30 リーズディシア嬢とサロンでお話です
「ってな事があったんですよね」
という私の王太子殿下に関する感想を、リーズディシア嬢は表情を変える事無く聞いていた。
そして一言、
「そんな事、あり得るのかしら」
と、懐疑的な言葉を私に投げかけてくる。
「リズはあり得ないと言うけれど、私は王太子殿下をそう見ました。あの人は、出来る側の人間ですよ。そして、今、何かを追っている」
何かは分からないけれど、何かに確証を持って、何かを追っている。
多分、間違いない。
リーズディシア嬢に話せないような、何かを追っている、と見るべきだ。
「その何かとは、何?殿下は、何か危険な事に巻き込まれていたりしないの?」
「そこは分かりません」
「心配だわ」
おやまぁ。
乙女だねぇ。
可愛らしい事だ。
まぁ、それは良い。
「とりあえず、リーズディシア嬢は、リーズディシア嬢のまま、普通に生活を送っていたら良いと思いますよ」
「私にお手伝いをする事は無いという訳ね」
「逆に、下手に動かれると事を仕損ずるとお考えの下動かれているのではないでしょうかね」
「そう」
そこで、リーズディシア嬢は、僅かに前のめりだった身体を正し、椅子に座り直した。
「アイリの言う事を信じてみるわ」
「そうしてみてください」
「それにしても、よく分かったわね」
「小娘に擬態している、46年生きたおっさんの目はごまかせませんって」
いくら面の皮が厚かったって、小僧の演技など、お見通しだ。
リーズディシア嬢もなんだかんだで中身は三十路の女性なんだろうが、恋は盲目とも言う。見抜けなかったんだろう。
「今、王都周辺と東側諸侯の領地の魔物の出現率を調べさせています」
「アイリは、王太子殿下が動いている原点が、そこにあると言いたいの?」
「さて、こればかりは調べてみないと分かりません。が、私に推測できる材料として、西側の混乱を東側が求めている、という仮定を立てたまでです」
何らかの手を使って、魔物の出現率を上げるという手を使っているのかもしれないという仮定だ。
それに気付いた王太子殿下が、東側に寝返った振りをして調べているのではないかという仮定を立てたまでだ。
「これが正解という訳ではありませんよ」
「でも、東側出身のあの娘を連れ回っているという事は、納得ができる」
単なる権力争いなのだろうが、あの王太子殿下が、国を割るという選択をするとは思えない。
何とか丸く収まる道を模索しているのではないだろうか。
どこまでを粛正したら東側が黙るのか、そこを見極めているのではないだろうか。
「王都付近や東側まで魔物の出現率が上がっていたら、逆に黒と言えるのではないでしょうかね」
「王都付近も魔物の増加が見られるからって、実習のゴブリン狩りについてくる騎士の数が増えているわよ」
「おや、ホムンクルスを動かす必要はありませんでしたか」
「どこに調査に行かせたの?」
「ギルドに」
「それはむだ足を踏ませたわね。この学院だと、普通に誰もが知っている内容よ」
「そうでしたか」
なら。
「じゃぁ、あとは東側の諸国ですね」
西側だけの現象であれば一時的なものとして扱う事が出来るが、国全体でその現象が起こっているとなると、人為的なものを感じさせる。
ま。
王太子殿下がそこに目を付けたかどうかは分からないんだけどね。
「とりあえず、リズはリズのままで良いと思いますよ」
「そう」
リーズディシア嬢が学園でどういう立ち位置なのか、どういう行動を取っているか、まだ詳しくは分かっていないけど。
でも、彼女は実直な人間だという事は分かっている。
滅多な事はするまい。
彼女が貴族社会で生きてきた事も知っている。
間違った事もするまい。
「じゃぁ、お言葉に甘えて、私は私の道を行かせていただくわ」
そうしてください。
「早速だけど、ミリーネ嬢を虐めますか」
「いや、わざと虐めろとは言ってませんよ」
「やりたくてやっている訳じゃないのよ」
「じゃぁ、何故、そう嬉々として虐めを行うんですか」
「だから、嬉々としていないって」
「笑顔、笑顔。回復術師なんだから、聖母のような笑顔でいないと。今のリズは、どちらかと言うと、敵をなぶり殺しにする攻撃魔術師のような笑顔になっていますよ」
「あら」
「あら、じゃないですって」
「ごめんあそばせ」
「じゃないって」
私がそう突っ込むと、本当に、リーズディシア嬢は一転して聖母のような笑顔を向けてきた。
そうそう。
それで良いの。
良いんだけど。
女子って怖えぇよ。
なんで、そんなにすぐ表情を取り繕えるの?
「女子、怖っ」
そう率直に感想を述べると、
「あら、私なんて可愛いものよ。表では良い男を逃がさないように良い顔を見せて、裏では恋敵の悪口を言うなんて、当たり前の事だもの」
うーん。
それはそれで、どうなんだ?
「惚れた相手に真正面から当たっていく方が、男としてはグッとくる物があると思うんですけどね」
「それは、貴女の意見?」
「そうですね」
「貴女、地球時代はモテなかったでしょう?」
「良く分かりましたね」
「王太子殿下の様に、地位もあって、見た目も良くて、頭も切れて、武に長けているような方は、それはもうモテるの。貴女が言うように、正面から好きだと言っても、相手にもされないものなのよ」
そう考えると、あの王太子、イケメン過ぎて、腹が立ってくるな。
いつか殴るか。
物理的に首がかかっているから、時と場所を選ばないといけないけど。
「それよりも、貴女、注意しておきなさいな」
「何を?」
「男子生徒の中で噂になっているらしいわよ。可憐な美少女が編入してきたって」
「どこ情報ですか」
「私のメイドが色々と聞かれたらしいわよ。貴女のメイドだと埒が明かないからと、私のメイドの所に男子生徒の侍従が情報を仕入れに来たらしいのよね」
「へぇ・・・・・・・」
「アイリ、結婚する気、ある?」
「無いですよ」
男なんて、絶対にお断りだ。
「辺境伯家の養女で、嫁に貰ったら大貴族と繋がりを持つ事が出来る。背は高いけど、見た目は十分以上と言えるほど超美人。物腰は丁寧だから、基本的に男受けが良い。条件としては優良物件なのよ、貴女」
「気持ち悪いですね」
本当に反吐が出るんだが。
「だったら、元男として、女性の方がお好みなのかしら?」
「子供みたいなもんですよ」
「武に長けて格好良いし、性格イケメンだし、女の子同士の火遊びも出来るわよ」
「しませんって」
そこまで言って、リーズディシア嬢はクスクスと喉を鳴らした。
一口お茶を含んで喉を潤して、
「貴女に忠誠を誓わせようとするのは、傲慢が過ぎるようね」
そんな事を言う。
だから私は、リーズディシア嬢にこう言っておいた。
「同郷の誼ですしね、友達ですしね、リズの味方ですよ、私は」
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