43 意外と危険です
「うーん・・・・・・」
王城からの帰りの馬車で、私は頭を悩ませていた。
リーズディシア嬢の事だ。
国王陛下も、王太子殿下も、リーズディシア嬢に婚約破棄を言い渡すなんて事は無いとはっきりと断言した。むしろ、あんな人たらしの人材マニアを手放そうなんて、考えた事も無いとの事だ。
むしろ、リーズディシア嬢が婚約破棄まで考えていると言われて、慌てていた。
では、何故ミリーネ嬢を傍に置くか。
それを問うた時、お二人は口を揃えてこう言った。
「早い所、悪い芽は摘んでおきたいから」
と。
その辺には事情があるらしかった。
東側の帝国に通じる侯爵家の者が居る。
という所までは分かっているらしい。
だが、それが何処の家なのかまでは特定が出来ていない。
証拠が無い。
ミリーネ嬢の実家である男爵家の寄り親との繋がりがある侯爵家が怪しいらしいが、それだけでは証拠不十分だ。ミリーネ嬢を王妃に据えて、後方から王家を操るという外戚ムーブをかましてくる可能性も考えられるし、クーデターを起こして実権を握る算段なのかもしれない。王太子殿下がミリーネ嬢と繋がりを持っているのは、その辺をはっきりさせる為、との事だ。
当の本人は、王太子殿下に見初められたと喜んでいるだけのようだが。
「ミリーネ嬢に、無闇に話しかける訳にもいかないし・・・・うーん」
私は馬車の中で唸った。
そして、三秒で頭の中を切り替えた。
「リーズディシア嬢にとっては、良い情報を聞けたと思っておいた方が良いか」
きな臭くなってきている情勢の中でも、王太子殿下とリーズディシア嬢の結婚が決まってしまえば、西側諸侯もはっきりと後ろ盾になる事が可能だし、クーデターなどというものも起こり得ない、と思っておいて良い話だろう。
私が首を突っ込んでも、誰も得をする話ではあるまい。
ただ、危惧したのは、どういう手段を取って王権を握ろうとしてきたとしても、リーズディシア嬢に危険が迫るのではないかという点だ。
「だからこそ、リズの事を遠ざけているというのもある」
というのが王太子殿下の談だ。
が。
危険は危険だ。
その辺を詰めると、国王陛下も王太子殿下も、フェンデルトン家には人材が揃っているから、そう簡単にリーズディシア嬢に危害を加える事は出来ないと断言していた。
「彼女の人材マニアぶりは、相当なものだよ」
とは国王陛下のお言葉だ。
「アイリ嬢と話せたのは、僥倖だったよ。リーズディシア嬢には、滅多な事を考えるなと伝えておいてくれたまえ」
国王陛下はそう言って、私の肩を叩いたものだ。
さて。
リーズディシア嬢に、なんて伝えようか。
※
「で、私には動くなという訳ね」
「そういう事になりますね」
翌日の馬車の中、結局私は事の全てを話す事にした。
リーズディシア嬢は賢い娘だ。
そう言っておけば、大人しくしておくだろう。
「そうやって、あの女と殿下が仲睦まじく過ごしているのを、見過ごせという訳ね・・・フフフ・・・・」
おや?
