65 茶話会のお誘いです
「茶話会、ですか」
課業後のサロンにて。
私は、リーズディシア嬢が言った言葉を反芻した。
たぶん、私は結構間抜けな顔をしていたはずだ。
だって。
茶話会なんて、サロンでいつも開かれているのだから。
それを、何で今更。
と、思っていると、リーズディシア嬢の口から、思ってもいなかった方の名前が飛び出してきた。
「王妃様の、直々の茶話会。貴女、呼ばれてるわよ」
「なんでまた、こんな無粋な小娘を呼ぼうと思ったんですか」
「ホッパドキア家の奥方からの手紙に、貴女の事が書いてあったんですって」
「なんて?」
「ワイバーンを片手間に倒してしまう、可愛らしい女の子って。で、この前のゴブリン騒動でも、帝国との闘いでも名前を上げてるじゃない?しっかりと会って、話をしてみたいと思われたんじゃないかしら」
「儀礼なんて、最低限しか身に着けてないですよ?」
「その辺は、不問よ。だからこその茶話会なんだし、出席する方も厳選されているわ。だから、一緒に行きましょ」
これは、断れないな。
という事で、私は王妃様主催の茶話会に出席する事と相成った。
ああ。
謀反騒動で名前が落ちたホッパドキア家の奥方に、手紙を出すような方だ。気遣いのできる方なんだろう。だが、叙勲の時にお顔を拝見したが、年相応に綺麗な方だったが、厳しそうな眼をしていた。きっと、いや恐らく、厳しい目を持った方なんだろう。
そういう女性は、私の最も苦手とする人種だ。
ボロが出ないと良いんだけど。
いや。
私の事だ。
必ずボロが出る。
無礼者、とか言われたら、どうしよう。
「本当に、気にする事なんて、どこにも無いわよ。服装も、制服で良いと仰ってくださっているし」
「それなら、まぁ・・・・・」
少しは気が楽になるか、な。
「そう、気楽で良いのよ」
気楽に行って良い所なら、気楽に行くけど。
「お姉様とも文通されているから、いつもの貴女で良いのよ」
「あかん奴じゃん」
気楽に行けない所だった。
義母様の情報をもとにされているのなら、そうそう気を抜いて、いつものようにだらけた姿を見せる訳にはいかないじゃないか。
そんな私の顔を見て。
リーズディシア嬢が、クスクスと喉を鳴らした。
「貴女、お姉様には弱いようね」
「そりゃ、しごきまくられましたからね」
「これを機に、貴女も徹底的に、淑女教育をされてみるのも良いかもしれないわね。ミリーネ嬢と一緒に。王妃様としては、一人も二人も変わりないと仰っておられるわ」
「それ、私が女の子として全然ダメな事、王妃様もご存じだという事じゃないですか」
チクりやがったな。
私がげんなりしている所を見て、リーズディシア嬢はまた喉を鳴らす。
「だから、最初はいつもの貴女で良いのよ」
「リズ的にも、私は矯正が必要だと言いたいのですか」
「そうよ」
喉を鳴らしていたリーズディシア嬢は、表情を一転させて、
「考えてみなさいな。私の感想でいいのなら、老獪なおじさんの脳みそを持った美少女女子高生よ?自分の容姿を武器にして立ち回ろうとは思わないの?」
真剣な瞳で、そう聞いてきた。
だが、
「思わない」
私はきっぱりと、リーズディシア嬢の提案を退ける。
私はおっさんであって、美少女である事を推した事は無い。
美少女である事を武器にしようとは思っていない。
女である事を武器にして、男に寄って来られても、迷惑でしかないのだ。
おっさんの見た目より、美少女の見た目の方が有利に働く場合もあるという事は承知してはいるが。
それでも、私はおっさんだ。
譲れない線はある。
男との恋愛が絡むのだけは、駄目だ。
女性的になるのだけは、駄目だ。
「それじゃぁ、仕方ない」
リーズディシア嬢は、わざとらしく溜息を吐いた。
「お姉様をお呼びして、今のアイリを見てもらうしか無いわね」
なん、だと。
義母様を、呼ぶ、だと。
それは、まずい。
まずい、まずい、まずいぞ。
私は、叩き込まれた礼儀作法がかなり崩れてきているのは理解している。
今の私を見られたら、
「きっと、礼儀作法の教育が、再び始まるでしょうね」
きっと、そうなるだろう。
それだけは、まずい。
「でも、西の辺境伯家では、守りがしっかりとして居ないと・・・・・・」
「国境は、今の所平穏。西とは交易も盛ん。問題無いわ」
退路を断たれた。
という事は、だ。
「王妃様と比べて、義母様の教育は、厳しいのでしょうか?」
より、楽な方に行くしかない。
王妃様の教育は、義母様よりも優しいと答えて欲しい。
そこでリーズディシア嬢は、聖母の様な笑顔を見せて、
「王妃様は、お優しい方よ」
と言った。
もう。
私には、淑女教育を受けなおすという道しか残されていないようだった。
元より、王妃様に呼ばれたら行かないといけない。
そして、今の私を見られたら、淑女としてあるまじき醜態を晒す事になる。
王妃様の心に灯が点く。
私の運命は決まっていたのか。
「はぁ・・・・・」
私はせめてもの抗議として、わざと、盛大に溜息を吐いた。
「諦めた?」
「諦めました」
「王妃様の下で淑女教育を行って頂く?」
「ええ・・・・・・」
「それは良かった」
リーズディシア嬢は、笑顔のまま、私の手を取った。
「ミリーネ嬢と一緒に、淑女になりましょうね」
「なりたくねぇ」
「まぁ、王妃様に目を付けられた時点で、貴女は淑女になる必要が生まれてきたんだけどね」
「目を付けるように仕込んだんじゃないでしょうね」
「さぁ」
「そこで目を逸らすという事は、かなり怪しいんですけど」
「私はただ、アイリの武勲を王妃様に語っただけよ。可愛らしいのに、武に優れていて、国王陛下も一目を置く存在になってきているって、そう言っただけ。ホッパドキア家の奥方に聞いても、それはよく分かると言っただけ」
「完全に仕組んでるじゃないですか」
「私は、最近、最初に会った時の様な、ガサツなアイリに戻ってきているようだから、私は女の子らしいアイリが好きだから、女の子らしくして欲しいと思っただけよ」
うーん。
策士め。
でも、可愛いから許す。
ああ。
おっさんがお小遣いを出してしまう気分、わかるわぁ。
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