68 茶話会です
「さて、話がまとまった所で、お茶にしましょうか」
王妃様はそう言うと、茶室のテーブルに座った。
皆も、それに倣う。
「とは言っても、私が持ってきたお話しは終わったし、また、リズの話になるけれど、それで良いかしら?」
「はい」
皆が頷くと、王妃様は、メイドさんが注ぐお茶を見ながら、
「リズ」
と、先程とは違った、優しい声音で話し出した。
「貴女、国王陛下に上奏して、新規に部隊を作って、その部隊の長になる事にしたそうじゃない」
「はい」
「貧民街の治安向上、治療院の設置、教会との折衷、貴女の功績は、既に王妃になるに十分なものがあるわ。それでも、軍籍に身を置いて、陰ながら戦おうというの?」
「東の帝国の動きを見るに、戦乱の世となる事は目に見えていますので」
「王妃には、王妃の役目というものもあるのよ」
「次世代の育成ですね」
「そうよ」
「治療部隊を軌道に乗せたら、王太子妃としての務めを果たします」
リーズディシア嬢と王妃様の間で、認識のすり合わせが行われているのかな、これは。
二人は笑顔のまま、以上の様なやり取りを交わした。
「後任は?」
「シェリアとレアに、お願いをしようかと思っています」
「ちょっと、リズ!?」
シェリアエル嬢が声をあげ、レアノーラ嬢が腰を上げた。
あ。
この計画。
リズの頭の中での計画だったんだな。
この娘。
やはり悪役令嬢というか、周りを巻き込む傾向にある。
愛国心という点においては、百点なんだけど、気を許した相手だと、人の気持ちというものを置いてきぼりにする傾向にある。
自分の頭の中で完結している事だから、説明を端折る傾向にある。
多分、シェリアエル嬢やレアノーラ嬢の事も考えての事だろうが、肝心な言葉が抜けている。
「リズ」
「なに、アイリ?」
「貴女の悪い所です。それだけ気を許した相手という事なのでしょうが、決定事項を言う前に根回しをしておかないと、反感を買いますよ」
「そうよ、リズ」
私の言葉に、ジュリーネ嬢が乗ってきた。
「私たちにも、婚約者が居るのですからね」
「結婚の話は、どうなるのですか」
「ああ、それね」
しかし、と言うか。
やはり、と言うか、リーズディシア嬢の頭の中では筋書きが出来ている事のようで、
「シェリアとレアには、半年の間、軍務についてもらって、肩書を付けた上で、婚約者様との結婚を進めてもらうわ」
と、やはり、お友達の事を考えた上での計画を語った。
「シェリアもレアも、実家は伯爵家じゃない?やはり肩書を付けた上じゃないと、侯爵家の夫人としては、肩身が狭くなるのではなくて?」
「そこの所は、確かにありがたいのだけれど」
やはり、リーズディシア嬢は、リーズディシア嬢だったようだ。
友達の事を考えて行動のできる娘だった。
ただ、なぁ。
「リズ・・・・・」
「なぁに?アイリ」
「何度も言いますが、言葉が足りなさすぎなんですよ」
「そぉ?」
「そうですよ。さっきの言い方だと、シェリアエル嬢とレアノーラ嬢が、ずっとリズの後釜を担うような感じでとらえられる様になってしまっていたじゃないですか。だったら、婚期が遅れる彼女たちが異を唱えるのも無理はありません」
自分の後をついて来れば幸せになれる、と信じるのは良い。
実績を積んで、黙ってついて来いと言う姿勢も悪くはない。
ただ、
「国王陛下が退いて、王妃になった時にそれでは、周りは付いてきませんよ」
たった一言添えるだけで、印象は変わるものだ。
「その言葉、肝に銘じておくわ」
リーズディシア嬢は、注がれたお茶に口を付けながら、そう言った。
そうだね。
リーズディシア嬢の、というか、頭の良い人の悪い癖だからね。
と、そこで、
「ふふっ」
王妃様が、小さく笑った。
お茶で口を濡らし、
「アイリがリズを妄信しているように、リズもまた、アイリに依存しているのね」
そんな事を言う。
依存、ですか。
私とリーズディシア嬢は、共依存の関係になっていた、という訳か。
「そうね。何故、この短期間でそういう関係になったのかまでは分からないけれど、貴女たち、あまりよろしくない関係を築いているわ」
うーん。
やはり、中身が同郷だから、というのが理由になるんじゃないだろうか。頼れるものは、同郷出身の人、みたいな所があるじゃん?
たぶん、そこなんだよね。
とはいえ、それは言えない話。言っても良いけれど、言ったところで相手にされないか、本物のキの字と思われる可能性もある。
前世だって、俺は神様だ、とか言い出す奴も居たからね。
それと一緒。
だから、王妃様が理解できるように、
「相手の事をなまじ知っているだけに、こうあって欲しいと願うんでしょうね」
と、私はそう言っておいた。
「知っている、ねぇ」
まぁ、王妃様には通用しないんだろうけど。
王妃様は意味ありげに笑い、私の顔を覗き込んでくる。
「アイリ、貴女、リズの事をどの程度まで知っているのかしら?フェンデルトン婦人よりも、義母になる私よりも、リズの事を知っていると言いたいの?」
「ある意味」
「それは、なに?」
「申し訳ありません、王妃様。こればかりは、たとえ王妃様のご命令であったとしても、言うことが出来ない事なのです」
「どうしても、言えないことなの?」
「はい。私とリズの、今後に関わってきますので」
「そう」
と、王妃様は言って、
「では、リズとアイリは、学院のサロンと、この王宮での淑女教育の時以外は、会う事を禁止します。これは、王国の勢力図を塗り替えかねない事案なので、命令です」
そう命令してきた。
それには、さすがに、
「はい」
としか答える事が出来ず、
「では、気を緩めて、淑女らしくお茶を楽しみましょうか」
との言葉にも、素直に頷けないものがあった。
確かに、外戚となるフェンデルトン家の、その繋がりのあるストーン家の、権力を削いでおきたいという意図は分かるが、そこまでする事か?
王太子殿下の側近となる方の婚約者と仲良くしておけというのも理解できない事もないが、リーズディシア嬢とだけ仲良くするなというのには、さすがに納得いかないぞ。
信用されているとリーズディシア嬢は言っていたが、本当か?
「アイリ。私は、貴女を警戒しているのですよ」
おうふ・・・・・。
警戒されているのは、私か。
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