「殿下も、お人が悪い・・・・・・あの女と、乳繰り合っているのを見過ごせという訳ね・・・・・・フフフ・・・・殿下には、私しか居ないというのに・・・・」
おいおいおい。
「リズ、目からハイライトが消えてますよ?」
怖い怖い怖い。
これ。
あかん奴だ。
王太子殿下、早く解決しないと、リーズディシア嬢が暴走しかねませんよ。闇堕ちしかねませんよ。
悩み多き少女から、ヤンデレ少女へとジョブチェンジだ。
「リズ、正気に戻ってください」
「あら」
あら、じゃねぇよ。
怖いよ、リーズディシア嬢。
「私ったら、何を・・・・・・」
「いえ、気にしないで下さい」
「まぁ、良いわ。それで、私に何もするな、と仰せなのね?」
「そう言っていましたね」
「じゃぁ、動かないといけないわね」
「なんで、そうなるんですか」
私は呆れ気味に、リーズディシア嬢にそう言った。
なんでまた、動くなと言われているのに、あえて動こうとするのか。なんでまた、危険があるかもしれないと承知の上で、動こうとするのか。
なんでまた、憑き物が落ちたら、そう積極的になるのか。
その答えは、こうだった。
「ある意味、殿下にも、陛下にも、信頼を置かれていると判ったからよ」
「何故、そうなる」
「あのね、陛下も殿下も、私が子供の頃からお付き合いのある方々なの。つまり、性格はお見通しという訳なのよね。その私に、動くな、と言ったという事は、黙っているような私じゃないと知っているお二人にしてみれば、好きにしろ、という事なの」
つまり、好きにすると。
だから、動くと。
そういう事か。
「とは言っても、探偵のような真似はしないわよ?」
自分は物語の主人公じゃないから、と、リーズディシア嬢は言った。
「では、どのように動くのですか?」
「王妃様に、ミリーネ嬢の教育をお願いするの」
「それで、どうなると言うのですか?」
察しが悪いわね、とリーズディシア嬢は前置きして、その後続けた。
つまり、リーズディシア嬢と同等の教育を王妃様から受けるという事は、側室の候補として正式に名前が挙がったと同義で、そうなると、男爵家からだと輿入れが出来ないから、必ず高位の貴族が義理の親として名乗り出る事になるであろうと言うのだ。
そして、その家が外戚となる野望を持っているならば、必ず何かしらのアクションを起こすだろうというのがリーズディシア嬢の予想するシナリオらしい。
要するに、その名前を挙げた家に、王家を裏で操ろうとする人物がいる、という訳だ。
「絞りやすくなるでしょう?」
リーズディシア嬢は自慢気にそう言った。
そして。
彼女を危険にさらす事になるとはこういう事か、と得心した。
外戚の一番の候補はフェンデルトン公爵家で、そのフェンデルトン公爵家よりも力を付ける為には、フェンデルトン公爵家の嫁、つまり、リーズディシア嬢を排除しなければ計画は成り立たない。
必ず、リーズディシア嬢の存在が邪魔になる。
名乗りを上げたからには、必ずリーズディシア嬢の命を狙ってくるのは目に見えている。
これ。
思っている以上に、リーズディシア嬢は危険なんじゃね?
「反対です」
と言っても、
「アイリの意見は受け付けていないわ」
というのがリーズディシア嬢の答えだし。
なら。
「リズは、指輪を付けていないけれど、その薬指の指輪の他に、指輪を付ける気はありませんか?」
エンチャントを施してもらって、状態異常抵抗の指輪でも付けてもらうしかあるまい。
「他は、付ける気がしないのよね」
「リズ」
「なに?」
「命を守るため、と思って、私が贈る指輪を付けてください」
エンチャントのゴテゴテに乗った指輪を付けさせてやる。
「いつまで?」
「王家を裏から操ろうと考えている奴が、首根っこを取り押さえられるまで」
「という事は、魔道具か何か?」
「ええ」
「分かったわ」
「じゃぁ、リズ。騎士様に、信用のおける、エンチャントをしてくれる魔術師を呼んでおくように手配させておいてください。あと、指輪職人も呼んで、三つほど、派手ではないデザインの指輪を用意してもらってください」
「なに?魔道具を作るの?」
「ええ」
「お金、かかるわよ?」
「そこはご心配なく。貯えがありますので」
「用途に見合った物が出来るとは限らないわよ?」
「出来なければ、出来るまでやるだけです」
「予算は幾らまで見ているの?」
「金貨で一万枚」
今晩は、リーズディシア嬢の家に泊まろう。
夜通し、エンチャントを行ってもらおう。
MPが尽きれば、薬を飲ませてでも、やってもらおう。
希少な鑑定というスキルがあれば、意外と簡単に出来てしまうものだ。それはホムンクルスる達の装備を作った時に実証済みでもある。
少し狭い所を狙ってはいく、が
「最低でも、三つで状態異常抵抗40パーセントと毒抵抗80パーセントが目標です」
「それって、どの程度の効果があるの?」
「ほぼ、毒は効きません」
「そんなの、国宝級じゃない」
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