48 出征が決まりました
ホッパドキア家謀反の噂は、瞬く間に全国に広がった。
王家が意図して広げたものだろう。
その噂の真偽を確かめる為、というのを理由に、王国軍を設立するという事で、各地に檄が飛んだ。
各地から続々と、部隊が送られてくる。
近隣の公爵家からは一早く、そして西側の侯爵家や伯爵家などから数百名単位で兵士が送られてくる。
そんな中、少数ではあるが、ストーン家からも騎士が送られてきた。
「西の守りを固める必要がある為、我々十五名の騎士のみとなっております。機動力を確保するために、従者にも馬が与えられております」
というのが、騎士のリーダーからの言葉だ。
そして、そのリーダーは、事もあろうか、十五名の騎士を後ろに控えて、
「以後の指揮権は、全てアイリお嬢様に帰すものとせよ、との辺境伯様からの指示でございます」
などと言い切った。
同時に、騎士が全員、私に一礼をする。
私に初陣を経験しろと言うのか。
そう言うと、騎士のリーダーは、真顔で、
「左様です」
と、私を戦地へと、当然のように誘う。
理由は分からなくもないよ?あれだろ?次期辺境伯家の指揮官としては、早めに戦争を経験させておきたいんだろ?
それは分かるよ?
レベルも600超えの精鋭を揃えてくれているし、敏捷に偏っているから私に合わせてくれているのも分かるんだけど。
心遣いは分かるんだけど。
だからって、学生に指揮権を握らせるか?
だが、
「奥様も、学生の頃に出陣しておられますが」
そう言って、騎士のリーダーは私を戦争へと誘った。
分かった。
分かりましたよ。
私も覚悟を決めますよ。
私は一息吐いて、
「私は部隊の指揮をした経験なんて、一回もありませんからね」
と、そう言った。
「サポートはしっかりと行います」
「貴方、名前は?」
「フィリッポ・フォン・エリザ・ダクネスと申します」
「では、フィリッポ卿、貴方が部隊の直接的な指揮を取ってください。あと、私は前線に出て失敗した経験があります。前に出過ぎないように、貴方が手綱を握ってください」
「承知いたしました」
そのフィリッポ卿の言葉を締めに、騎士全員が敬礼をする。
はぁ・・・・・・。
さて。
リーズディシア嬢になんて言おうかな。
※
と、いうことで。
出征する事をリーズディシア嬢に話したら、
「良いんじゃない?」
との答えが返ってきた。
良いんだ。
「アイリが早めに実戦を経験しておくことは、私にとっても益になる事だし」
でもまぁ、うん。
考えてみれば、それもそうだな。
リーズディシア嬢は、私の事を武将として見ているんだからな。そりゃ、早く対人での実戦経験を積ませたいと思うか。
ただ、
「死なないで、帰ってきてね」
と言われただけでも、友人扱いをしてくれているという事だろうし、良しとしよう。
それよりも、だ。
リーズディシア嬢は、話しながら、何をしているんだろう?
「リズ、何です?それ」
「刺繡よ」
それは、道具も日本の物とさほど違いがある訳じゃないから分かるんだけど。
「何故、今?何故、学院に持ってきてまで?」
今までこんな事をした事が無かったのに、今になって、何故刺繍何て始めるのだろうか。
聞くに、男性が出征をする場合、女性から女性の家の家紋の入った刺繍を贈るとその男性は無事に帰って来るという言い伝えがあるのだそうだ。
「という事は、王太子殿下に?」
「ええ、そうよ」
「へー、それがフェンデルトン家の家紋ですか」
「いえ、これは、王家の家紋よ」
「ほう・・・・・」
自分の家の家紋と言わなかったっけ?
王家の家紋だと、リーズディシア嬢は、王家の娘という事になるのだが。
「私はね、王妃様から、王家の家紋を縫う事を許されているの」
「へー」
もう、王家に嫁入りする事、確定じゃん。
しかし。
女性も出征するのだが、その場合はどうなるのだろうか。
それを聞くと、
「女性は、自分で自分の家紋を縫うのがしきたりよ」
と言われてしまった
この世界では、女性は、自分の出征の前に、無事を祈って出征前に刺繍を縫うのが常識なのか。私には出来ない事なのだが。
「そんな事、解っているわよ」
リーズディシア嬢はそう言うと、自らの指に針を刺して、血を一滴、刺繍に垂らした。
「ありゃ、折角の刺繍が」
「何を言っているの。こうやって、血を一滴垂らしておくと、私も出征に連れて行っていただいているようで、嬉しいでしょ?」
おいおい。
フェンデルトン家の女性は、皆ヤンデレ気質なのか?
「まぁ、貴方の刺繍には血は付けないから」
そうしてもらえると助かります。
というか、
「私の刺繍も縫ってくれるのですか?」
「フェンデルトン公爵家の家紋になるけれど、ちゃんと縫ってあげるわよ。どうせ、貴女には出来ないでしょうから」
「出来ませんね」
「感謝しなさい」
「そうですね、ありがとうございます、リズ」
こんなおっさんにも、心配してくれる娘っ子は居るもんなんだな。
ありがたい事だ。
「こんなおっさんに、贈り物をしてくれるなんて、なんて良い娘さんなんだろう」
「何言ってるの。貴女はどう見ても、可愛らしい女の子よ」
「中身はおっさんですって」
「そう?」
「なんなら、今、リズにキスして見せましょうか?」
「私には将来を誓った方がいらっしゃるのを知っているでしょう。ごめんなさい」
リーズディシア嬢は、本当に嫌そうな目で私を見た。
さすがに、ライクであって、ラブじゃないのね。
まぁ、友達だし、当然と言えば当然か。
王太子殿下が居るもんね。
「まぁ、真面目な話」
「ん?」
「死なない事。これは約束して」
そうですね。
死なないように頑張りますよ。
「副官の騎士様にも首輪を引っ張ってもらうよう言ってありますし、ホムンクルスにもそう伝えます。出過ぎた真似はしませんよ」
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