかしいとか、思われないのかな?
「俄には、信じがたい事ではありますが、あのリーズディシア様の仰ることですから、嘘は無いと信じております」
あ。
王太子殿下と一緒で、俄には信じられない事なのですね。
「私の事も?」
「ええ」
「では、私の事をどの様に認識していらっしゃるのですか?」
「武力に優れた武将のように見せかけた、老獪な妖怪だと思っております」
妖怪とは、酷いな。
この世界でも居るか居ないか判別しない、物の怪の総称じゃないか。
そんなに警戒する事、ないのに。
「警戒は、していませんよ」
と言って、エルフィン嬢は少しだけ口の端を上げた。
「心強い味方が増えたと、心より喜んでいるというのが本心です」
「それは、本当に?」
「ええ」
エルフィン嬢は微笑んだまま、私の言葉にそう応える。
本当、この娘。
読めない娘さんだね。
苦労してきたんだろうな。
そういう人生を歩いてきたと、エルフィン嬢の固まった笑顔はそう言っていた。
この娘が居たら、リーズディシア嬢は間違った道を歩む事はあるまい。
「なるほど」
私は呟いた。
「なるほど・・・・・・なるほど・・・・・・」
私はその事実を飲み込むために、三度、呟いた。
そして深く息を吸い。
吐く。
そして、
「エルフィン嬢」
私は決定的な言葉を言う。
「リーズディシア嬢を頼みましたよ」
リーズディシア嬢の下を去る、決定的な言葉を。
それに対し、エルフィン嬢は、右の眉を一ミリほど上げて、
「真意をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
と、そう言った。
「実は」
私は彼女の問いに繋がる言葉を紡ぐ。
「王妃様から、リーズディシア嬢と距離を置くように言われているんですよ」
「フェンデルトン家とストーン家との繋がりを危ういと、判断されたという事ですか」
「婚姻による繋がりまでは問題なくても、それ以上は認めないという事ではないでしょうか」
「実際に、叛意はありましたから」
「ですね」
「アイリ様が、全てを吹き飛ばしてしまいましたが」
「内乱など、無い方が良いに決まっているじゃないですか」
「それもそうですね」
「だから・・・・・・」
「リーズディシア様の件でしたら、かしこまりました。私で役に立てる事があるのであれば、嬉しい限りです」
そうかい。
エルフィン嬢。
よろしくお願いします。
およみいただき




