46 何気ない会話からリーズディシア嬢の本質が見えました
ここシンフォース王国は、貧しい国ではない。
領土面で見ると世界第六位とそれほど大きくはないし、人口面でもそれほど多くを抱えている訳でもない。
だが。
経済面で見ると他の国を大きく引き離して一位の座に君臨している。
やはり、東西をつなぐ要所という所が大きいのだろう。
とはいえ、国防に力を入れていないと他国からの侵攻にさらされるので、そこで手を抜く訳にはいかない。
よって。
軍事的な大国に、自然となる訳だ。
東も西も、自領で力を蓄えつつも、それでは足りないので、王都に応援という名の金の無心をする。当然、より多くの予算が欲しいので、自分達に有利になるように取り計らってもらおうと、政界の中枢へと献金を行ったりもする。
そういう汚い面も持っている国だ。
つまるところ。
ストーン家も、御多分に漏れず献金を行っている訳で。
ブルーオーガの皮やコカトリスの素材、ワイバーンの皮などの珍品も紛れて、王都の屋敷へと献上品が届いた。
非常に状態の良い逸品らしいので、素材を受け取った者は、さぞかし喜んで王家へと献上する事だろう。
てか。
私が狩った奴じゃん。
ハロー、ブルーオーガ、廻り廻って、また会ったな。
人類にあだ為す存在だから敵対させて頂いたけど、お前さんにも仲間は居ただろうに。
悪いな。
シャラ・スーを喪った今なら、そう思えてしまう。
駄目だな。
もっとドライにならないと。
王国に、フェンデルトン家に、リーズディシア嬢に、ストーン家に、そして私に敵対するという勢力が有るかもしれないという現状から考えるに、敵は敵と見做さないと、こっちが食われるぞ。
私は思い直して、献金の品が贈られていくのを見送った。
「中央官僚は献金で肥え太り、地方はその進言で予算を得て潤う。アイリ様、中央の政治に幻滅されましたか?」
「まさか。政治に金はつきものだと、理解しているつもりですよ」
しかもこの世界は、封建社会だ。
政治にクリーンさを求めても仕方がないのくらいは解っている。
そこまでお子様じゃない。
要は、国民のための政治をしているかどうか、なのだ。
そういう意味で、ストーニアは、良い政治をしていると思えた。この程度の献金を行って出来上がっているのであれば、全く問題ないだろう。この王都も、そういう政治をしてくれているようだから、全く問題ない。
「そうですか」
今日のお付きの一人であるメイニー・プルは、そう言って、
「では、学院に行く準備をしましょうか。そろそろ、リーズディシア様がお迎えに来られる頃合いです」
私に、気持ちを切り替えるよう求めてきた。
そうだね。
私は学生で、学院に行くのが仕事だ。
準備をしよう。
私は自室に戻り、完璧なギャル仕様へと変身を遂げた。丁度良いタイミングで、フェンデルトン家の馬車が門を潜るのが、窓から見える。
私は急いで一階へと駆け下りていった。
「お嬢様、お行儀が・・・・」
メイドの一人がそんな事を言っているが、関係ない。
馬車をお出迎えしないと、リーズディシア嬢はプンむくれるのだ。あの娘はあの娘で、気難しい所があるのだ。
玄関前に停車した馬車の一台目に乗り込む。
すると、
「貴女も、もう女の子としての自覚が出来てきたようね」
いきなり、リーズディシア嬢にそんな事を言われた。
どこが。
今しがた、メイドから淑女としての在り方を注意されたばかりなのに。
「さっきも、メイドから廊下を走るなと注意されたばかりですよ」
「そう、走ったの」
リーズディシア嬢が、口に手を当ててコロコロと笑った。
「何がおかしいんですか」
「だって、アイリ。貴女、いち早く私に会いたかったみたいな事を言うから」
「私が出迎えないとむくれるでしょうが」
「むくれたりはしないわ」
「リズ」
「なに?」
「隠しているようだから教えてあげますが、貴女は機嫌を損ねると、一瞬だけ眉がピクリと動くんですよ」
「そんな所まで見ているの?おじさんって怖いわ」
リーズディシア所はそう言うと、わざとらしく耳の横あたりを軽く指先で揉んだ。
「気を付けるとしましょう」
「今日は、機嫌が良いみたいですから、そんなに気を使う必要は無いと思いますがね」
「本当に、おじさんって怖いわ」
