38 声よ届けです
「ひょうしょう?」
それは、ゴブリン騒動の翌日、ギルドに併設されている食堂でおっちゃんのAランクパーディと食事を共にしている時に聞かされた。
「おう。今回の騒動鎮圧の立役者となったパーティには、貴族院と民会の両方から特別に表彰があるってよ」
貴族院は貴族からなる議会で、民会は平民から編成された民意を吸い取る機関だっけ。
へー。
その両方から表彰されるんだ。
聞くに、恐らくは勲章の授与があるらしく、その勲章を持っている冒険者は、国のどこへ行っても特別待遇で迎えられるとの事だ。
「同じAランクでも、箔が付く分、下手したらSランククラスの待遇だって見込めるぜ」
おっちゃんはほくほく顔で肉に喰らい付きながら、そう言った。
「良い歳でしょうから、引退して、どこか大きな都市で道場でも立ち上げたら良いんじゃないです?奥さんでももらって」
「バカ言え。俺はまだ二十七だ。これからなんだよ」
「って言ってますけど、皆さんはどうなんです?引退とか、考えないんですか?」
と、おっちゃんのパーティーメンバーに問いかけると、
「リーダーが解散を言わない限りはついていくつもりだよ」
と、にこにこと、一番年上と思える魔術師がそう答えてくれた。
そうか。
この人達は、まだやっていくのか。
「それより、お嬢ちゃんはどうするんだ?勲章を貰ったら、すぐにでも騎士にとりたてられるっつー道もあるとはおもうんだが」
ふむ。
そういう道もあるのか。
だが、
「私にはまだ勉強する事が沢山ありますから、学生を続けますよ」
とりあえず、リーズディシア嬢と一緒に学園生活を満喫したいという思いもある。それに、シャラ・スーがあんな目にあっているのに、私が勲章を貰って騎士になろうという気は起きない。
まぁ、一番手柄の私が貰わないと、他の人達も辞退するしかなくなるだろうから、受け取るには受け取るのだが。
「そうかい」
「まぁ、若いうちは、時間をかけるのも一つの手ですからね」
「貴族の娘さんなら、淑女教育とかもあるだろうし」
「そこが一番難しい所なんですよね」
「芯がしっかりと出来上がってるから、そういうのって、意外と楽だったりするんじゃねぇの?」
「そうでもないんですよ」
そんな会話をしていると、後ろから、
「アイリ様、受付の方が、ギルド長がお呼びとの事ですが」
と、メアリープルが、そっと言ってきた。
あ。
うん。
十中八九、叙勲の件だろうね。
「急ぎですか?」
ホムンクルス達に道を塞がれて、あたふたしている受付嬢にそう聞くと、
「いえ、お食事が終わり次第で問題ありません」
との答えが返ってきたので、
「じゃぁ、行きましょうか」
と、食事を途中で止めて、私は立ち上がった。
腹八分目だし、良い頃合いだ。
「じゃぁ、おっちゃん達、また叙勲の席でね」
「おうよ」
そう言って、私はおっちゃん達と別れ、ギルド長の執務室へと案内されていった。
何度か、受付嬢がすみませんと言っているのが気になったが。
理由はすぐに判明した。
「お越しいただき、大変恐縮であります」
ギルド長の、直立からの最敬礼、これだ。
筋骨隆々のスキンヘッドの大男が、細っこい小娘に、これだぜ。受付嬢の態度が妙に畏まっていたのも納得ができるってものだ。
「ランクの低い一般の冒険者に、そこまで深く頭を下げないで下さい」
と言っても、
「ストーン辺境伯家のご令嬢にご足労を願うのですから、私の頭程度で済むのであれば、いくらでも下げさせていただきます」
これだ。
どんだけ恐ろしい存在なんだ、ストーン辺境伯家は。
まぁ、そこは置いておくとしよう。
用件だ。
「はっ、お嬢様につきましては、ご足労を頂く事になり誠に申し訳ないのですが、貴族院と民会の両方から叙勲があるとのお話が来ております。ゴブリンキングを倒したお嬢様にもぜひ出席して頂きたく、この場にお呼びした次第であります」
なるほど。
おっちゃんが言っていた通りだ。
やはり、ゴブリンキングを倒した私にも叙勲はあるらしい。
一番手柄だもんな。
でも、正直、断りたいんだよな。
それを言ってみると、
「そこ、を、何とかお受けして頂けないでしょうか?お嬢様がお受けして頂けないとなると、周りで戦った冒険者にも叙勲がし難く・・・・・・」
恐縮に恐縮を重ねてギルド長がそう言ってくるので、私は、
「はぁ・・・・・・分かりました」
と、受ける事を承諾した。
元から受ける気ではあったし。
「ありがとうございます!!」
ギルド長が再度敬礼をしてくる。
はぁ・・・・・・。
私だけが、栄光の路を歩む、か。
これ、リーズディシア嬢やロスティなどの、友人を失った学院の生徒達に、なんて言えば良いんだろう。
※
「気にしなくて良いんじゃないの?」
翌日、学院に向かう途中で、リーズディシア嬢に話したところ、返ってきたのはそんな言葉だった。
「でも・・・・」
「貴女は、友人の死を踏み台にして叙勲される訳じゃないの。友人の敵を取ったら、たまたま、それが国益に沿っただけだった、という話よ」
「ロスティも、そう言うでしょうか?」
「彼女が、帰ってきた貴女に恨み言を言った?言ってないでしょう?」
「それは、そうですが」
「なら、胸を張りなさいな」
リーズディシア嬢が、私の尻を強く叩いた。
淑女である彼女が取るような行動ではなかったので、私は驚いてリーズディシア嬢を見下ろした。
「少しは、元気が出た?」
「ええ、ですが、驚きました」
「淑女らしくない?」
「ええ」
「でも、こっちの私の方が、本当の私よ。同郷の誼で見せてあげているのだから、感謝しなさい」
「それは、ありがたいですね」
「でも、真面目な話」
「はい」
「友人や家族を失った悲しみは、自分で乗り越えていくしかないわ。ロスティ―ニ嬢にしても、王太子殿下にしても、騎士様の家族にしにしても、教授の奥方にしても、それは変わらない。貴女だってそうよ。友人知人の力を借りる事は出来ても、自分の心の傷を癒せるのは、最終的に自分だけ」
「そうですね」
「これは、この無慈悲な世界で、わずかながら長く生きてきた先輩からの言葉よ」
「ありがとうございます」
強い人ですね。
「強く、ありたいですね」
私の声は微かで、リーズディシア嬢の耳にしか届かなかっただろうが、その微かな声を、暖かい風が運んでいった。
埋葬されているシャラ・スーの下へと届いてくれただろうか。
届いていたら、良いな。
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