32 郊外演習です
友達と仲良く過ごしていると、時間はあっという間に過ぎるもので。
全学年生徒の参加する郊外演習の日がやってきた。
月一のこの日は、生徒に王都の外で実戦経験をさせるという、危険と隣り合わせの課業になる。なので、王都の騎士が付き添いで参加してくれていたりもする。
心持ちとしては、
「やって来ました!郊外演習!!」
と、シャラ・スーが右手を上げて宣言したように、ピクニック気分の生徒も居たりする。
まぁ、
「シャラ・スー、真面目にやりなさい」
ロスティの様に真面目な生徒もいる訳だが。
というか、八割は緊張した顔をしているから、真面目に取り組む生徒の方が多いのかもしれない。
リーズディシア嬢は、
「私は後方支援よ」
回復術師は後方で怪我人の支援を行うのか。
基本的に、パーティに回復術師を混ぜるという概念は存在しない様だ。まぁ、回復術師自体が少ないから、こういう布陣になる訳なんだろうけど。
パーティは。
学生の配分を考えて、騎士過程から五人、魔術師過程から三人といった内容となっている様だ。配分的に騎士課程六人、魔術師課程二人という所もあるようだが、概ね、その人数でいくとの事。
面子は完全にくじ引きで決められた。
そのパーティ一つ一つに、騎士が三人、斥候が一人、護衛で付く。
シャラ・スーは、あのランド卿と一緒になったらしい。
「ランド卿と一緒だから、楽勝だよ」
などと、楽観的なのは、レベルの高いランド卿と一緒だからだったようだ。
「三番手出発だからね。皆の分を残しておかないかもしれないよ」
などと、大きなことを抜かしている。
それを、
「ランド卿が強くたって、あんたが何もしなくていい訳じゃないんだからね」
ロスティに窘められていた。
「それじゃ、ランド卿が呼んでるから、行ってくるね」
「ってらっしゃい」
「気を付けて」
そんな会話をして、シャラ・スーの背中を見送る。
赤色のポニーテイルが、彼女のやる気を表すかのように、ピョコピョコと揺れていた。
さて。
次は私の番だ。
二十八番手だからもうちょっと時間はあるが、パーティの面子に挨拶はしておきたい。最後尾に近い、五十七番手のロスティに声をかけ、私はその場を離れた。
たしか、金色の短髪がトレードマークの少年を筆頭としたパーティだったと思うんだが。
さて。
どこだ。
と、メンバーを探していると、
「アイリ嬢、こっちだ」
そう呼ばれたので足を向ける。
そこには既にパーティのメンバーが揃っているようで、明らかに鎧を着こんだ騎士過程の男子生徒が五名と女子生徒が一名、軽装の魔術過程の生徒らしき女の子が三名、私を待っていた。
「すみません。私が最後のようですね」
「ああ」
「まぁ、気にするな。こっちは昔からの知り合いで集まってるんだから」
「皆さんお知り合いで?」
「中等部からの知り合いも居るし、一応全員高等部では何度か顔合わせをしている。実習で組んだこともあるし、まぁ、仲間の情報は大体皆、頭に入っているよ」
「では、情報が無いのは私だけですね」
「いや」
「アイリ嬢は槍使いなんだろ?この前、ランド卿をあしらっていたのを見たよ」
あぁ。
あれを見られていたのか。
なら、
「私の手口は分かっていると思っても大丈夫ですか?」
「出来るお嬢様で、意思は統一されているよ。魔術課程の女子たちにも、その認識を伝えておいたから安心してくれ」
「分かりました」
ランド卿との一戦も、無駄ではなかったようだ。
そうこうしているうちに、順番が回ってきて。
「二十八番」
監督の教授の声で、私達は出発地点に進み出た。
ここで騎士さんと斥候さんと合流する。
「相手はゴブリンとはいえ、出来る奴も存在する。油断だけはするなよ」
一言頂戴して。
私達は王と近郊の森へと足を踏み入れた。
