28 私闘です
周囲がざわつく中、私はランド卿の後を十歩ほど離れてついていく。
「あの編入生、サロンでランド卿に喧嘩を売ったってよ」
「あいつ、殺されるぞ」
そんな声が聞こえてくるが、気にしない。
どうやら、ランド卿は騎士課程の中では強い方らしいが、私に言わせるとひよっこだからだ。
レベル的に見て、負ける要素が全く無い。
逆に、弱い者いじめをしているようで気が引ける。
まぁ、気持ち悪いから良いんだけどね。
リーズディシア嬢を馬鹿にしていたし。
虎の威を借る狐って奴だね。
王太子殿下への顔つなぎにもなるし。
彼には、ここで散ってもらおう。
「着いたぞ」
そう言ってランド卿が足を止めたのは、騎士課程の棟の中にある練兵場だった。
朝から騎士の卵たちが訓練に勤しんでいる。
そんな中、ランド卿は大剣を模した木剣を取って、練兵場の中心に進んでいった。
「得物を持って、早く来い!!」
そう言って二三度素振りをする。
やる気に満ちてるねぇ。
私は棍を取って、ランド卿の前に進み出た。
「ショートソードじゃないのか」
「あれは予備の武器でして、本業は槍なんですよ」
「そうか」
そう言って、また剣を振り、私に突きつけて、
「どちらでも良い。相手になってやる」
そう言って、大剣を構えた。
イケメンがやると、様になるねぇ。
気持ち悪い。
まぁ、戦いにそれは関係ないか。
ランド卿は剣を身体の後ろに隠すように構えているので、後の先で戦うタイプだな。
私は棍を構えながら、冷静に観察する。
いや、しようとして、先にランド卿が動いた。
おいおい。
その構えだと、三つのパターンの攻撃しかないだろ。
上から切り下すか、横薙ぎか、切り上げてくるか。
まぁ、左に回られたら詰みだから、普通は、
「ふっ」
横薙ぎだろうな。
私は後ろに飛んで、ランド卿の横薙ぎの一閃を躱した。
「ふん、これを躱すか」
いやいやいやいや。
何をどや顔で言ってるんだ。
予想も出来ていたし、起こりから見えているし、剣筋も遅いから簡単に避けられるぞ。
ゲームの世界で起こりの無い剣筋を見慣れている私に言わせたら、完全なヌルゲーだ。
まさか、これを必殺の一撃なんて・・・・・・・。
「この俺の必殺の一撃を躱すとは、言うだけの事はある」
いやいやいやいや。
こんなのを切り札にするなよ。
明らかにスピード重視の相手に対して、単発で終わらせようなんて、無理があるだろ。せめて、連撃で足を止めさせてから必殺の一撃とやらを叩き込むべきだ。
そもそも、後の先を行く構えだ。
自分から手を出したらダメだ。
「いや、ダメでしょ、こんなの」
思わず、そう言ってしまった。
「何がだ」
言ったものはしょうがない。
隠さずに本人に伝えるか。
「剣筋が鈍い。起こりが分かりやすい。剣がどんな軌道を取ってくるかも三択しかない。良い所なんて、どこにも無いじゃないですか」
「なんだと」
あー。
やっぱり、怒るよね。
必殺の一撃とか言っていたものを、完全にダメだしされてたら、そりゃ、怒るよね。ランド卿は明らかに顔を真っ赤にして、再び剣を構えた。
「ランド卿」
「なんだ」
「師はいらっしゃるのですか?」
「当然だ」
「その構えからの一撃を教えたのも、師匠から教えられた一撃なのですか?」
「そうだ」
そりゃまた。
危険な技を教えたもんだ。
「その師匠は、その技を教える時に、何か言ってませんでしたか?」
「ここぞという時に使えと言われている」
でしょうね。
ここぞという時に使わないと、読まれて躱されて、反撃を喰らう事になるのは目に見えている。しかも、格下相手じゃないと通用しない技だ。
まぁ、レベルも高いし、格上を相手にする事も少ないだろうからこそ教えられた技なんだろうけど。
「私相手には、通用しませんよ?」
「分かるか」
そう言うと、ランド卿は再び横薙ぎの一閃を繰り出してきた。
だから、読まれてるんだって。
私はランド卿がすべき後の先を取って、棍をランド卿の剣の柄頭に当てる。
カランと音を立てて、ランド卿の剣が飛んでいく。
同時に、私はランド卿の首筋に棍を突きつけた。
「だから、通用しませんって」
「くそっ」
ランド卿は両手を振りながら痛みに耐え、私を睨み付けてくる。
が。
「リーズディシア嬢を馬鹿にするからですよ」
私は冷ややかにランド卿を見下ろした。
しばし睨み合う。
そして、
「もう一本だ・・・・・・」
ランド卿は絞り出すように、そう言った。
ほう。
気概だけは、あるのか。
この子は。
この子は伸びるな。
王太子派閥の騎士として、見出される事になるだろう。
しかし。
リーズディシア嬢が言うには、王太子派閥と戦う事になるという話だったんだが、王太子がどういう人物か見極めていない以上、潰すのはここではできない。
とりあえず。
この子の成長に付き合うか。
私は棍を降ろして、初期位置に戻った。
「教えていただきたいのですが」
「何だ」
「王太子殿下は、貴方にとって、良い主人ですか?」
「そこに疑いを持った事は無い」
「死力を尽くして仕えますか?」
「無論だ」
「では、何故リーズディシア嬢をもやしと揶揄したのでしょうか」
本来主人の妻となる最有力候補であるリーズディシア嬢を揶揄するという事は、主人である王太子殿下を貶める行為であると思うのだが。
「・・・・・考えあっての事だ」
「そうですか」
考えがあっての事か。
王太子殿下にも、考える事があるという事か。
それとも。
明確に答える事が出来ないのか。
これは。
王太子殿下に取り入っているという女性の事を、王太子殿下自身の考えという奴を、聞き出すしかないな。
「では、再開しましょうか」
その言葉と同時に、ランド卿は気合の声と共に切りかかってきた。
木剣が、再び宙を舞った。
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