41 ボコします
翌日。
私は約束通り、王城へと登った。
早朝に、馬車二台、騎士六名という大所帯であったにもかかわらず、王太子殿下の言葉もあったのか、意外にもすんなりと門を潜る事が出来た。
そして。
私は王太子殿下と、その近習の者と一緒に、練兵場に居たりする。
本日は貸し切りという事で、その他の騎士の姿は見えない。
王太子側で顔を見せているのは、王太子殿下と、騎士団長様と、近衛騎士隊長様、近衛騎士副隊長様、そして何故かお忍びで国王陛下までお出ましと相成った。私の側は、私とホムンクルス達だ。
結構な大所帯となってしまった。
「あの、アイリーンが認めたという娘がどの程度の強さがあるのか、見たくてね」
というのが国王陛下の談だ。
騎士団長様や近衛騎士隊長様、近衛騎士副隊長様は、王太子殿下や国王陛下の護衛の為、という事らしい。
が。
「王太子殿下がフェンリルと言うだけあって、このお嬢ちゃんからお二人をお守りするのは無理だ」
と、フル装備の私を見て、その任務を早々に放棄した。
やっぱり強い人って、相手の強さが分かるものなのかね。
逆に、
「む・・・・お前たち三人が揃っていても、護衛として意味が無いと言うのか」
王太子殿下は、私の実力を見くびっていたらしい。
「アイリ嬢が本気を出せば、我々で稼げる時間なんて、十数秒と言ったところですよ」
そしてそこは、さすがは騎士団長様。レベル700台後半の、歴戦の戦士が言うだけあって、見積もりにそう違いはなかった。
私の目算と大して違いはない。
まぁ、この国のトップを襲うなんて真似、しませんがね。
「アイリ嬢がこの場で大人しくしているという事実だけで、信用に値します」
近衛隊長様が、国王陛下にそう進言した。
「では、私の相手をしてもらおうか」
王太子殿下がそう言って、木剣を取って練兵場の中心に出ようとするのを、
「まぁ、待ってください」
と、騎士団長様が止めた。
「王太子殿下は、彼女との間にどれくらいの差があるのか、まだご理解頂けていないでしょう?」
「む・・・・そんなに違うものなのか?」
「駆け出し騎士と我々、以上の差があります」
と言って、
「なぁ、アイリのお嬢ちゃん?」
と、私に水を向けてきた。
「俺たち三人と、先に戦ってくれねぇか?そっちの方が、殿下も力量の差が解るってもんだ」
私はそれに、
「構いません」
と応える。
どのみち、王太子殿下に先を見せるために来たのだ。見て解るのであれば、それに越した事は無い。
「そう言ってもらえると助かります」
近衛騎士隊長はそう言って、木剣と盾を取りに行った。騎士団長は大剣を、近衛騎士副隊長は長剣と盾を取りに行く。
私もそれに倣って、棍を取りに行った。
「どうします?一対一でやります?」
「馬鹿言え。お前さんみたいなモンスター相手に、騎士道精神なんて無いわ。端から三対一で、汚ねぇ手を使ってでも一本を取ってやるよ」
ふむ。
賢明な判断だ。
レベル差と装備の差によるステータスの違いというものを、肌で感じているらしい。
「では、始めましょうか」
私は練兵場の中心でそう言った。
三人が私を取り囲むようにして、それぞれの得物を構える。ゲームの中では、戦争イベントになると、こういうシチュは普通にあったが。
この三人はどう出てくるか。
「始め!!」
王太子殿下の号令の下、試合が始まる。
まずは動いたのは、と言いたいところだが、さすがにこの三人だと不用意に飛び込んでくる危険性は解っているらしく、動いてはこなかった。
ジリ、ジリと、間合いを詰めてくる。
右左前方に二人と完全に後ろに一人と、そういう形にしようと、横にも移動している。
さて。
このまま間合いを詰められて、剣の距離で戦うのは、さすがに不利だな。囲まれているから間合いも取りづらいし。
ここは、私から動いた方が得策か。
私は、左前方に位置取ろうとしていた近衛騎士隊長様の方へと、一気に踏み込んだ。
ガンッと、鈍い音を立てて、棍と盾がぶつかる。
さすがに一撃では勝負は着かないか。
ふっと息を吐き、左足を支点に、盾の方へと身体を移動させ、そこから二歩で三人の囲みから抜け出した。
「ちっ」
近衛騎士隊長様がそう舌打ちする。
まぁ、この辺は、対集団戦の基本ですからね。
それで、また回り込もうとしてくる所を突くのも、
「ふっ!!」
基本。
私は回り込もうとしていた近衛騎士副隊長様へと攻撃を繰り出した。
また音を立てて棍を盾に防がれる。
が。
今度は背後に人が居ないので、次の攻撃が出来る。
私はセオリー通り、棍を回し、石突きで盾を弾いた。力がありそうなので、二連撃で入れる事を忘れない。
それで、近衛騎士副隊長様の盾がズレた。
一瞬で右手の剣を防御に使おうとするところはさすがだが。
見逃さない。
私は、がら空きになった近衛騎士副隊長様の左肩に、棍の一撃を入れた。
「ぐっ・・・・」
カランと音を立てて、近衛騎士副隊長様の盾が落ちた。
骨が折れたな。
ここまでで二秒。
王太子殿下、見えてるかい?
もっと、スピードを上げるよ?
私は、今度は背後に回り込もうとしていた騎士団長様が攻撃してくるであろうことを見越して、右にステップを踏み、騎士団長様と相対する。
ちょうど、騎士団長様は攻撃のモーションに入ったところだった。
棍で受け流すには遅いと判断した私は、足を出した。
大剣を避けながら、騎士団長様の柄に蹴りを入れる。騎士団長様の手の甲はガントレットで覆われているから致命打にはならなかったが、少しは痺れたようで、次の攻撃には繋げられない。
そこを私は、棍を使って心臓に突きを入れた。
騎士団長様が吹っ飛ぶ。
残る近衛騎士隊長様は、その瞬間を見逃すまいと剣を入れてきたが、私は返す棍で受け流し、剣を巻き込んで奪い、地面に叩きつけた。
ピタッと近衛騎士隊長様の喉元に棍を突きつける。
それで、試合は終了だった。
十秒にも満たないやり取りだったが、王太子殿下には見えただろうか。
とりあえずメイジ・プルに三人の回復を任せ、私は王太子殿下に話しかけた。
「今のやり取り、見えましたか?」
「見えた、には見えた」
王太子殿下はそう言って、間を置いて、
「だが」
と声を漏らした。
「とてもではないが、真似は出来そうにない」
それはそうだ。
レベル400台前半の王太子殿下に、レベル954の私の動きを真似しろと言う方が無理がある。
なので、私は王太子殿下にこう言った。
「真似をする必要はありません」
そして、昨日リーズディシア嬢に向けた物と同種の笑みを、王太子殿下に向けた。
「避けるだけで良いんです。そうしたら、王太子殿下は見切りだけは上手くなりますから。見切る事が出来れば、剣の腕も上達します」
追加して、
「怪我の心配はありませんよ。回復はしっかりと行いますので、いくらでも怪我をして頂いて問題ありません」
そう言うと。
王太子殿下の口の端が、引き攣りながら、上がった。
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