さて。
どんなゴブリンが出てくるのやら。
「あの・・・・・・」
と、私は隣を歩く騎士課程の女子生徒に声をかけた。
「どうしました?アイリ様」
「王都近郊のゴブリンは、どのくらい強いのでしょうか?」
「ストーン辺境伯領のゴブリンを基準にしているのなら、かなり弱いと言えると思います。まぁ、それでも私程度でしたら、二匹を相手にするので精一杯と言ったところなんですけどね」
なるほど。
この娘がレベル195だから、辺境伯領のゴブリンと比べるとかなり弱いと見て良いようだ。
シャラ・スーやランド卿にとってみれば、簡単に狩れる魔物なんだろう。
そんなに群れないって聞いてるし。
そう考えると、あのシャラ・スーの張り切りようも納得だ。
魔物の出現率が高くなっているとは聞いているが、安全策がしっかりと取られているから安心だろうし。
シャラ・スーのレベルが上がったりして。
そんな感じの会話をしながら、私達は進んでいった。
どれくらい進んだだろうか。
斥候役が、私達の脚を止めた。
「このルートはダメだ」
と、そう言う。
何故なのかを聞こうとする前に、魔術課程の女子が私に教えてくれる。
「ゴブリンの糞に棒が刺さっているのは、前の組が通った後だからなんです」
なるほど。
確かに、斥候役の足元にある糞に、棒が刺さっていた。
「ルートを変える」
「ああ」
騎士さん達が進路方向を調節してくれている間に、騎士さんの一人がぼそりと、
「それにしても、今日はえらくゴブリンの糞が少ないな」
そんな事を言った。
瞬間。
ゾワッと怖気が走った。
いま、この騎士は何て言った?
ナンテイッタ?
ゴブリンノフンガスクナイ?
魔物は増加傾向にあるのに、ゴブリンの糞が少ない?
嫌な予感がした。
「騎士様」
私はルートを変えようとしている騎士様達に向かって声をかけた。
「なんだ?」
「引き返しましょう」
「何故」
「嫌な予感がします」
「臆したか」
「いえ、魔物が増加傾向にあるのにゴブリンの発見数が少ないという現状を見て言っております」
そう。
この現象。
ゲームの世界にもあった。
最弱とされるスライムやゴブリンが一旦増殖し、そして、忽然と姿を消す。
そんな現象の後は。
イベントが始まる時の合図だ。
そのイベントとは。
「より強い、ゴブリンを餌にする魔物の大量発生か、もしくはゴブリンのスタンピードが予測されます」
どちらも、戦争と同じ様に、軍を作って相手をしないといけないイベントだ。
ゴブリンじゃなかったら、レベル400以上のイベントボスになってくるから、下手したらブルーオーガだ。ゴブリンだったら、一回りレベルの上がった奴が大量に発生する。
どちらも、十数人程度では対処しきれてないイベントだ。
アイテムが取り放題になるので、ゲームなら嬉々として戦地に赴くのだが、残念ながら、今、ここで起こっている事はリアルだ。
まずい。
先行した組は、どうなっている?
いや、現状を考えろ。
今、私達が立っているこの場所が既に危地になっているかもしれない。
「退避を」
再度、私は騎士様に向かってそう言った。
だが、
「この程度の差で、それを考えるのは臆病が過ぎるぞ」
斥候役が、そう言ってしまったので、
「予定通り、ルートを変える」
騎士様は斥候役の言う通りに、ルートを変えると宣言した。
まずいぞ、これは。
首筋がピリピリと電気を発している。
早く退避しないと。
早く、後続に、本部に、現状を伝えないと。
早く、軍を編成しないと。
私は焦りを覚えながら、騎士様に続いて足を踏み出した。
決定権の無い私に、今、何ができる?
考えろ。
考えろ、アイリ。
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