72 真面目に闘ってみます
いざ参る、と言った割に、このカントという剣士は攻めてこなかった。むしろ、私の距離の外へと抜けだしたくらいだ。
慎重だな。
私はそう思った。
力に振れた剣士だから、距離を詰めて攻勢をかけてくるかと思ったんだけれど。
こいつ。
私の強さが解ってるんじゃないだろうか。
鑑定スキルを持っている者はほとんど居ないということだから、それを使っている可能性を除外するとして。
それなら。
この青年は、私の構えを見て、強さを判断している事になる。
若いのに、出来る。
レベルだけじゃない。
私は、この剣士の強さを、そう判断した。
とりあえず、フェイントをかけて試してみるか。
僅かに右に重心をかけて、右に回り込むと見せて、視線を左に送る。
すると、カントは、迷いなく左に重心を移した。
私が左に跳んだとしても、対応が出来るということか。
なら。
その対応とやらを見せてもらおうじゃないか。
短く、悟られないように息を吐き。
左に跳ぶ。
レベルが700程度であればここでチェックメイトになるはずなのだが、さすが、レベル900台の剣士といったところだろうか。
カントは、当たり前のように、私の動きについてきた。
ふむ。
小手先では、無理か。
やはり、というか。
この男。
かなり対人戦慣れしているな。
私の方がレベルや装備では上回っているけれど、それを埋めるほど、この男には経験があると思った方が良さそうだ。
恐らく、この世界に来て初めて出会う、対等の強さを持った相手だろう。
「一つ、確認したい事があるのですが」
「何だい、お嬢ちゃん?」
「貴方の得意とするものは、魔物狩りですか?対人戦ですか?」
「どっちだと思う?」
「対人戦と見ました」
ふむ、とカントは頷いて、
「正解だ」
獰猛な笑みを浮かべた。
そうか。
それなら。
それなら私は、チャレンジャーとして、この人に挑む必要があるのかもしれない。
気を引き締めよう。
「ほぅ・・・・」
カントの右眉が上がった。
私の事を、良い遊び相手と思ってくれたかな。
では、
「いきますよ」
私は正面から、一歩踏み出し、カントの盾の隙間から一撃を入れる。当然のようにそれは防がれて、
「ふっ」
カントからの突きが返ってきた。
引く棍で剣を巻き取ろうと絡めるが、引いて防がれる。
片目だけ出してこちらの動向を窺うカントの、その出た顔に、突きを入れるも、またしても盾で防がれて、剣で棍の軌道を変えられた。
反撃が来る。
まぁ、体勢は崩していないので、そこからの反撃も棍で受けて流すのだが、今度はカントが距離を詰めてきた。
私は盾に棍を当てて、その勢いを以て距離を取った。
やはり、出来るな。
と、思う間もなく、カントの突きが来る。
距離の詰め方が、上手い。
さすが、対人戦を得意としていると言うだけの事もある。
詰めてきた相手に対する対応策もあるから、問題は無いのだが。
私は突いてきた剣を躱し、棍を身体の背中から回して一回転し、カントの背に回り、その頭部を狙う。一瞬の隙を突いた攻防の中の一手だが、これに対し、カントは剣を引いて身体を回転させ、盾で防ぐという三手の手順を取らざるを得ない。
そこで私は、改めて距離を取り、カントのがら空きになった下肢へと突きを放った。
が、その一撃も、予測していたように、盾に阻まれる。
こいつ。
対人戦慣れしすぎだろ。
人の事を言える義理ではないが、私はカントを前にして、思わず舌打ちしたくなった。
「強い、ねぇ」
そんなの、お互い様だろ。
「お兄さん、本気になっちゃいそうだよ」
「恋愛がらみでなければ、本気になって、どうぞ」
「おや、男は嫌いかい?」
「男との恋愛は、絶対にしませんね」
「そうかい」
そう言って、カントは盾を前にして、再び構えを取った。
この構え。
シールドバッシュか。
と、いうことは、スキルを織り交ぜた戦い方にシフトするということか。
この熟練した戦い方をするカントの事だ。
この世界でスキルを扱う相手は普通に居るが、中堅レベルの王太子殿下たちのように、拙いスキル運用はしてこないだろう。
そもそもが、スキルを使うと隙が生じやすいというデメリットがある。
最低でもアイリーン義母様のようなスキルの使い方をするに違いない。直線的な動きのシールドバッシュの軌道を変えてきたり、途中でキャンセルしたり、その程度の事はやってくるはずだが。
果たして、シールドバッシュを繰り出してきたカントは。
私が避けるのを見越して。
途中でスキルをキャンセルし、再び軌道を変えてシールドバッシュを繰り出してきた。
そもそも盾で隠れているので、本体にカウンターを仕掛ける事は不可能。
そう判断した私は、再び横に跳んでそれを避けた。
また、シールドバッシュをキャンセルして、軌道を変えてくる。
が、単調だ。
それではスキルを使うだけ、MPにあたる魔力消費が激しいからジリ貧になる。
私がシールドバッシュを避けた時に、カントはそれくらい解っているはず。
それならば。
何か、他に仕掛けが用意されているのだろう。
次は、何で来る?
と。
シールドバッシュをキャンセルしたカントの背中が、僅かにブレた。
なるほど。
通称ファントムか。
幻影を残して、左右どちらかにステップを踏み切るという、剣士のスキルか。知らずに幻影に攻撃をして、左右どちらかから攻撃をするという戦術だ。
引っかかるかよ。
私は、間髪を入れず後ろに跳んだ。
幻影が掻き消え、私が立っていた所から見て左側からカントが姿を現す。そして、私の方へ向いて、
「驚いたな」
と、そう言った。
「こういう戦術を知っているのか?」
「初歩的な戦術ですね」
「ほぅ」
カントがニヤリと笑う。
「剣士との闘いに、慣れているのか?」
「ある程度は」
「ある程度、ね」
まぁ、そこで懐疑的になるのは分かるよ。
ファントムなんてスキル、一直線に進んでも、レベル300位でしか取れないスキルだし、他のスキルと合わせる事を考えると、一般的にレベル700以上にならないと取らないからだ。しかも、それはゲーム上での話で、この世界に来て私が今まで相手にしてきた剣士の中で、ファントムなんてスキルを持っている相手は居なかった。つまり、レアなスキルで、高レベルにならないと取得できないという事だ。そんな奴を相手にしてきたと考えるのは、確かに不思議でもあるのだろう。
ゲーム内だと、レベル700以上なんて普通に居たし、普通に使われた戦術だから、私にはわかるというだけの話だ。
「まだ引き出しはあるんですよね?」
さぁ。
「出し惜しみは、無しにしましょうか」
この世界の最強レベルの剣士の戦い方というものを、見せてください。
「公平に、私も貴方に手の内を晒しますので」
「そいつぁ、怖ぇな。どんな手を隠し持っているんだ?」
ということで、私たちは再び干戈を交えた。
さて。
ギアを上げていきますかね。
「それは、身をもって体験してください」
私も、全力を出しましょうかね。
そうでもしないと、このカントという人、捕らえ切れそうにないので。
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