37 ゴブリンキングです
ゴブリンキングの討伐で厄介なのは、その取り巻きが大量に居る事だ。
キングを守るために襲い掛かってくるゴブリンたちを倒しながら、その懐へと進んでいって、結構レベルの高い取り巻きのゴブリンの対応をしながら倒さねばならない。
まぁ、知能が低いから、前線に出てきてくれることが多いんだけどね。
御多分に漏れず、このキング達も、ゴブリンをかき分けて、前線へと進んできた。
馬鹿め。
自分達が狩られる立場だなんて、全く思っていないな。
「おっちゃん。キングが寄ってくるよ。あれを倒せば、騎士様達だけで何とでもなる」
「おう、俺達の役目も、そこで終わりだな」
まぁ、生きて帰って来るまでが戦争なんですけどね。
おっちゃんは、背後で出番を待っていた冒険者達に、
「キングが出張ってきた!!あいつを倒せば俺達の仕事は終わりだ!!Bランク以下の冒険者はゴブリンの討伐をメインで!!A以上はキングの足止めがメインだ!!出来るだけ、お嬢ちゃんとキングがサシで戦う事ができるように誘導してくれ!!」
そう叫んで、鼓舞した。
さぁ、もう一働きだ。
私は冒険者の先頭に立って、ゴブリンの群れへと突っ込んでいった。
「おいおい!!お前さんは、キングを討伐して貰わないといけないんだ!!ちょっと後ろの方で待機してくれや!!」
そんなおっちゃんの言葉には、耳を貸さない。
私は、一秒でも早く、キングを討伐したいんだ。
続けない奴は、戦線を維持してくれたら良い。帰り道を保持してくれたら良い。それ以上は求めない。
「マテや、こら!!」
おっちゃんが、何やら私の前に出てきてゴブリンの頭を吹き飛ばした。
私の手が止まる。
それを見計らってか、おっちゃんは私に向かってこう言った。
「戦線が伸びすぎると、死ぬ奴も出てくるんだよ!!死に急ぎたいお前を助ける為に、自らを危険な目に合わせるんだよ!!ちったぁ、物を考えてから進め!!」
その言葉で、私の中の冷静な部分がスッと出てくる。
ああ。
出しゃばり過ぎた。
冒険者の皆だって、命を懸けているんだ。
私だけが突出しても意味が無い。
私が生き残ったとしても、私の独り善がりな突貫が理由で死んでしまう人も出るかもしれないのだ。
「ごめん、おっちゃん」
冒険者達が横を通り過ぎていくので、私は槍を下げて、おっちゃんに謝った。
「良いんだよ。お前さんの気持ちも解らんでもない。友達でも居たんだろ」
「ええ」
「なら、しっかりと敵は取らないとな」
と言って、おっちゃんは私の頭を大きな手で撫でた。
「お前さんの出番は最後だ」
「はい」
「それまでは、俺達に任せろ。俺達が、俺達のペースで、必ずお前さんをキングの所まで連れていってやるからよ」
「お願いします」
私には、そう言うしかない。
冒険者の皆だって、危険を顧みずにゴブリン討伐をやっているんだ。ついて来れない奴はついて来なくていいなんて考え方、あまりにも傲慢だった。
失った命もあれば、救われる命もある。
私はそこの所を勘違いしていた。
無駄に命を捨てさせるところだった。
反省だ。
私はゴブリンを狩っていく冒険者に続いて、ゴブリンキングが仁王立ちして棍棒を振り回している場所へと急いだ。
やがて。
私の前を行くパーディが、ゴブリンキングの傍まで近付く。
「ここらで、良いか?」
リーダーらしき戦士が声をかけてきたので、私は頷いてパーティの前に出た。
いざ。
ゴブリンキングよ。
殺しに来たよ。
私はウィンドボールを作って足場にして、数匹のゴブリンの頭を超えながら、その首を跳ね飛ばし、ゴブリンキングの前に立った。
「ギャ!!」
ゴブリンキングも私を戦うべき相手と認識したようで、棍棒を振り上げて攻撃してくる。
ブルーオーガよりも速いが。
それでも、遅い。
「死ね」
私は軽く棍棒を躱して、ゴブリンキングの喉に槍を突き立てた。
