39 本当なんですかねぇと言いたいです
叙勲は、一度民会から貴族院へと議会を通し、国王陛下の印璽を受け、そこから議会へと降りてきて、儀式の担当などを決めてから行われる。
今回の叙勲は拙速を重んじられたので。
国王陛下の印璽を受けるまでは一日で通ったが、叙勲の儀式を行う方を誰にするかという点で、結構時間を取られた。何故なら、平民への叙勲を行うのは民会と通例で決まっているのだが、今回の冒険者の中に貴族令嬢が居るという事で、貴族院の議長が、叙勲の儀式を相応の人物が行わなければ示しがつかないと横槍を入れたからなのだ。
貴族令嬢っていうのは、私の事ね。
で、騎士様の叙勲を行った翌日に、私たち冒険者の番となる訳で。
私たち冒険者の儀式が行われたのは、ゴブリン事件から三日が経過した後だった。
しかし、
「ホムンクルス達も叙勲を受けるんだから正装して・・・・・いえ、メイド服は正装じゃないから。え?自分たちはアイリのお付きだからメイド服が正装ですって?・・・・・はぁ、もう良いわ。あなた達はそのままで行って」
何故か、リーズディシア嬢がストーン辺境伯家の全てを取り仕切って、叙勲の準備を進めている。
「アイリは制服で良いわ。そう、いつもの通りの格好で大丈夫だから。ただし、折り目正しく着崩しなさい」
解せぬ。
うちの人間の中にも、義父様が叙勲された時の経験を持っている人も居るだろうに。何故か、リーズディシア嬢の言う事を素直に聞いている。
そのリーズディシア嬢はというと、嬉々としながら、鏡越しに私の服装をチェックして、微妙にスカートの長さなどを揃えている。
「ねぇ、リズ」
「なに?」
「何故、貴女が叙勲される私たちの準備を取り仕切っているのでしょうか?」
私はそんな経験が無いから、まぁ人任せにするのは良いとして、辺境伯家にやって来て我が物顔で仕切るのは、どうなんだ?
そんな事を考えて発言すると、
「それでしたら、家人を代表して、執事長の方から、リーズディシアお嬢様に叙勲の準備を手伝っていただきたいと打診させていただきました」
メイド長から、そんな言葉を頂戴した。
ぁ。
家人全体の決定だったんだ。
しかし、経験のある執事長やメイド長がリーズディシア嬢を頼みにする理由は、何なんだろう?
「学生の身で叙勲をされるのでしたら、奥様を輩出したフェンデルトン家の方の方が経験豊富なんですよ」
「義母様は学生の頃から叙勲されていたのですか」
「そうよ。姉様の方が、ロイド義兄様よりも出世は早かったのよ」
へぇ。
伊達にレベル800台の化け物じゃないという訳か。
でも、であれば、フェンデルトン家の家人を連れてくるべきなのではないだろうか?
「なによ、私じゃ不満なの?」
「不満という訳ではありませんが、義母様の学生時代の頃って、リズは小さかったのではないですか?」
「小さかったわよ」
「では、何故叙勲のアドバイスなどが出来るのでしょう?」
「舐めないで欲しいわね。私も勲章を頂いているの」
ほう・・・・・。
リズは学生の身で勲章を受けるほどの功績を挙げているのか。
「伊達に、王太子殿下の婚約者はしていないわ。孤児院での病気治療の確立や清掃の重要性の論文発表で貧民街はまとまったし、平民街での治療院の建設なんか、私が具申して出来上がったものなんだから」
ほう。
民間に人気が出そうな政策を行っているという訳か。
リーズディシア嬢がお后教育の時に王妃様に政策の重要性を訴え、王妃様から国王陛下へその意見を直訴し、国王陛下の思い付いた政策として発令されたそうだ。
で、意見の出所として、リーズディシア嬢は国王陛下直々の叙勲を受けているとのこと。
なるほど。
リーズディシア嬢は、王家の中でも地盤を固めている、と。
これは、ますます王太子殿下がリーズディシア嬢に婚約破棄を言い渡す理由が見つからないのではないだろうか?
