52 軍議再びです
やはり。
やはり、なのだろうな。
帝国がこちらに戦争を吹っかけてきたのは、やはり、と言うべきなのだろう。
戦術的に見れば、帝国軍一万に対し、こちらの軍は二万居る。正面からぶつかれば、まず相手にはならないだろう。
だが。
相手の一万の軍の目的が、こちらの足止めにある、と見たらどうか。
こちらの王国軍二万をここで足止めしておく事で、辺境伯領への侵攻がしやすくなる。援軍を考えなくても良いからだ。
少なくとも、帝国軍一万の侵攻には目をつぶる事が出来ない。
そして。
こちらが帝国軍一万とホッパドキア家に手間取っている間に、帝国は親征の準備を行い、堂々と辺境伯を倒して王都への一本道を進む気ではないのだろうか。
二方面作戦だ。
こちらは、釣り出された形になっている。
そこまでのシナリオは、私にもわかった。
帝国の目的は、上手くいけば、王国の半分を持っていく事にある。
下手をしたら、それだけでは済まない。
のではなかろうか。
戦略的には、苦境に立たされることになったが。
王国軍は、どう動く?
辺境伯家への援軍を送れば、こちらが撃破された時にホッパドキア領から帝国軍が雪崩れ込んでくることになるし、援軍を送らなければ、辺境伯家は苦境に立たされることになる。いずれにしても、判断を誤れば、王国は危機にさらされる事になるが。
私は、開かれた軍議の席で、周りの意見をじっと聞いていた。
意見は三つに分かれている。
早急に目の前の一万を叩き、帝国の親征を事前に抑え込むか。
軍を分けて辺境伯家への援軍とするか。
国王陛下が王都へ帰り、檄を飛ばして新たなる援軍を求めるか。
一長一短があるように、私には思えた。
だが、その三つから選択しないと、他に策があるようにも思えない。
さて。
封建制であるがゆえに、国王陛下には難しい決断を強いる事になるが。
果たして。
「私が王都へ帰り、軍を再編して、辺境伯の応援へ回ろうかと思う」
と、国王陛下は決断を下した。
それを選ぶか。
と、なるど、だ。
「こちらの軍は、どなたを旗印に立てるおつもりですか?」
その問題がある。
そこで、国王陛下は、
「アウルディールで良かろう」
と、王太子殿下を推してきた。
「アウルディールも、もう十八になる。いずれは私を継いで軍を率いねばならん。丁度良い機会だ、こちらの戦線はアウルディールに任せる」
「はっ!!」
全員が了承の意を唱える。
ただし、
「参謀は、いかがいたしましょうか?」
当然、経験の乏しい王太子殿下では心配があり、参謀の存在は聞かれる話で、
「マズル侯爵とグラップリン伯爵を付ける」
と、用意されていたかのように、国王陛下は参謀を決めた。
これは、用意されていた作戦だな。
私がそう思うくらいだから、他の家の方もそう思ったのだろう。そのお言葉に、決定事項と、皆揃って頭を垂れた。
「アウルディール」
「はっ!!」
「マズル侯爵とグラップリン伯爵は、有能な人物だ。戦場では二人を父のように敬い、意見を取り入れよ」
「心得ました」
「二人の献策でもどうにもならない時は・・・・・・」
そこで国王陛下は言葉を切って、私の方をしっかりと見て、こう言った。
「一人の武が、戦況を変える事もある。経験は浅いが、アイリ嬢に頼るのも一つの手だと心に留めておけ」
「肝に銘じます」
これは。
手詰まりになった時の切り札にされてしまったかな。
一応、言っておくか。
「私は、二万の軍勢の戦況が不利になった時に、それを覆す事が出来るほど、武勇に優れてはおりません」
買かぶり過ぎだ。
如何にレベルが高かろうと、集団の中で囲まれてしまえば死神が隣り合わせに居るという事は、この前のゴブリン騒動の時に見て、体験して、知っている。
私は、決して万能な戦士ではない。
ゲーム上でチートと呼ばれるようなプレイヤースキルや装備を持っていても、現実の世界に来てしまえば、ただ強いだけの槍使いだ。殺気の察知など先日覚えたばかりだし、戦場で、これは持っていないとまずいというようなスキルを習得していない可能性が高い。
一対一なら、自信はあるが。
それだけだ。
たったそれだけの騎士にもなっていない小娘に、戦況を覆すような大それた事を期待されても、困るのだ。
「まぁ、実際に戦闘になったら分かる事だ」
国王陛下は、私に、一体何を見ているのか。
将来性はあるかもしれないが、現段階では、初陣を飾った一兵卒だぞ。
「アイリーンが、そうだった」
お義母様がどうだったって?
「彼奴は、学生の頃から強く、前線に出ても、とにかく傷を負わない奴だった」
だから?
「アイリ嬢も、彼奴と同じ匂いがする。いや、むしろ、アイリーン以上の逸材だと思っている」
それは、現段階でアイリーン義母様より強いのは認めるが。
足りない所もあるんじゃないのか?
比べられても困るのだけど。
「期待しているぞ、アイリ嬢」
まぁ、そう言われてしまえば、
「ご期待に沿えるよう、努力をいたします」
としか答えようがない。
さて、敵将の首を挙げて、殺人処女は捧げたが。
どこまでできるかは、未知数ですよ?
「それでは、解散だ。各自、持ち場に戻り、次の指示を待つように」
※
「それで、軍議はどうでした?」
フェンデルトン家の陣に戻るなり、フィリッポ卿がそう聞いてきた。
私は国王陛下がどう動くのかを説明した後、
「なんか、期待されちゃっているみたいなんですよね」
国王陛下の言葉を、話した。
結果、フィリッポ卿の答えは、
「覚えめでたく、喜ばしい事ではありませんか」
という言葉だった。
まぁ、臣下としては、喜ばしい事なんだろうけど。期待に応える事が出来るかどうかが不安なんだよね。
そう愚痴ると、
「とはいえ、アイリお嬢様はホッパドキア家の将を討ちとったという実績がありますから、いずれにせよ、ホッパドキア家からは目の敵のように狙われる事になると思いますよ」
そういう答えが返ってくる。
期待に応える以前に、私には敵が群がってくると。
そういう事か。
次の戦いでは、私が中心になって戦うという事か。
私が活躍すれば、戦況はこちらに傾くという事か。
国王陛下が言いたかったのは、そういう事か。
だが。
飄々と言ってのけるが、それはつまり、フィリッポ卿にも敵が群がってくるという事になるのではなかろうか。
それを指摘すると、
「むしろ望むところです。アイリお嬢様からは生き残るように指示をされていますが、武人たるもの、戦場に於いて中心に立つという事は名誉な事ですから」
フィリッポ卿は、胸を張ってそう答えた。
はぁ・・・・。
私が先走ったばかりに、皆を危険な目に合わせる事になるのか。
出来れば、
「生き残る事を優先して考えて欲しいのですけどね」
ストーン家の家臣は、揃って凱旋して欲しいものだ。
「無論、そのご命令は、最優先事項ですよ。生きてこその手柄ですからね」
フィリッポ卿は、白い歯を見せて、ニヤッと笑ってみせた。
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