何故わかったのかとリーズディシア嬢が聞いてきたので、私はこう答えた。
「女の子の機嫌が分からないと、社会で生きていくのは厳しいんですよ」
世間は、女の子が回していると言っても良いと、私は思っている。
女の子がダサいと言えば、そのおじさんはダサいとレッテルを張られるし、臭いと言えば、そのおじさんは臭い存在になる。汗くさいと、汗くさいと言われるし、だからと言って香水をふれば、香水臭いと言われる。極論を言えば、触られたと言われれば、そのおじさんは痴漢扱いだ。
世の中、女の子の主観で動いているのだ。
「それは、貴女の偏見じゃないの?」
呆れたようにリーズディシア嬢は言うが、
「そうでもないんですよね、これが」
私は、初めてストーニアに行った時の話をした。
あの時は、何の称号も無い、ただのアイリだったが、絡まれた時はしっかりと衛兵が来ようとしていたから。
この世界でも、私の考えは間違っていないと思うのだ。
「まぁ、女性に優しい世界ではあるわね」
と言った後、しかし、
「でも、ある意味、厳しい世界でもあるわよ」
そう、リーズディシア嬢は付け足した。
リーズディシア嬢が言うには、シャラ・スーの件などが、女性に厳しいと言える点だと言うのだ。
確かに、シャラ・スーは、ゴブリンにレイプされた上で殺された可能性が高い。
そして、リーズディシア嬢が言うには、それはどこの村や町でも起こりうる可能性のある事なのだそうだ。
ゴブリン、オーク、などなど、人間を犯す魔物は数多くいるらしい。
確かに、そういう意味では、厳しいな。
「女性は、守られるか、自分の身を自分で守るかしか無いのよ」
リーズディシア嬢はそう言って、私の思考を否定した。
良い事もあれば、悪い事もあるという訳か。
「もちろん、自衛する女性の方が大半なのだけれど」
この世界は、女性でも戦う人が殆どらしい。
中でも、町や村に住む女性は、大半が戦う術を持っている。普通の女性でも、ゴブリンクラスを相手にする事が出来ると言う。
なるほど。
厳しい世界で生きていくために、女性も対応しているのか。
ん?
その割に、学院での騎士過程の生徒で、女性の率はかなり少なかったと思うのだが。
「貴族の娘は、魔術を嗜むのが基本なのよ」
そういう事か。
「平民だと、剣を習う女性も居るんだけどね」
そういう娘は、半々位という事だ。
ただ、村人は戦う事は出来ても、相応の力しか無く、村や町の治安は基本的に冒険者に任せている。
そこまで聞いて、合点がいった。
普通の村人はレベルが100位だし、駆け出しの冒険者で150オーバー、一人前になってレベルが300位になる。一流冒険者でレベルが500程度。駆け出しの騎士でレベル300位だったし、一人前の騎士ならレベル400位。
大体、鑑定してきたレベルと合うのだ。
なるほどね。
私はそう思いながら、リーズディシア嬢が後方支援の特化型である事を突っ込んだ。
「私みたいな後方支援の特化型というのは、滅多に居ないわ。フェンデルトン家の騎士に守られているからこそ、特化型でいられるの」
「なるほど。リズが特殊という訳ですか」
「ええ、回復職でも攻撃魔法を使える人の方が多いわ」
「その割に、うちのホムンクルス達は特化型なんですけど」
ステータスは何かに傾いてはいるが特化型とは言えない。ただし、使える技術が特化している。
「彼女達は五人で一組として作られているからじゃないのかしら」
なるほど。
という事は、義母様やロスティのように敏捷特化型の剣士というのも珍しいのかもしれない。そういえば、王太子殿下は力に振れてはいたけれど、万遍なくステ振りしているようなスタイルだったな。辺境伯家の騎士様や、ランド君も何かに極端に振ったようなステータスではないようだった。
なるほど、なるほど。
「なるほど、分かりました」
「何が分かったの?」
「リズに推薦する人材の方向性です」
「どんな人材を見つけてこようというの?」
「何かに特化したステータスを持った人材を」
「出来れば、ね。でも、一芸に優れていたらどんな人材でも囲っておきたいから、必ずしもステータスに拘る必要性は無いわよ」
「あんたは曹操か」
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