※
カラス、だろうか。
ゴブリンの死体に鳥が群がっている。
あんな臭い肉でも、カラスにとってはご馳走なんだろうか。
まぁ、肉に困る事は無いだろう。
推定で、一万ものゴブリンの死体が転がっているのだ。
残りの五千程のゴブリンは、私が五匹目のゴブリンキングを倒したのを見て、潰走を始めた。やはり、奴らが強気に攻めてきていた心の拠り所は、ゴブリンキングの存在にあったらしい。
というのは、あのおっちゃんの話だ。
「まぁ、なんつぅか、お手柄だぜ、お前さん。あの硬い鎧みてぇな皮膚を簡単に切り裂いて、ゴブリンキングを全部討伐しちまうんだからな」
ギルドから報奨金が出る。
と言って、おっちゃんは去っていった。
なんでも、今回のゴブリン騒動で死んだ冒険者の身内の所に、見舞金を届けなければならないと言っていた。
戦死者には金貨十枚が配当されるらしい。
それを懐に入れずに配って回るとは、面倒見の良い人だ。
私は、生き残ったゴブリンが居ないか確認しながら、死体の間を歩いていく。
周りには、貧民街の住人だろうか、死体を集めて焼却している所へ運ぶ人たちの姿があった。
日はかなり傾き、もうすぐ夜の帳が降りる。
ゴブリンを追って森に入っていった騎士様達は、どうするのだろうか。
森は、奴らの領分だ。
恐らく、頃合いを見て戻ってくる事だろう。
私も、そろそろ戻るか。
長い影を引き連れて、私は城門へと向かった。
いつの間にか、ホムンクルス達も私の後ろについてきている。
「どうでしたか?」
「生き残りのゴブリンは、我々の担当区域にはいませんでした」
淡々と喋ってくれるその温度が、今は気持ち良い。
「そう」
とだけ言って、私は歩きだした。
「どちらへ?」
「遺体置き場へ」
シャラ・スーが死んだ事は、ホムンクルス達も知っている。彼女達も、私に何を言って良いのか分からないのだろう。
私も、何を言われたら気持ちの軌道修正をする事ができるのか分かっていないのだし。
今は、黙ってついてきてくれたら、それで良い。
コツコツと、ブーツの足音だけが、やけに高く響いていた。
すぐに遺体置き場に到着する。
そこには、家族を失った者の悲しみに溢れていた。
そこの一点。
金髪の少女が座っているのが目に入る。
私はその少女の傍へと歩いていった。
「ロスティ」
「アイリ」
「その布の下の遺体が、シャラ・スー?」
「うん」
「小さいね」
「身体を半分にされてたからね」
私は遺体にかけられた布を取って、シャラ・スーと昼以来の対面を果たした。
もう開かれる事の無い瞼は閉じられている。口元の液体の跡も無い。恐らくロスティがやったのだろう。その死に顔は、安らかに眠っているように見えた。
「まぁ、遺体が返ってきただけでもマシと思わないといけないのかもしれないね。騎士様は殆ど帰ってこなかったし、教授も見つかっていないらしいよ。ランド卿は、首だけだったんだって」
「そうですか」
「ねぇ、アイリ」
「はい」
「あたしって、おかしいのかな?一番仲が良かったシャラ・スーがこんな事になっているのに、涙が出てこないんだよ」
それは、仲が良過ぎたからではないだろうか。
あまりにも、現実を受け止めきれていないからではないだろうか。
こういうのは、後から来る。
私も、地球で両親を亡くした時がそうだった。
そういえば。
リーズディシア嬢も級友を亡くしたと言っていた。
行ってやらないといけないな。
「ロスティ」
「ん・・・・・」
「涙は、後から出てきますよ。今日はゆっくり寝て、明日休んで、一日泣いてると良いと思います」
私はシャラ・スーに布をかけて、立ち上がった。
「リズの所に行ってきます」
「ん・・・・・・」
踵を返して歩きだして三歩程で、背後から嗚咽の声が聞こえてきた。
面白かったらブクマ、評価の程よろしくお願いいたします。




