47 動き出しました
珍しくサロンにやってきた王太子殿下が、リーズディシア嬢と私を呼び出した。
内密の話がある、という事で、人払いをして、サロンの一角を占拠する。
王太子殿下の周りに集まったのは、リーズディシア嬢と私とエルフィン嬢、そして王太子殿下側からはフェイト様とミリーネ嬢、そしてもう一人は見た事の無い男子生徒だった。恐らく、ランド卿の代わりの人材なのだろう。
と、思っていると、
「とりあえず、この男の紹介からだな。この男はジルド。フェイトの紹介で、私の下にやってきた男だ」
やはりと言うか、ランド卿の代わりの人材だった。
口数が少ないのか、ジルド様は私達に一礼するのみで、挨拶を負える。
そして、本題に入った。
「ミリーネ嬢の里親が決まった」
その話か。
リーズディシア嬢の話では、ジルベール家以外の侯爵家が出てくる可能性が高いという事だったが。
たしか、ゲームでの初期の名前がミリーネ・シルク・オーサ・ロンドで、途中からミリーネ・ジル・オーサ・ホッパドキアに変わっていたという話だったから、ホッパドキアという家になるのだろうが。
「ホッパドキア家だ」
やはり、か。
私の位置からは見えないが、リーズディシア嬢の眉がきっとピクリと動いている事だろう。
さて。
そのホッパドキア家だが。
「中央に進出しようという野心をむき出しにしてきた」
王太子殿下は、苦々しくそう言った。
という事は、だ。
王太子殿下も、ホッパドキア家が中央に進出してくることを望ましいとは思っていないという事か。
それを聞くと、
「アイリ嬢の言う通り、王家はホッパドキア家が中央で権力を握る事をよしとしていない」
という答えが返ってくる。
という事は、だ。
王太子殿下の後見人として立つのは、従来の予定通りフェンデルトン家であって、ホッパドキア家ではないという事を、王家が表明したのか。
という事は、だ。
リーズディシア嬢が心配していた婚約破棄は、絶対に無いという事か。
聞かされてはいたが、国王陛下の名前でしっかりと未来を示してくれたら、リーズディシア嬢も安心が出来るというものだ。
リーズディシア嬢を見ると、明らかに肩の力が抜けていた。淑女たるもの、常に緊張と隣り合わせだと言っていたリーズディシア嬢が、明らかに緊張するという事を忘れていた。
「リズ?」
「え、あ・・・ごめんなさい。私とした事が」
そう言って、リーズディシア嬢は背筋を正す。
それを見ない振りをして、王太子殿下は話を続けた。
「リーズディシア嬢がミリーネ嬢を母上に紹介してくれたという事は、側室としてミリーネ嬢を迎える事を認めてくれたという事で問題ないんだな」
「そこまで私も狭量ではありません」
「では、リーズディシア嬢。結婚の話を進めても問題無いな?」
「ええ、それは構いませんが」
「が?」
「急ぎなのでしょうか?」
「急ぎだな」
なんでも、王太子殿下の話では、学生の今から結婚の話が現実的になってきたと噂に上らせて、一年後に正式に結婚の発表をし、そこから結婚まで一年をかけて準備をするというのだ。王族の結婚にしては急ぎ足となるが、との事だ。
ほぼ、二年か。
私にはそれが急ぎ足なのかどうか判断はつかなかったが、リーズディシア嬢にしてみると、それは王族の結婚としてはかなり急いでいると思えたようだ。
「裏が、あるのですか?」
そんな風に、王太子殿下に聞いたからだ。
「私としては、リーズディシア嬢との結婚を早めるのは歓迎だし、そこが大前提だ。で、父王陛下からミリーネ嬢との結婚はその二年後と言い渡されている。四年後ともなれば、ミリーネ嬢としては婚期を逃がした状態だ。彼女にも、早いうちに私の所へ来て欲しい。だから、リーズディシア嬢との結婚を早めるという事だ」
