34 緊急依頼で戦場に出ます
シャラ・スーがあんなになるまで、どんな思いをしたのだろうか。
想像しか出来ないが、死にたくなるほどの嫌な思いをしたに違いない。
口から流れる液体が、それを物語っている。
シャラ・スー。
敵は。
私が。
「ダメよ、アイリ!!」
物見櫓から飛び降りようとした私を、寸での所でリーズディシア嬢が止めた。
あ。
あー・・・・・・・。
頭に、血が上っていた。
リーズディシア嬢の顔を見て、スッと冷静さを取り戻した。
「ありがとうございます、リズ」
「良いの。私にも、貴女の気持ちは分るわ」
「リズも級友を?」
「ええ・・・・多分。五番手だったから、生き残っていないわ」
「そうでしたか」
皆、級友を亡くして、落ち込んでいるんだ。
私だけじゃない。
ロスティも、どこかでこの光景を見ているのかもしれない。
そう考えると、冷静にゴブリンの様子を観察する事が出来た。
ゴブリンは既に三百メートル程の近さにまで寄せてきている。森から出てきた時には勢いがあったが、今は、歩くようなスピードだ。
様子を見るように。
これは。
指揮官が居るな。
規模からすると、ゴブリンキングが数匹居ると思って良いだろう。
レベルは、パッと見て100以上だから、キングともなれば、下手したら500近い数値になっているかもしれない。
辺境伯領のゴブリンよりも強い。
「ゴブリンが数千に、キングも居ますね。騎士で相手になりますか?」
「殲滅してもらわないと、王都は攻め滅ぼされるわ」
「冒険者も、当然、出るんですよね」
「招集が掛かっていると思う」
「じゃぁ、私はそっちの枠で出させていただきますよ」
それだけ言い、私は物見櫓から降りた。
ついてくるリーズディシア嬢に、
「ギルドは何処にありますか?」
そう聞く。
リーズディシア嬢は、余計な事は何も言わず、ギルドの場所を教えてくれた。
ただ、分かれ際、
「気を付けてね」
とだけ言葉を残して。
ありがとう、リーズディシア嬢。
私はリーズディシア嬢と別れて、ギルドへと急いだ。
教えられた場所に到着すると、そこには屈強な冒険者で溢れていた。
「緊急クエストです!!王都郊外のゴブリン退治!!ランクC以上の冒険者は強制参加!!参加者には金貨一枚、倒す、倒さないに限らず、生還した者には金貨一枚が配られます!!」
ギルドの受付嬢と思わしき女性が、声を張り上げて冒険者に呼び掛けている。
冒険者も、稼ぎ時と、武器を手にして雄叫びを上げている。
そんな中、私はメアリー・プル達を発見した。
「メアリー・プル」
「アイリ様」
「どうしてここに?」
「ランクC以上の冒険者は強制参加ですので、お屋敷の仕事を放り出してここに参りました」
「先日ギルドへと調査に参った際に、ランクの事を知られていたので、屋敷に早馬が来たのです」
なるほど。
そういう事か。
まぁ、好都合だ。
私も参加できるように、彼女達から口添えをしてもらおう。
何せ、私のランクはDだからだ。ブルーオーガやワイバーンを倒せる実力を認められたとしても、実績がそれだけではランクは上がらないという事だ。
「であれば、本部長の所へと参りますか。ランクB以上の冒険者はそこに集まっていますので」
「そうさせていただきます」
という事で、メアリー・プル達について、別室へと私は行った。
別室には三十人程の男達が居て。
「おう、ホムンクルスのお嬢ちゃんも来たか」
と、その中の一人が嬉しそうにそう言った。
で、私に目を移し、
「そっちのお嬢ちゃんは?」
と、メアリー・プルに聞く。
メアリー・プルは、
「我々のご主人様です」
と、簡潔に私の事を紹介した。
「へぇ・・・・・・」
全員の目が細まる。
そして、
「ランクは?」
と、私にそう聞いてきた。
「Dですよ」
「じゃぁ、お呼びじゃねぇ。ホムンクルスのお嬢ちゃん達も、ご主人様を守りながらだと、本来の実力を発揮できねぇだろう。邪魔だ」
「でも、実力はありますよ?」
「その細っこい形でか」
「ええ」
「魔術師、じゃねぇな。その制服、その着方、騎士課程の生徒だろ。どう見ても強そうな物理職には見えねぇわ」
まぁ、見た目からは納得できないわな。
ひ弱そうな娘っ子だし。
実力で黙らせるか。
私は一瞬で、一番レベルの高い冒険者の喉元に、アイテムボックスから取り出した槍を突きつけた。
「あ?」
冒険者たちの目が見開かれる。
「実力は、ありますよ?」
「あ、あぁ・・・・・・」
お判りいただけたようで何よりです。
私は槍を引いて、まとめ役であろう人物に声をかけた。
「ランクDですが、出ても良いですよね?」
「あぁ、構わない」
「それは良かった」
私は口の端を上げて、全員を見渡してこう言った。
「アイリ・ジル・アイリーン・ストーンです。以後、お見知りおきを」
「なるほど」
「ストーン辺境伯家の養女か。あの戦乙女に認められたってこった。強ぇ訳だ」
「強い奴は歓迎だよ」
全員が、私を好意的に迎えてくれる。
よし。
戦場に出る算段は付いた。
あとは、戦い抜くだけだ。
戦争は、慣れている。
ゴブリンイベントも、かなりの数をこなしてきた。
待ってろよ、ゴブリン。
シャラ・スーの敵だ。
弔い合戦だ。
一匹残らず、駆逐してやる。
「で、私たち冒険者の役目は?」
私は、まとめ役にそう聞いた。
返ってきた答えは、こうだった。
「前線深くに切り込み、恐らく居るであろう、ゴブリンキングの討伐だ」
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