61 サイド リーズディシア
戦端が開かれたのは、アイリが元気を取り戻して自陣へと戻ってから三日が経過した後の事だった。
私達救護班も、前線に向かって僅かに陣を進める。
中央に陣取っている王太子殿下は無事だろうか。
右翼に配備されたアイリは無事だろうか。
そんな事を考えながら、私は負傷者の手当てを行っていく。
「リーズディシア様、こちらへ!」
また、負傷者が運ばれてきた。
左わき腹を刺されて、結構な重症者だ。
これは、治癒したところで、出血がひどくて戦線に戻す事は出来ないな。私は、どこか冷静な自分がそう言っているのを聞きながら、治療に当たった。ヒールを当てて、
「この負傷者は寝かしておいて!」
そう言って、次に当たる。
次は、ハンマーか何かで腕を完全に折られた騎士様だ。
こちらにはハイヒールを当てて、復活してもらおう。
私はハイヒールを当てて、騎士様の治療を行った。
治療している間に、騎士様と会話をする。
「戦況は、どうなっています?」
「ホッパドキア家の軍が突如寝返ったからな。こちら有利で動いているよ」
それは良かった。
「という事は、左翼はほとんど戦いをしていないのですか?」
「左翼の軍は相手の中軍に戦いを仕掛けている。もう、帝国の戦線はガタガタだ」
「こちらの本陣は?」
「動かなくても、他が働いているよ」
という事は、王太子殿下の居る所は安泰か。
あとは、アイリだ。
「ああ、あのお嬢ちゃんか。あのお嬢ちゃんなら、元気に戦場を駆け回っているよ。もう、敵将の首を三つも挙げている」
そうか。
アイリに限って下手を打つ事は無いと思っていたが、元気に活躍していたか。
「という事は、右翼方面も有利に動いているんですね」
「まぁ、俺みたいに下手を打つ奴も居るがな」
「次は、怪我をしないようにして下さいね」
「ああ」
と、会話をしている間に、騎士様の治療は終わった。
「じゃぁ、行ってくるわ」
と言って元気に戻っていく騎士様を見送りながら、あの騎士様にも加護がありますようにと願わずにいられなかった。
やはり、ホッパドキア家の寝返りは大きかった。
互角と見られていた戦況が、大きく変わった。
アイリのやった事は、かなり大きかった。
また一つ、アイリの名前が上がった。
私も、頑張らないといけない。
アイリが仕える者として、恥ずかしくない自分を作り上げないといけない。
先日のゴブリン騒動然り、今回の戦果然り、アイリはこの国で必要不可欠な人材になりつつある。私は、そんなアイリを従えるだけの器量を備えていなくてはならない。
王妃としては認められているが。
個人的に武将を抱える人材としては、認められていない。
最初は、王太子殿下と矛を交える時のための保険だった。
だが、王太子殿下が私に想いを寄せてくださっていると知った今、アイリを抱えておく必要は無くなってしまった。人材を欲しがる必要性も、無くなってしまった。
今後、私の人脈は、王太子殿下の為に使われる事となる。
そうなると。
私の存在意義は、なんだ。
「いけないわね」
私は、悪い方向に向かいかけた思考を切り替えた。
私の作り上げた人脈は、私の物だ。
私が居てこそ、王太子殿下の周りが固まる。
そう思うべきか。
いや。
私と言う指揮官が居てこそ、私の人脈が活きると思われるように、私が成長しないといけないな。私という武将を、認めさせないといけないな。
こんな、後方支援の一員では、周りは認めてくれない。
正直に。
現実を認めよう。
そして。
先に進もう。
私は。
一足跳びに私を超えていったアイリに、追いつかないといけない。
最低でも、後方支援の回復職をまとめ上げるだけの存在にならないといけない。
「さて、どうしましょうかね」
回復術師としては一人前ではあるが、どうするか。
「リーズディシア様!!こちらの治療をお願いします!!」
私が思考の渦に巻き込まれている間に、次の負傷者が運ばれてきた。
※
何度、負傷者にヒールをかけただろうか。
いつの間にか負傷者の数が減っていって、私の居る支援部隊の方にも、戦争の勝利の雰囲気が伝わってきた。
魔力も尽きかけてきていた所なので、ありがたい。
と、そこに、アイリが入ってきた。
背中に霜が走る。
もし、何か怪我をしていたのだとしたら、私には、ハイヒールを当てるだけの魔力は残っていない。
どうする。
他の皆も、魔力が尽きかけているだろう。
けがの状態は?
「リズ、大丈夫?」
そんな事を考えていると、アイリは私の方に寄ってきて、そんな事を聞いてきた。
よく見ると、自分の足で歩いているし、怪我をした様子もない。
これは・・・・・・。
「アイリ。貴女、どうして戻ってきたの?」
「いや、私が居ると、他の騎士様の活躍の場がなくなるって言われて、強制的に先に戻されたんです。それで、リズはどうしてるかなって思って、来てみたんですよ」
ああ、そういう事か。
それなら良かった。
「活躍、しすぎちゃったの?」
「そうみたい」
「エルフィンや、ロスティは無事?」
「何とか、戦果を挙げていたみたいですよ」
「フェンデルトン家の騎士団や、ストーン家の騎士団は?」
「一人の死人も出ていません。そこは、私が先頭に立って立ち回りましたから、騎士団に傷を付けるような真似はしていませんよ」
そう。
それなら良かった。
互角と言われていた戦から、全員が無事で戻れるのは、何よりだ。
やはり、アイリはすごい。
戦況を見て、自らが先頭に立ち、一人の死者も出さずに帰ってくるなんて、普通は出来ない事だ。
私は、千金を得たのだろう。
あの時、動いておいて良かった。
馬を走らせて、良かった。
彼女と友達になって、本当に良かった。
「前回のゴブリン騒動から、私も学んでいるんですよ」
そうか。
彼女はあの時、シャラ・スーが死んで、突出して我を失っていたと言っていたから、そこを教訓に、今回の戦争を乗り切ってくれたのか。
中身は学べるおじさんで、外見は鉄壁の美少女か。
それ。
完璧じゃないの?
「そう」
としか、私は言えなかった。
私は、こんな化け物に追いつかないといけないのか。
できるか?
やれるか?
いや、やるしかない。
彼女の主になるためは、弱い所を見せる訳にはいかない。
やるんだ。
私が積み上げてきた功績を、数回の出撃で飛び越えていかれたが、私も、負けてはいられない。
追い付かれ、追い抜かれた功績は、必ず取り返してみせる。
私はリーズディシア・エル・アンリ・フェンデルトンだ。
誇り高き悪役令嬢だ。
誰よりも気高く。
誰よりも計算高く。
俯く事無く。
誰の足も引っ張る事無く。
正々堂々と。
この世界を生き抜いてやる。
友達として喜ばしい功績を建てた彼女に、必ず追い付いてやる。
必ず、だ。
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