と、王太子殿下はそう言った。
おいおい。
それじゃ、ミリーネ嬢との結婚を早めたいからリーズディシア嬢との結婚を前倒しにすると聞こえるぞ。
馬鹿ではないので、正直なのだろう。
一夫多妻が当たり前のこの世界では、これが当たり前なのだろう。
が。
残念ながら、リーズディシア嬢は半分が日本人だ。
どう出るのか。
私はひやひやしながらリーズディシア嬢を横目で見た。
が、意外にも、
「わかりました」
と言って、王太子殿下の言葉をそのまま受け入れる。
本当に意外だった。
王太子殿下に思い入れのあるリーズディシア嬢だからこそ、こんな言われ方をしたら、私は二番目なのか、と問い詰めたくなるのではないかと思っていただけに、本当にリーズディシア嬢は意外なほど冷静に王太子殿下の言葉を受け入れた。
リーズディシア嬢は、今、何を考えているのか。
分からなかったが、私が口を出す事ではないので、黙って二人の会話を見守った。
「あの、リーズディシア様」
と、ここでミリーネ嬢が口を挟んでくる。
なんだ。
今、貴女の出る幕じゃないだろう。
そう思ってミリーネ嬢を見ると、ミリーネ嬢は恐る恐ると言った感じでリーズディシアに向かってこう言った。
「私の婚期が遅れる事を慮って、お二人の結婚を早めるなど、恐れ多い事ではありますが、申し訳ありません、あと、ありがとうございます」
この言葉にも、意外にもリーズディシア嬢の眉が上がる事は無かった。
ただ、
「貴女の為じゃないわ」
とだけ言って、再び王太子殿下に向き直った。
「ホッパドキア家は、どうなさるおつもりで?」
「現当主には退いてもらって、あそこは幼い息子が居たはずだから、その息子に当主の座を譲ってもらう」
「首を縦に振りますか?」
「振らないだろうな」
「では、戦争ですか」
「討伐だ」
「背後関係は?」
「ティンギルス帝国の事か。今、洗っている」
「背後にティンギルスが居た場合は?」
「速攻でホッパドキアを討伐して、帝国には内政干渉をするな、と、釘を刺したいと思っている」
「それで納得しますかしら」
「納得しなかったら、今度こそ、戦争だろうな」
「東側諸侯の結束は?」
「そこも洗っている。今の所、こちらに付くと安心して言えるのは七割といったところだろう」
「かなり愛国心は高いようですね」
「そうだな」
そうなのか?
三割が帝国側に付くかもしれないという可能性は、意外と愛国心は低いんじゃないのか?
「そこはね、アイリ。自分の領地の現状を考えたら静観に徹する貴族も居る、という事よ」
「という事は、帝国側に付く可能性のある貴族は意外と少ないと?」
「ホッパドキア家が帝国と通じているとしたら、その寄り子で、追従する所が有るかもしれないといった所じゃないかしら」
「そうなると、ホッパドキア家はどうなるのでしょう?」
「取り潰しになるだろうな」
「ミリーネ嬢はどうなるのですか?」
「そこは、寄り親の寄り親であるジルベール家に頼むしかないだろうな」
リーズディシア嬢が、そこで口を開く。
「ミリーネの安全はどうなさるのですか?」
「そこは行儀見習いを始めたばかりという名目で、王宮に寝泊まりしてもらう」
「では私は、ホッパドキア家に注意をすれば良いという事ですね」
「筆頭は、な」
「心得ました」
と、リーズディシア嬢が顎を引いて了承したところで、王太子殿下がこちらを向いた。
なんだ?
「リーズディシア嬢にも危険が及ぶ可能性がある。寄り子の家も、要注意だ。フェンリル、彼女を頼むぞ」
その真剣な目に、
「承知いたしました」
私は気持ち新たに、リーズディシア嬢を守る事を誓うのだった。
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