64 パワーレベリングです
「では、手順を説明します」
王都から離れた湖の一角の広場で、私は集まった全員にそう言った。
やる事は簡単だ。
まずは、ホムンクルスたちがゴブリンを見つけてきてタゲを取り、釣ってくる。
それを、私とロスティで叩く。
回復術師の娘達はロスティに常に回復魔法をかける。
騎士様は万が一のための護衛。
常に戦ったり、回復魔法をかけさせるのは、レベルに伴ってステータスを上昇させるためだ。
スキルについては、自動的に覚えていってくれるようなので、それはリーズディシア嬢で実証済みの様なので、そこは放置の方向でいく。
多分、何かしらのスキルを身に付けるだろう。
「と、いうことで」
私はホムンクルスたちに命じて、ゴブリンを釣りに行かせた。
「オークも混じってていいからねー」
さて。
あとは待ちだ。
私は、緊張した面持ちのロスティと女生徒たちに、声をかけた。
「緊張する事はありませんよ。貴女たちはロスティに回復魔法をかけまくるだけで良いので。ロスティは、ゴブリンやオークを一体だけ相手にすれば良いんだし、気軽に行きましょうか」
全員のレベルは250程度だから、相応の強さの魔物をつってくるように、ホムンクルスたちには言っているし、そうそう滅多な事は起きないだろう。
今日の目標は、平均レベル255だ。
ロスティのレベルが三つ上がったら止めにしよう。
※
一か月が経過した。
学院での課業もあるので、週末だけのパワーレベリングだったから、レベル上げは遅々として進まなかったが、それでも、全員のレベルが300に達した。
ハイヒールを覚える娘もチラホラと現れだした。
という事で。
ここからはリーズディシア嬢にも混じって貰ってレベル上げをする事になる。
「ロスティ」
「ん?」
ロスティは、もう慣れてしまっているので、適正レベルのゴブリンを狩る事に抵抗が無くなってしまっていた。
慣れとは怖いもので、
「貴女に合わせて魔物の強さを調整していますから、緊張感だけは持って。確かに強くはなっていますが、魔物も強くなっていますから注意は必要ですからね」
「うん、分ったよ」
一言添えておく。
リーズディシア嬢にも、
「リズ、貴女がどれくらいの強さの魔物を狩らせてレベルを上げてきたのかは知りませんが、駆け出しの騎士様と同等のレベルの魔物が来ますので、注意を怠らないようにしておいてください」
そう声をかけておく。
たしか、エリアヒールを使えるのが、レベルが400を超えた辺りからだった筈だから。
「目標は全員がレベル420を超える位でいきましょうか。飛ばしますよ」
私は、リーズディシア嬢にそう言った。
※
また、一か月が過ぎた。
もう、私がこの世界に来てから随分と経った。
女の子の身体にも、かなり慣れてきた。
ここで、回復術師の女生徒全員が、エリアヒールを使えるようになった。
レベル400台のゴブリンやオークもほとんど居なくなってきたところだし。とりあえずは、ここまでかな。
私は全員に、パワーレベリングの終了を告げた。
「あー、終わりかぁ・・・・・・」
一番強くなったと実感しているはずのロスティが、残念そうにそう言う。
が、
「ロスティは、今後、私や王太子殿下と訓練をして、技術を学んでもらいますから、終わりじゃありませんよ」
ロスティの様な火力は、レベルが上がっただけではプレイヤースキルは身に付かない。これから訓練をして、それを身に付けてもらう必要がある。
「回復職の皆さんも、自分の立ち位置や回復のタイミング、立ち回りは自分で覚えていってもらうしかありませんので、実習の時に、周りに自分が出来る事をしっかりと伝えて、有用性を証明してください」
「はい」
「立ち回りは、リズに聞いて、真似をしてください」
「はい」
よし。
これで良いだろう。
「じゃぁ、リズ。回復職の女の子の面倒は、あとはしっかりと見てくださいね」
「了解」
私は、役目が終わったので、皆の後をついて、王都へと足を向けた。
※
実習の日がやって来た。
さて。
エリアヒールを覚えた皆は、どう立ち回るのか。
その辺の事も気になったが、私は私で班の中に参加しているから見に行く事は出来ない。私の班には、レベル250程度の殴りBISしか居ないから、こっちは今まで通り、怪我をしたら休んで回復、という事になるのだろうが。
果たして。
今までの実習では、討伐数で私の班が一位、大きく開いて王太子殿下の班が二位という結果に終わっていたが、今回の実習では、軒並み上位に、エリアヒールを持つ女子の班の名前が並び、王太子殿下の班は十位以下という結果に終わった。
その噂は、即座に学院中に広まる。
何故そんな成績を残せたのか、噂が、噂を呼ぶ。
そして、エリアヒールを持つ女子の班員からの証言で、常に、休むことなく狩りが出来た事が大きいと判明した。
彼女達は一躍、学院の有名人の仲間入りを果たす。
だが、彼女達は、一気に回復のスキルが上がった理由を話す事は無かった。
ただ、回復に専念しただけ、と答えるのみ。
そして。
「やったわよ、アイリ!!国王陛下に、回復職の部隊を作る事を認めさせたわ!!」
リーズディシア嬢が、朝、私の顔を見るなりそう言ったのは、実習から六日が経った後の事だった。
珍しく、私の手を両手で握りしめ、
「もちろん、回復に専念できるだけのスキルを持った回復職をどうやって作るかの情報は提示したけど、これで、戦争の在り方が変わるわ!」
嬉しそうにそう言う。
私は、
「それは良かったですね」
と応えるしかできない。
何故なら、その有用性を知っているから。
認められて当然だと思っているから。
ゲームの世界で当たり前だった事が、リアルの世界で当たり前になっただけの事だから。
大して驚くような事ではないと思ってしまうのだ。
その反応を、リーズディシア嬢は気に入らなかったらしく、
「あら、アイリには、この回復職の運用方法の変化が、どれだけ凄い事なのか理解できないの?」
と、頬を膨らませた。
「まぁ、有用性は解りきっている事ですからね」
「でも、常識を壊す事だったのよ?」
「たしかに、常識を覆すには困難が付いてくるものですが」
「でしょ?」
「あとは、どう運用するか、に尽きるかと。回復職の部隊が狙われる事になるのは、目に見えてますよ」
「上手く、囮の役目を果たすわよ」
「それは、指揮官次第でしょう」
私としては当然の事を言ったつもりだったのだが、リーズディシア嬢はそこで得意そうな顔をして、上から目線で鼻を鳴らした。
「私が指揮官になるから」
「は?」
私は思わず、頓狂な声を上げてしまった。
え。
なに?
リーズディシア嬢が指揮官になるの?
回復職の部隊の?
それって・・・・・・。
「リズ、軍籍に入るつもりなのですか?」
私は率直な疑問をぶつけてみた。
すると、
「フェンデルトン公爵家の、ね」
そう返ってくる。
「時に令嬢、時に指揮官、ですか」
「お姉様と一緒よ」
なるほど。
義母様のように、辺境伯家の奥方をやりながら、軍の指揮を取るという訳か。
出来るのか?
というのは、愚問か。
やる、んだろうな。
この目は、やるんだろうな。
やはり、この娘は、私の先を行ってるな。
うん。
私も負けないように、精進しなきゃ、だな。
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