49 出征です
「じゃぁ、行ってくるね」
私は馬上から、ロスティに笑顔でそう言った。
馬に乗れるのかって?
練習しましたから。
歩く程度であれば、馬にも乗れるようになっているんです。
日々、成長の毎日ですよ。
あ。
リーズディシア嬢が居ないのはお察しです。
男も女も、想い合う人が出来てしまうと、そっちの方に行ってしまう、それだけの事です。他にも、フェンデルトン家の騎士たちのお見送りなど、忙しいでしょうし。
という事で、私はロスティに別れを告げて、ストーン家の騎士やホムンクルスたちの元へと馬を進めた。
「アイリお嬢様、こちらです」
呼ばれた先に行ってみると、そこはフェンデルトン家の騎士たちの居並ぶ場所の一角で、フェンデルトン家の騎士たちに囲まれるような形で皆は集まっていた。今回の作戦では、ストーン家の騎士は少ないから、フェンデルトン家の騎士の一部隊として運用される事になっているのだ。
フィリッポ卿の所へと馬を進める。
そこには、見慣れない、レベル600台の中年の騎士が同席していて、
「フェンデルトン家の騎士団の代表を勤められる、カルド卿です」
フィリッポ卿にそう紹介された。
カルド卿は、
「よろしくお願いします。並み居るストーン家の中でも、貴女は飛びぬけて槍の扱いがお上手なのだそうですね。ブルーオーガやゴブリンキングなど、上位の魔物も一蹴しておられるとか。我々にも、そのお手並み、存分にお見せいただきたいものです」
そう言って握手を求めてくる。
それに応えながら、
「ただ槍を得意とする小娘です。状況把握や、集団での戦い方など、まだまだ勉強中の、本当の小娘です。こちらこそ、軍の運用など、色々と勉強をさせてください」
正直に、そう言った。
「ご謙遜を」
そう言われても、謙遜などではない。
本当に、私には冷静な判断というものが足りていないのだ。
ゴブリンキング討伐の時に、深く、そう思った。シャラ・スーをレイプされて殺されて、頭に血が登って指摘されて、熱くなりやすい性格なのだと、深く、そう思った。
そこを忘れてはいけない。
だから、
「本当に、友人や知人に何かがあると、頭に血が上りやすいようで、冷静な判断というものが出来ないような性格をしているようなのですよ」
そこを強調して、自分が未熟である事を主張しておく。
しかし、カルド卿はそれさえも謙遜と取ったらしく、穏やかに微笑んで、
「期待していますよ」
そう言って、自らの部隊を率いるために手綱を取って行ってしまった。
「フィリッポ卿」
「はっ」
「カルド卿にも申し上げた通り、私には未熟な点が多数あります。槍捌きには自信がありますし、自分が生き残る事に関しても自信はありますが、如何せん、部下を生き残らせる事、部隊の運用に関しては素人です。謙遜でもなんでもなく、そうなのです。貴方たちを生き残らせる努力はします。が、上手くいかない場合も想定しておいてください。力を貸してください。よろしくお願いしますね」
「かしこまりました」
だから、フィリッポ卿には念を入れて、私の不具合を伝えておく。
多分、これで伝わった事だろう。
「副官として、精一杯、アイリ様のご期待に沿えるよう努力いたします」
そう言っていたから。
さて。
出発の鐘が鳴る。
号令に従い、先陣を切るどこかの侯爵家の部隊が動き出す。フェンデルトン公爵家は王太子殿下の居る国王陛下の軍のすぐ前になるから、結構遅めの出発になる。
まぁ。
それまでは、緊張をほぐしながら待つとしようか。
「しかしながら」
「何でしょうか?」
隣にいたメアリー・プルに話しかける。
「新兵って、こんな気分なんですかね」
「どのようなご気分なのでしょうか」
「何て言うかね、人を殺す緊張感っていうのかな、そういうのが纏わりついている感じがするんですよね」
「あぁ・・・・・・」
メアリー・プルが、納得がいったという感じで頷いた。
そこに、メイジ・プルが口を挟んでくる。
「普通は、盗賊などの退治から人を殺す事に慣れていきますからね」
「という事は、私のように戦が初めての人殺しになる様な人って、意外と少なかったりするのですか?」
「そうですね」
「この中だと、王太子殿下やお付きの方など、くらいではないでしょうか?」
「もしかしたら、犯罪者の処刑で人殺しを経験しているかもしれませんが」
「他にも初陣を飾る学生は居ますよね」
「居ると思います」
「その人達も、同じように人殺しを経験しているのでしょうか?」
「まぁ、十四、五歳で経験するのが、貴族の家庭では一般的なのではないでしょうか」
「そう、ですか」
そうか。
人殺しを初めて経験するような十七、八の戦士は、ほぼ居ない訳か。
そうか。
初陣で人殺しをするのは、私くらいのものか。
うん。
意外とこの世界、私の様な転移者には、厳しくね?
命の重さを、いきなり突き付けてくる。
私は天を仰いで、思いつく限りの罵詈雑言を神に捧げた。
まぁ、あの神の事だから、ニヤニヤしながら見ているんだろうけど。
地球出身の私の事なんか、どうでも良い存在なんだろうけど。
そんな私を見て、
「アイリ様、神に祈りを捧げておいでなのですね。敬虔な方で、さぞかし造物主も喜んでおられる事でしょう」
ホムンクルス達はそんな事を言っている。
違う。
そうじゃない。
私に信仰なんて、ありはしない。
あんなふざけた神なんて、信じちゃいない。
まぁ、言わないけどさ。
あー。
罵詈雑言を考えてたら、少しは緊張がほぐれてきたかもしれない。
そういう意味では、神に感謝してやっても良いな。
ホムンクルス達には叱られるかもしれないが、そこは私の信心だ。好きにさせてもらう事にする。
「貴女たちも、祈っておきなさい」
まぁ、祈りが通じる相手ではあるから、この世界の住人なら、祈っておいて損は無いだろう。
「はい」
そう言って、ホムンクルス達は、見慣れた、独特の印を切った。
この世界の住人には優しい神様だからね。
信心深いと良い事が起こるよ、きっと。
「フェンデルトン家騎士隊、前へ!!」
丁度、ホムンクルス達の祈りが終えると同時位で、その号令がかかる。
私たちストーン家の騎士たちも、その声に合わせて馬を前へと進ませた。
そして、
「フェンデルトン家騎士隊、出立!!」
門の前で一旦整列をした私達は、号令一下、門を潜って王都から出た。
リーズディシア嬢やロスティの顔も、見送りの人混みの中に見つけた。
私は運が良い。
さぁ。
初陣だ。
どうなるかは分からないが、冷静に、戦況を見て、誰一人死なないようにするのが私の仕事だ。
騎士や従士などの身分は関係ない。
全員で、この王都に帰ってくるんだ。
じゃぁ、
「行こうか」
私は皆に向かってそう言った。
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