57 脱出です
国境の山に面したその町に救出隊が到着したのは、私たちが冒険者を扮して到着するのと、ほぼ変わらない日の事だった。
救出隊は、何と、奴隷商に扮していた。
驚きはしたがよく考えてみると、非戦闘員を抱えて移動するには、良いやり方だ。
演技も上手い。
堂々と、奴隷商を装っている。
檻に繋がれたリーダーの女性を見るまでは、これが本当に救出団なのかと疑うほどだった。
私は、奴隷商に扮した恰幅の良い諜報員の下へ行って話しかけた。
「体力のある奴隷は、この中でどれくらい居る?」
「全部、活きが良いですぜ」
隠語で確認したところ、全員山越えをするのに問題無い体力を残しているようだ。
それなら、
「そこの娘を貰おうか」
リーダーの女性を指差して、私は諜報員に金貨を渡す。
そして、引き渡された女性を伴って、自分たちが取った宿へと連れて行った。
「よろしくお願いします、お嬢様」
どうやら彼女は、この町を出るまでは演技を続けるらしい。まぁ、言いたい事も解る。ここまで来て露見して、追手がかかるのを防ぎたいのだ。
だから私は、自分の部屋に連れて来るなり、
「これから上手くやっていけそう?」
とだけ聞いた。
「はい」
と、リーダーは返してくる。
よし。
ここまでは上手くいっているようだ。
なら。
あとは山越えだな。
私がリーダーに紙を渡すと、リーダーは、『今夜決行』とだけ書いて私に紙を返してきた。私は一つ頷き、ホムンクルス達に紙を見せ、
「他に言いたい事はありますか?」
と、リーダーに聞いた。
リーダーは首を横に振る。
つまり、他のパーティには既に連絡が行っているという事だ。
わかった。
夜まで待とう。
私はホムンクルスやリーダーに早く寝るように伝え、自らもベッドに入った。
※
パチリと目が覚める。
身体を起すと、暗闇の中、蠟燭を一つ灯して、皆が起きていた。
リーダーは奴隷服のままだが、ホムンクルスたちは既に全員が着替えを終えている。
私が最後か。
「時間は?」
そう聞くと、
「まだあるよ」
リーダーはそう言って私が着ていたインナーを投げ渡してきた。
「まぁ、急ぐに越した事は無いけどね」
そうですか。
私は急いでインナーに着替え、鎧を身に纏う。
その途中で、
「あたしの装備は、あんたが持ってるんだって?」
そう聞いてきたので、私はそう言えばと、アイテムボックスから預かっていたインナーと鎧と剣を取り出した。
リーダーも急いでそれを身に付ける。
私に遅れる事数分で着替え終わり、
「準備は良いかい?」
そう聞かれたので、
「いつでも」
私はホムンクルス達の顔を見た後、そう答えた。
「そうかい」
リーダーが一つ頷く。
「じゃぁ、行こうか」
私たちは宿代を置いて、暗闇の中に身を投じた。
城壁へと、音を立てずに走っていく。
そして。
無言のまま、城壁を超えた。
城壁を超えた後も、無言のまま街道を走っていく。
リーダーは、さすがにレベルが600台の猛者だけあって、スピードも、それなりの速度で走っていた。
「待ち合わせ場所は、この街道沿いの、ちょっとした丘になっている場所だよ」
その言葉に従って、走り抜けていく。
そうしてついた待ち合わせ場所には、既に十五名ほどの旅装に身を包んだ王国の諜報員が待っていた。
レベルは、今の所、300から550といった所だろう。
非戦闘員でも、そこそこのレベルを持っている。
これなら、山越えもそれほど難しい事無く可能ではないだろうか。
まだ、荷物が届いていないが。
リーダーは皆をまとめるために私たちの元を離れ、諜報員の中へと入っていった。私たちは、その様を眺めながら、残りの到着を待った。
やがて。
奥方を背負った諜報員が到着する。
なので、私はホッパドキア家の奥方に挨拶に向かった。
奥方は背負子に座っていて、
「お初にお目にかかります。ストーン辺境伯の養女で、アイリ・ジル・アイリーン・ストーンと申します。山越えできつい思いをさせるかと思いますが、なにとぞご容赦ください」
私の挨拶にも、
「あら、貴女が私たちを脱出させてくれる方なの?足が動かないから、自刃するしかないと思っていたけれど、生きてホッパドキアに戻れるのかしら」
元気そうに、そう応えてくれた。
これなら、大丈夫そうだ。
「ご安心を」
それだけを伝えて、私は諜報員の方へと足を向ける。
リーダーに話しかけると、
「全員揃った」
という事なので、リーダーを先頭に、私は殿で、丘を降りて森へと入っていった。
さぁ。
気を引き締めろよ、アイリ。
もう森の中だ。
まだ人道があるとはいえ、何が起きるか分かったものじゃない。
以前、森に入ってブルーオーガを狩った時や今回山を越えた時とは、状況が違うぞ。今回は、護衛対象が居て、その人達を守りながら魔物を狩らないといけないのだ。
全員にバフをかけているとはいえ、一撃さえ入れさせてはならない。
レベル954の実力の見せ所だ。
何が出てくるか。
ゴブリン程度なら、諜報員で戦闘のできる者だけでも何とかなるんだろうが。山深くに入っていくと、それなりにレベルの高い魔物もいたしな。
私は木の枝に登り、ホムンクルスたちと共に、見晴らしの良い所から一行の周囲を窺った。
と。
メルト・プルが、
「アイリ様」
と、鋭い声を上げた。
もう見つけたか。
暗いのに、よく夜目が利く。
「どっち?」
「左前方、ゴブリン七体」
「はい」
私は皆が気付くよりも先に、枝から枝に移り、ゴブリンを頭上から襲撃した。
そしてまた、殿の定位置に戻る。
さぁ。
旅はまだ始まったばかりだ。
これからも、ガンガンと魔物を倒していこうか。
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