35 出陣です
「死ぬんじゃないぞ、騎士様!!」
「ゴブリンなんて、蹴散らしてきてください、騎士様!!」
城門前に集まった二千人強の騎士様を相手に、王都の民が声をかけてくる。
そして、
「冒険者も頑張れよ!!」
騎士様の後に続く私たち冒険者にも、声援をかけてくれる民は居た。
もちろん、死と隣り合わせの戦争に行く訳だから緊張が無いわけではない。
が。
その声援に後押しされて、やってやるという気持ちが強く湧いて出てきた。表情は緊張しているかもしれないが、気持ち的には高揚している自分が居るのが分かる。
周りを見渡してみると、同様の顔をした冒険者ばかりだった。
「アイリ嬢」
「はい」
「気を付けろよ。あの規模のゴブリンともなると、弓を使う奴も居れば魔法を使う奴も居る。飛び道具でやられるケースもあるから、視野を広く持て」
「了解しました」
確かAランクのパーディのリーダーと言っていたレベル700台後半の大男が、私にそんなアドバイスをしてくれる。
無論、こちらにも飛び道具を使う人間はいる訳で。
「聞きましたね。メアリー・プルとメルト・プルは、飛び道具を持ったゴブリンを見かけたら先制して攻撃。良いですね」
「はい」
「承知いたしました」
「メイニー・プルは、皆にゴブリンを近づけさせないでください。メイジ・プルはバフを切らさないように。周りにも気を配って、出来れば周りのパーティにもバフを配ってください。メルニー・プルは足止めをメインで」
「了解であります」
「お、バッファーが居るのかい?」
私が皆に指示を与えていると、先程のAランクパーティのリーダーがそう声をかけてくる。
「ええ」
「そいつぁ、心強いな」
「とはいえ、数分で切れますので、過度な期待はしないで下さいよ」
「バッファーのバフがどんな物かは理解してるって」
そう言って、
「期待してるぜ、バッファーの姉ちゃん」
私達の元を離れていった。
集まった千人もの冒険者全員にかけて回る事なんて、出来ないという事は分かっているのだろうか。
まぁ、良い。
周りのパーディだけでも、バフをかけていけば良いだろう。
そんな事を考えていると、
「諸君!!物見からの報告が入った!!」
騎士様の先頭に立つ年季の入った初老の男性が、全員に向かって声を張り上げた。
「ゴブリンの数は、推定で五千!!それ以上居るかもしれない!!対して我々の戦力は急造なので騎士が二千二百と、冒険者諸君が千だ!!相手は統率の取れたゴブリンだ、厳しい戦いになるだろう!!だが、我々の負けは、同時に王都が堕とされる事を意味すると心せよ!!無茶な戦い方はするな!!一体一体、丁寧に殺していけ!!死ぬことが一番許されないと肝に銘じよ!!」
良い訓示だ。
死ぬ事さえ許さず、戦い続けろ、か。
どこのどなたかは存じませんが、良い言葉をありがとうございます。
「聞きましたね、皆。死ぬ事が一番許されない事だそうです」
私が振り返ってホムンクルスの皆にそう言うと、皆、揃って頷いた。
皆、若干の気負いがあり、良い顔をしている。
これなら戦死をするという事もあるまい。
私は。
私は、どうだ?
シャラ・スーの死を見て、敵討ちに走ろうと、気負っていないか?
自分では興奮しているけれど、芯は冷静なつもりだけど。
シャラ・スーの敵討ちを誓う程度には興奮しているが、自分では冷静さを保っているとは思うけれど。
「メアリー・プル」
「はい」
「私は、大丈夫?気負ったり、してない?」
他人からの評価は、どうだろう。
「程よく緊張しておられるかと思われます」
そうか。
私は、程よく緊張しているか。
私は眼をつぶって、一つ深呼吸をした。
眼を開ける。
その時。
誰かの号令の下、城壁の上から弓を放つ音が聞こえてきた。
ザッと音がして、城壁の外からゴブリンの悲鳴と怒号の鳴き声が聞こえてくる。
始まった、な。
「魔術師部隊が城門付近のゴブリンを一掃した後、城門が開く!!城門が開いたら、一気に突撃をかけるぞ!!」
先の初老の騎士様が、段取りを説明していく。
私達は、騎士様の後から出ていくのか。
どれ位で、城門は開くのだろうか。
早く、ゴブリンを倒したい。
そんな気持ちを俯瞰して見ながら、私は城門が開くのを待った。
あと数分。
数分で、出る事が出来る。
そんな事を考えているうちに。
やがて、城門前で爆発が起こり、門が開き始めた。
やけにゆっくりと。
開いていく。
そして、開き切ると同時に。
騎士様が鬨の声を上げながら、城門を出ていった。
「急げ!!城門前で部隊を整えるぞ!!第一部隊は城門前の陣の確保!!第二部隊はゴブリンを押し返せ!!」
初老の騎士が指揮を取って、次々に騎士様がゴブリンへと向かっていく。
そして。
騎士様が出払った後。
「冒険者、出ろ!!」
その号令の下、私達は城門から走り出ていった。
そこはもう戦場になっていて、騎士とゴブリンが切り結んでいる。騎士様達はゴブリンを包み込むような陣形で対応している。騎士様に死者が出た様子は無いので、騎士様優勢と言ったところか。
ここで、
「アイリ嬢!!呆けてるなよ!!俺達はゴブリンを押し返す役割だ!!すぐに前線に立て!!」
そう言われたので、私は騎士様の間を縫って、身を乗り出した。
やっと。
奴らを殺れる。
きっと。
私は口角が上がっている。
ああ。
前を行く冒険者が邪魔だ。
早く。
前線に行きたい。
ああ。
冒険者が、邪魔だ。
私はウィンドボールを空中に作りながら、それを足場に、冒険者の頭を超えた。
「アイリ嬢!!前に出過ぎるな!!」
出過ぎるな?
いや。
これで良いんだ。
私には私の戦い方がある。
五連撃でゴブリンを五匹屠り、足場を確保。
私は汚物の群れと相対すると同時に、槍を横に一閃した。柄で頸椎を砕き、穂先で首を切り飛ばし、十匹程を一撃で仕留める。
「すげぇ・・・・あんな形で・・・腕力に特化した槍使いなのかよ」
誰かが、そう言った。
そうだよ。
敏捷に振って、速度に特化しているように見えるが、私の本来の戦い方は、力任せに槍を振る、力特化型の槍使いだ。乱戦になると、力任せの戦い方も出来る。
技術は多少必要だが。
槍の範囲に入ってきたゴブリンを確実に仕留める。
これが、私の戦い方の一つだ。
狩り方だ。
見ていろ、ゴブリン。
今から、お前等を恐怖のどん底に叩き落してやる。
お前等のキングを倒して、力の拠り所を崩壊させてやる。
「前線を引き上げる!!騎士様の隊長に連絡して!!私が起点となる!!ゴブリンどもを倒しまくって、キングを引きずり出すぞ!!」
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