59 山を越えてです
「アイリ」
「はい」
「あんた、寝てないでしょ?」
邸宅を出してから数日、私はリーダーに、そう断言された。
まぁ、気付くわな。
だが、
「魔物を倒すのが、私の役目ですので」
魔物は私が寝ていようが起きていようが、関係なく襲ってくる。そう熟睡するほど寝てはいられないのだ。
それに。
「寝てはいますよ」
一日に三時間ほどではあるが、寝てはいる。
ホムンクルスたちに、魔物が来たら起こすように伝えて、寝てはいる。
魔物を倒しながらだが、寝てはいる。
判断が鈍る様な、貫徹のような真似は、絶対にしていない。
「大丈夫です」
と、私はリーダーにそう言った。
それよりも、今は山を下りて、ホッパドキア領に入ったところだ。魔物にも気を付けないといけないが、これからは、ホッパドキア領に入ってきている帝国軍にも気を付けないといけない。
帝国軍から離れるようなルートを選んで通っているとはいえ、邸宅を出す訳にもいかなくなったし、火を使う事も出来なくなった。
ここからが正念場だ。
寝ている場合ではない。
「大丈夫、大丈夫です」
私はリーダーにそう言って、殿を進んだ。
※
行軍のスピードが落ちている。
さすがに、魔物を避けながら、戦いながら、死と隣り合わせで峠越えをしてきたら、足も鈍るというものだろう。
冷静に考えると、私自身も完璧な状態を保ったまま今を過ごしている訳ではない。正直言えば、今すぐにでも休みたい。
同様に。
ホムンクルスたちも、戦闘員たちも同様で、気力も体力も尽きかけている。
非戦闘員は、言わずもがなだ。
手に取るように、目に見えないステータスが下がっている事がわかった。
酷く、疲れた。
※
それでも前に進まないといけない。
深い森を抜けて灌木が茂りだした頃になって、非戦闘員の一人が、とうとう倒れた。
よくもった方だと思いたい。
もうすぐ王国軍の陣営に到着すると励まし合って、非戦闘員の一人を即席で作った担架に乗せて運ぶ事にする。
行軍速度が、また落ちた。
ここで、リーダーが、
「応援を呼ぼう」
と、そう言った。
賛成だ。
ここで応援を待つ方が、生存に近付くのは間違いないと思う。
ただし、ここで誰を王国軍へ向かわせるか、だが、
「アイリ。お前さんの所のホムンクルスに頼んでも良いか?」
リーダーは、私にそう依頼をかけてきた。
それが丸いので、私は頷く。
が、
「私たちがアイリ様から離れるのは・・・・・・」
当の本人たちが否を唱えた。
だが。
「皆、王国軍の下まで走ってくれないかな。私はここから動けないし、応援を求めに行くには、ここの守りが手薄になる。走る速度や達成する可能性で一番高いのが、貴女たちが行く事なんです」
「それは、そうですが・・・・・・」
「貴女たちに譲れないものがあるのも理解できますが、ここはそれを曲げて、王国軍に救援を求めに行って頂けないでしょうか」
私がそこまで言って、
「かしこまりました」
ホムンクルスたちはそれぞれ頷いた。
うん。
それで良い。
あとは、私がホムンクルスたちの不在を埋めればいい。
彼女達の不在を埋めるとなると。
徹夜、だな。
意地でも、疲れ果てた皆を守り通さないといけない。
さて。
何徹で済むか。
「メアリー・プル」
「はっ」
「私たちは水場のある所へと移動します。貴女たちも疲れているでしょうが、二日で王国軍の所まで行きついて、四日で救援隊を向かわせなさい」
「はっ!!命にk・・・・・」
「命に代える必要はありません。何としても、五人でここまで戻ってきてください」
「かしこまりました」
ホムンクルスたちは、即座に行動に移した。
さて。
私たちは、水場を探して、移動しますかね。
「リーダー」
私はリーダーに、水場への移動を提案した。
※
近場の湧水を探しだして、そこを拠点とする。
非戦闘員は、そこで足を折った。
もう歩けないのだろう。
峠越えもあったから、よくやった方だとは思う。
だが、本当の正念場は、これからだ。
これから、最低でも六日間は、火も使わずに過ごさないといけない。幸い気候は暖かで、夜に毛布を使わないといけない程度だから良いのだが、多分、このパーティで負荷を負わずに過ごせるという人は一人も居ないはずだ。
私も、正念場だ。
ほぼ寝る事もなく、このパーティの番をしないといけない。
六日の間、睡魔と戦いながら、状態の悪い中、魔物との闘いを続けないといけない。
正念場だ。
※
二日が経過したところで、リーダーから休むように言われた。
だが、今ここで休んでしまうと、泥のように寝込んでしまうだろう。戦闘員も疲れている中、ここで一番戦える私が行動不能になるという事は、不測の事態が出てきた時に、非戦闘員を危険にさらす事になる。
下手したら、死者が出るかもしれない。
私は、やんわりと休憩を断った。
※
四日目。
パーディの雰囲気が悪い。
それもこれも、些細な事で、戦闘員が非戦闘員を怒鳴りつけてしまったからだ。
どちらも疲れている証拠だ。
奥方も、娘さんも、かなりの疲れが見えているらしい。
あと、もうちょっと。
もうちょっとの辛抱で、この旅から解放される。
もうちょっとだけ、もってくれ。
※
そして、約束の前の五日目。
先駆けて、メイニー・プルが水場に到着した。
王太子殿下が、救出の軍を編成してくれたそうだ。それを聞いて、リーダー以下、全員の顔に安堵の色が宿った。
やっと助かる、そう思った事だろう。
だが。
油断した時が一番危ない。
メイニー・プルに救援がいつ到着するのか聞いたら、今日の夕方になるとの事。
うん。
それまでは油断をするまい。
※
そして、夕方。
私たちは、王太子殿下が用意した軍に救出された。
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