それを言うと、
「あの年代の恋は盲目になりやすいものよ」
リーズディシア嬢はそう言って悲しそうに笑った。
ん-。
どうしてこう、この娘さんは、恋愛となると消極的なんだろうか。王太子殿下の事を好きなのは、どう見てもそうなんだけど、王太子殿下から嫌われると、この娘さんは思っているようだ。
私が見る限り、王太子殿下も、リーズディシア嬢を想っていると思うんだが。
まぁ、良いだろう。
黙っていても、そのうち判る事だ。
それが判った時、私は友人として祝福をしてやれば良い。
「なに、その目」
「いえ、別に」
「何か含みのある目をしていたわ、アイリ。何を考えていたのか言いなさい」
「そのうち、分かる事ですよ」
分かった後が、楽しみだ。
だが、リーズディシア嬢は頑なだった。
「断っておくけれど、アイリが考えているような事は、無いわよ。王太子殿下は、あの娘に夢中になって、私の事なんて、考えなくなってしまうの」
「何故、そこまで王太子殿下の心が離れると断言できるのですか?」
「乙女ゲームのシナリオ通りに、現実が進んでいるからよ」
「という事は、今回のゴブリン騒ぎも、シナリオの中に入っていると?」
「ええ・・・・王太子殿下とあの娘は、二十二番目に森に入って、命からがら逃げ帰ってくるの。それも、あの娘の覚醒によって、一命を救われる事になった」
「そういうシナリオ、ですか」
「そうよ。そこで、王太子殿下はあの娘に対する信頼を、深いものにするの」
リーズディシア嬢が言うに、あの娘、ことミリーネ嬢は今回のゴブリン騒動で光の魔術に覚醒したらしい。その力を使って、王太子殿下の一行を救った。
シナリオ通りなんだとか。
ほう。
偶然って、あるものなんだな。
ゴブリン騒動で、光の力に覚醒して、王太子殿下の一行を救う、か。
胡散くせぇ。
私の様なおっさんには、その出来上がったシナリオが、逆に胡散臭いものに見えた。
この世界は現実だ。
裏が、あるんじゃねぇの?
まぁ、ここでリーズディシア嬢に言ったところで、彼女の考えが変わる訳じゃないのは解っているから言わないけれど。
「リズ」
「何故、王太子殿下はミリーネ嬢を傍に置くのでしょうか?」
「理由は分からないけれど、可愛らしい娘よ。私も自信はあるけれど、私とベクトルの違った可愛さを持った娘だわ」
「それだけでしょうか?」
「なに?アイリは、王太子殿下の事を信じられると言いたいの?」
「そこは分かりませんがね。でも、王太子殿下は馬鹿じゃない事は少しの会話だけでも判ります。あの王太子殿下が、実績もあるリズの事を、果たして蔑ろにするか、甚だ疑問だったもので」
私がそう言うと、リーズディシア嬢は鏡に映る私の瞳を見て、
「確かに、賢明な方ではあるわね」
と言って、
「でも」
と、私の言葉を否定した。
これは。
現実を見せないと、信じないな。
「まぁ、良いですよ。私の意見が現実のものとなったらリズはハッピーエンドを迎えるから問題ない。リズの言っている事が現実のものとなったら、私は槍を振るうだけです」
ここらで平行線の会話ははやめよう。
「リズ」
「なに?」
「リズの予言を頭に入れた状態で、私は私で動きます」
「勝手にして頂戴」
突き放したような言い方だったが、そこにはリーズディシア嬢の信頼が見えていた。
「とりあえず、アイリはどうするつもりなの?」
「王太子殿下の剣術の相手になろうかと思います」
「ランド卿の位置に収まろうという事かしら」
「ええ、適任でしょう?」
「為人を見極めるのね」
「ええ」
「無駄だとは思うけど、まぁ、アイリの好きにしたら良いわ」
「ありがとうございます」
そう私が言うと同時に、リーズディシア嬢が私のお尻を叩いた。
「はい、話も準備も終わり。立派に叙勲の儀式を済ませていらっしゃいな」
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