63 学院に戻りました
平素変わりなき学院に戻った私だったが、一つだけ、私の生活を脅かす事例が出てきた。
それは。
「アイリ様、握手をして頂いてもよろしくて?」
このように、私に近付いてくる生徒が増えた事だ。
私の活躍にあやかりたいのかもしれないが。
身近にいる英雄に、近付きたいのかもしれないが。
私は声を大にして言いたい。
そんな暇があるのなら。
訓練しろ、と。
レベルを上げろ、と。
まぁ、言ったところで相手に通じるとは思えないので、都度対応をしているのだが。おかげ様をもちまして、リーズディシア嬢と会う機会が減った。代わりに、ロスティと一緒に居る時間が増えた。
ロスティが悪いとは言わんが。
私はリーズディシア嬢に会いたいんだ。
サロンに行けば会えるのだが、サロンに行っても、私を取り囲む令嬢たちが増えたため、リーズディシア嬢と二人きりで話す機会が減った。
「アイリ、大丈夫?」
ロスティに心配されるほど、私は、にこやかに機嫌が悪い。
やはり、あの少々ひねくれたリーズディシア嬢の成分が足りていないのだ。あの、ツンが堪らなく可愛いのに、あれを摂取出来ていないのだ。
だから、
「リズ!」
リーズディシア嬢に会った時に、私はリーズディシア嬢を抱きしめるようになってしまった。
「ちょっ、アイリ。公共の場で、こんな、はしたない事をするんじゃありません」
そう言われても、私は止めない。
「アイリ!!」
叱責されようが、私は止めない。
取り巻きの令嬢がどん引いていても、私は止めない。
そして、止めに入るのは、いつもミリーネ嬢やエルフィン嬢だった。
「アイリ様!リーズディシア様が嫌がっています!!」
「アイリ、その辺にしてっ、ください」
身体ごとこじ開けられて、やっと私はリーズディシア嬢を離すのだ。
これが、私の日課となっていた。
「どうして貴女は、最近になって私に抱きつくようになったのかしら」
「いや、女同士という事に気付いたんですよね」
「それは、誰が見てもそうでしょう」
「おじさんが、女子高生くらいの年齢の女子に、合法的に抱きつけるな、と」
「だったら私じゃなくても良いのではないの?それこそ、ロスティだって居るし、貴女を慕う女の子だって、たくさん居るじゃない」
「でも、彼女達は、私を女性としてしか見ていません」
「中身がおじさんだという事を知っている私だと、嫌がると思ったの?それは少々、性格が悪過ぎないかしら?」
「嫌がるリズが、可愛いんですよ」
「性格、悪っ!!」
そんなやり取りがあったり、なかったり。
とにかく、私の生活は、リーズディシア嬢を中心に回っていった。
そんなある日の事。
「学生を中心とした、治療専門の部隊を作る?」
リーズディシア嬢から、そんな事を聞かされた。
「そう。演習なんかで、回復を、学生を中心に部隊を回していけないかと思ったの」
「今までは、派遣されてきた回復術師が指導をしてくれていたんですよね」
「ええ」
「それは、回復術師の指導を拒否するという事なのですか?」
「いえ。指導はしっかりと受けるわ。ただ、今までの回復術師とは一線を隔した部隊にするために、学生の内から訓練を行っておきたいのよ」
リーズディシア嬢はそんな事を言う。
今までの回復術師は、ある程度戦える、所謂殴りBISと呼ばれるようなステータスの振り方になっていたらしい。つまり、レベルは高くても、魔力が低く、回復をする回数が少なかったのだそうだ。
前回の戦争の時も、魔力切れを起こした回復術師が多数出たのだとか。
それを、リーズディシア嬢の部隊は、回復専門のBISにして、魔力を高く保持し、回復に長けた者たちで揃えたい、と。
私の言うレベルが低いうちから回復専門で振っていけば、リーズディシア嬢のような回復職を大量に得る事が出来る。
