55 現地のスパイとの会合です
日が傾く頃になって、私は目を覚ました。
やはり気疲れしていたのかね。
結構、ぐっすりといってたよ。
その分、メアリー・プルは眠らずに警戒をしていたようだから、悪い事をしたと思う。彼女も疲れはあったはずなのに。というか、私以上に気疲れをしていたはずなのに、私の事を優先して、私が眠るまま、自らが起きているという手段を選んだのだろう。
私が寝た時のまま、そこに立っていた。
「悪いね、メアリー・プル」
私は正直に、メアリー・プルに謝罪の言葉を投げた。
「いえ」
しかし、メアリー・プルは、私の謝罪に対して、必要ないものだと言い切る。
「従者に謝罪は必要ありません」
そして。
それに、と言葉を続けて、
「ここは敵地ではありませんよ」
と、確信を持って言い切った。
「間もなく、夕食の時間です」
「ああ」
もう、そんな時間か。
私達は、用意されたリビングへと向かう。
他の四人は、メアリー・プルから連絡を受けていたのだろう。既にリビングで、私の到着を待っていた。
「待たせたね」
「いえ」
「主に対する礼は、今は要らないよ。気を抜いて良い。私たちは冒険者という肩書でここにやって来ているのだから」
深く頭を下げるホムンクルス達に、私はそう言う。
そこで、ホムンクルス達は頭を上げた。
同時に、部屋の扉がノックされる。
メイジ・プルが入室許可の返事をすると、先程のウェイトレスが、数人を従えて入室してきた。
表向きはウェイトレス然としているが。
連れて来た数人もレベル550を超える一人前以上の騎士クラスのステータスを持った猛者ばかりだ。多分、これから私たちの用向きを聞くために揃ったのだろう。
ウェイトレスは、とりあえず私たちの夕食を準備して、
「さて」
と言った。
「あんたたちは、シンフォース王国からの使者かい?」
ウェイトレスの口調ががらりと変わる。
こちらがこの人の正しい姿か。
なら。
「ええ」
こちらとしても、偽らずに接することにしよう。
「アイリ・ジル・アイリーン・ストーンと申します」
「へぇ・・・・養女とはいえ、貴族の、それも辺境伯家の娘さんかい」
「縁あって、そんな肩書を頂戴しております」
「そんな娘さんが、帝国まで来て、何をしようってんだい?」
「ホッパドキア家の奥方と、娘さんを救出しようかと思いまして」
「また、難しい問題を持ってきたもんだね」
ウェイトレスさんはそう言って、腕を組んだ。
なんでも、ホッパドキア家の奥方と娘さんは、最上級の人質として、帝都の城に軟禁されていると言うのだ。
「かなり、難しい作戦になるよ」
とはいえ、現在ホッパドキア家が寝返っている状態で膠着しているので、王国としてはホッパドキア家の奥方と娘さんを救出して、再度こちらに付けたいという狙いがある。
「そう思ってね、作戦は立てているんだけどさ」
王国からの指示は無いが。
彼女達は独自に動いていたようだ。
帝都の間諜も、ホッパドキア家の奥方と娘さんに付いているし、決行は出来るのだが、如何せん、救出してからが問題なのだそうだ。まず、奥方の方が動けないと言うのだ。どうやら、脚の腱を切られて身動きが取れないらしい。娘さんもまだ十四歳で、山越えをさせるには少し幼い。
路も悪い。
かなり足の遅い脱出行になる。
山岳地帯には魔物が居るから、良い餌がやって来たと思われるだろう。
「だから、あたし達だけじゃ、難しいんだ」
救出は出来ても、脱出は難しいというのが、ウェイトレスさんの言葉だった。
うん。
王国の間諜は、かなり優秀だね。
「帝都までは、どれくらいあるんですか?」
「意外と近いよ」
馬車で七日程の所だから、国境までの道のりは何とかなるらしい。
そこまで御膳立てが出来ていたら、あとは難しくないんじゃないだろうか。
「ホッパドキア家の奥方と娘さんを救出したとして、それに伴って帝国を脱出しないといけない間諜の人数は?」
「ザッと見積もって、三十人だ」
「その中で、戦えるという人は?」
「あたしレベルの戦士が五人だね。ここにいる全員が、戦える間諜だよ。王都の方は、戦えないと思ってもらって良い」
うん。
なんとかなりそうだ。
私とホムンクルスたちを加えると、戦える戦士の数は十一人。バフもあれば回復役もいる。奥方と娘さんを担いでいくので、徒歩で国境を超えるのに時間がかかるのは仕方がないとして、レベル600台の戦士が揃っているのなら、その間、魔物を狩って進むに十分な人数だ。
私達が加われば、国境を超えるのも、不可能ではない。
「やってみませんか?」
私の言葉に、
「あんた等がどれくらい使えるか、だよ」
ウェイトレスさんはそう言うが、
「ワイバーン程度でしたら、私一人で何とでもなります」
ワイバーンの皮をアイテムボックスから取り出してそう答えると、
「そうかい」
彼女は納得したのか、一つ頷いた。
私たちは山を越えて来たとも伝えた。
魔物を倒せるという事も伝えた。
あとは、彼女たちがどう出るか、だ。あとは、彼女たちが、私の言葉を信じてくれるかどうか、だ。
さて。
どう出る?
しばし待った後、ウェイトレスは連れて来た戦士たちを見回し、こう言った。
「・・・・・・やってみるか」
その言葉に、戦士たちは静かに頷いた。
おお。
やってくれるか。
ぶっちゃけ、奥方の救出は、私たちだけじゃ不可能だったからな。
ありがたい。
救出までが出来ると言うのなら、全てを任せよう。
あとは・・・・・。
「あたし達が救出に向かっている間、この店をどうするか、だね」
いずれは捨てる店だとしても、救出を行っている間、怪しまれないために、三日ほどは営業をする必要があるという。
「怪しまれてはいないけれど、ま、一応ね」
そこで、ウェイトレスは私たちをじっと見た。
下から上へ、値踏みするような目で見てくる。
そして、
「うん」
と頷いて、
「あんた達、店に出な」
と、そう言ってきた。
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