40 王太子殿下との約束です
叙勲式が終わり、数日振りに課業を終えた私が行った先は、
「何のつもりだ?フェンリル」
王太子殿下の所だった。
午後の空いている時間なら学院東部の東屋に居ると、そこは聖域だと、居場所を教えてくれたロスティに袖を引かれながらも、
「王太子殿下に、まずお悔やみを。そして、剣術の競争相手が居なくなった殿下に、新たに目標を持ってきてあげたんです」
と、そう言う。
「ランドの事を言っているのか?」
「はい」
恐らくだが、ランド卿と王太子殿下の間には、主従の仲を超えた絆があったと見ている。例えば、師が一緒、とかね。
それ程の熱量を、ランド卿から私は感じ取っていた。
仕える者として、一途な熱量を感じ取っていた。
しかるに王太子殿下も、
「ランドの事は、確かに残念だった」
と、悔しさを滲ませて、奥歯の間から言葉を発する。
そして、
「ランドの代わりを勤めようと言うのか?フェンリル」
と、そう言った。
しかし、私の考えはちょっと違う。
「新たな目標を持ってきた、と私は言いました」
ランド卿亡き今、レベル400程の王太子殿下に敵う生徒は、この学院にはほとんど居ない。それは、鑑定をしてきた私が言うのだから間違いはないだろう。
だから。
私は王太子殿下に目標を持ってきたのだ。
「切磋琢磨して、共に登り詰めるというのも一つの手ではあるのですが、ランド卿亡き今、王太子殿下にとって剣術で張り合える同年代の学生は一人も居ないのではないでしょうか?」
と、そこまで言ったところで、
「失礼だぞ!!アイリ嬢!!」
それまで黙って聞いていた、いかにも魔術師と言った風貌の男子学生に窘められた。
「貴方は?」
「フェイト・アグリ・マリアベル・ルードだ。殿下とランドとは、共に育ってきた間柄だ」
ほう、幼馴染という奴か。
この男子生徒も出来るようだが。
レベル412としっかりとあるし。
しかし、幼馴染であるのなら解っている事だろうに。
「殿下」
「なんだ、フェンリル」
「殿下は剣術をどの様にとらえておられますか?失礼ながら、剣術をただの嗜みとお考えであれば、今の様な強さは無かった筈です」
「嗜み、ではないな。私は強い王になりたい。そう考えている」
「では、ランド卿亡き今、殿下は一人で剣の路を歩んでいかなければなりません。そこで、です。一つの到達点を、見たくはありませんか?」
さて。
王太子殿下は私の提案に乗って来るか。
強いという事は分かっているはずだから、乗ってくる公算は高いと踏んでいるのだが。
「見たい、な」
お。
乗ってきた。
「では、ボロボロになるまで、お相手願えますか?」
「リーズディシア嬢の犬風情が、偉そうに何をほざくか!!」
「フェイト様はこう仰せですが、どうされます?」
「明日、王城の方へと来い。騎士団長の目の前で、お前の強さとやらを見させてもらう」
その言葉で、私が王太子殿下にレベル954の一つの到達点を見せる事が決まった。
王太子殿下と、二人きりになれる場所が整った。
「では明日、王城で」
私はそれだけを言い、軽く一礼して、踵を返した。
横目に、ロスティが深く頭を下げる姿が入ってくる。
そのまま歩を進めると。
タタタッとロスティが私の横に追いついてきた。
「ねぇ、良いの?リーズディシア様に相談もせずに、勝手に決めちゃって」
「良いんですよ。リズには、勝手に動くと伝えてありますから」
「それなら良いんだけど・・・・・・」
「まぁ、事後承諾はいただきますがね」
ということで、
「ロスティ」
「ん?」
「サロンに行きますよ」
私達は、東屋からサロンへと歩を進めた。
途中で一人の女生徒とすれ違う。
制服を着崩していない所を見ると、魔術課程の女生徒のようだ。
なるほど。
あれが、リーズディシア嬢が言っていた、あの娘、ことミリーネ嬢か。
初めて間近で見たが、確かに可愛らしい娘だ。
小さくて、細くて、庇護欲をそそる娘だ。
確かに、リーズディシア嬢とはベクトルの違う可愛らしさを持った娘さんだ。
まぁ、男は惚れたら、惚れた相手が一番可愛く見えるもんだしな。見た目なんて、ある程度可愛ければ、全くと言って良いほど気にしないものだ。
さて、王太子殿下の心の中には、リーズディシア嬢が居るのか、ミリーネ嬢が居るのか。
「あれが、ミリーネ嬢か。可愛い娘さんだね」
「そうですね」
ロスティも同じ意見に至ったようだ。
まぁ、今は王太子殿下とよろしくやっておいてくれ。
私の見解が正しければ、君は泣きを見る事になるから。
そうして、
「ロスティも十分可愛い娘さんだと思いますよ」
「いや、それをアイリが言う?」
「それは、思った事ですから言いますよ」
私達はサロンへと再び歩きだした。
五分ほど歩いてサロンへと到着する。
そこでは慣れたもので、
「また伯爵家以下の者を連れて来たのか」
と言われただけで、入口を素通りする。
そして、
「アイリ様。ごきげんよう」
などと挨拶をされたりもする。
もう辺境伯家の令嬢として、サロンでは認められていた。
放課後は、必ず、ここだもんね。
そりゃ、認められもするってものさ。
まぁ、だからって、人脈を築いている訳でもないけど。
「リーズディシア嬢は?」
人脈はリーズディシア嬢のものを利用しているに過ぎない。
その人脈に従って。
私は、いつものように最奥部に案内され、リーズディシア嬢との面会を果たした。
「あら、アイリ。今日はいつになく遅かったわね」
「ちょっと、野暮用がありましてね」
「昨日の話?」
「ええ」
「なら、良いわ」
リーズディシア嬢は立ち上がり、
「続きは馬車で聞きましょうか」
と、そう言った。
それに対し、私は、
「特に隠す事でもないので、ここで話しても良いですよ?」
と応える。
リーズディシア嬢の眉が、一ミリほど上がった。
「言える話なの?」
「ええ」
「じゃぁ、言って」
「ちょっと明日、王城まで行って、王太子殿下とダンスを踊ってきます」
そこでまた、リーズディシア嬢の眉がピクリと上がる。
「ダンスを踊るの?」
「ええ、王太子殿下の足腰が立たなくなるまで、練兵場でダンスを少々」
「ダンス?」
私は、自分でも一番魅力的だと思っている笑顔を浮かべ、
「有態に言えば、ボコしてきます」
そう言った。
リーズディシア嬢の眉が、またピクリと動いた。
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