当然、リーズディシア嬢の部隊には攻撃力や守備力は無くなってしまうので、何かしらの騎士部隊を付ける必要が出てくるが、専門的な回復術師だと、少数精鋭でやっていけるから、小回りも効くし、移動しながらの回復だって可能となる。
「なるほど」
私は、その部隊創設も、一つの手だと思った。
ゲームの世界の時も、殴りBISよりも専門のBISの方が重宝されていたし。戦線に出てくるとなれば護衛は必要となるだろうが、わざわざ後方まで怪我人を運ぶ必要も無くなってくる。
「良いんじゃないですか?」
私がそう答えると、
「でしょ?」
と、リーズディシア嬢は意味ありげに笑った。
こういう顔をするという事は、だ。
「リズは、私に何をさせたいのですか?」
何かしらかのお願いがあるのだろう。
で。
聞くと。
「回復術師のパワーレベリングを行ってほしいの」
との答えが返ってきた。
なるほど。
リーズディシア嬢と同様に、回復職を作っていくという訳か。
「まぁ、良いけど」
でも、それじゃぁ部隊を持続させる事は出来ないんじゃなかろうか。私がパワーレベリングをするのは良い。だが、私が居ないとレベルが上がらないようでは、先が続かないのではなかろうか。
それを言うと、
「実績を作って使える部隊だという事を示せば、まずはフェンデルトン家の騎士様に依頼をかけてパワーレベリングをする事が出来るし、果ては王国中で、そういった回復術師の運用がされるようになると思うの」
そう言って、リーズディシア嬢は私を見上げてきた。
「どう思う?」
「どう、と言われても、何とも答えようがありませんが、一つだけ、問題があります」
私は、リーズディシア嬢が出してきた案の問題点を一つ挙げた。
それは。
敵は必ずしもアタッカーにタゲを合わせないという事だ。ゲームの世界だと、攻撃したアタッカーにタゲが移って、回復役は安全な場所から回復を行う事が出来るが、攻撃能力のない回復術師が戦場の真ん中に部隊を作っていると、まずは回復術師を狙え、という事になるのではないかという事だ。
現実は、RPGであれSRPGであれ、ゲームのようにはいかないものだ。
それを問うと、
「うーん・・・・・・」
考えこみ、
「そこは、指揮官次第になってくるんじゃないかしら」
と、そう答えを出してきた。
「例えば?」
「最強の部隊を、回復術師の部隊に付けるとか」
「それだと、弱い部隊がやられた時に、すぐに駆け付ける事が出来ない」
「じゃぁ、回復術師の移動に沿うように、全軍の移動をさせる、とか」
「それを、最初にどうやって認めさせるんです」
「手始めに、フェンデルトン家の騎士団から、運用を開始してみるわ」
まぁ、私としても、全てにおいて反論したい訳ではない。
リーズディシア嬢の思い付きには、基本的に賛成なのだ。
確かに、リーズディシア嬢が言うように、移動する回復術師が居てくれると、戦う側としても、すぐに治療をしてもらえるから安心はできるのだ。
治療術師が完全な後方支援では、助かる命も助からない可能性がある。
理には適っているのだが。
「危険、ですよ?」
「戦場に安全な場所なんて無いわ。後方支援をしていたって、前線が負ければ蹂躙されるだけだし、それなら、移動できる回復役の方が役に立つと思ったの」
「分かりましたよ」
「そう、ありがと」
うん。
リーズディシア嬢の覚悟は、よく解った。
なら。
「当面、育てて欲しい回復術師は何人程いるのですか?」
「私のお友達で十名ね」
了解。
ついでに、ロスティのレベルも上げておくか。
彼女も有望株だ。
「ホムンクルスたちに釣りをさせて、私が叩きます。万が一のために、そうですね、パワーレベリングは少数が良いから、フェンデルトン騎士団から五名ほど出してください。あと、ついでにロスティのレベルアップも図ります」
お読みいただき、ありがとうございます




