27 履修です
「で、結局、どれを履修したら良いのかな」
翌日、私はリーズディシア嬢に、率直に履修の事で相談をぶちまけた。
それに対する彼女の答えは、
「とりあえず、貴女には武将としての力を持ってもらいたいから、座学では総合戦術課程とか、戦争史とか、魔術を視野に入れた戦い方がどんなものか勉強してもらいたいわね。あと外せないのは、各国の歴史ね」
というものだった。
「その他は実際に戦場に出てもらう事になると思うから、自分を鍛えるような課程を取って欲しいって所かしら」
ふむ・・・・。
確かに、ゲームの集団戦でも、私は常に一兵卒だった。
ここらで戦術を学んでおくのも悪い事ではないだろう。
各国の歴史も、士官となるからには勉強しておいた方が良いというのも解る。
だが。
「自分を鍛える方法って、何かあるのですか?」
「例えば筋肉増強課程なんかはどうかしら?貴女、かなり痩せているから、筋肉を付ける事によってスピードが上がったりすると思うのだけれど」
理屈は解る。
ベースとなる体力を上げる事によって、内包魔力を使用した筋力が大幅に上がるという事なんだろう。
今からでも成長できるというのなら、それもありかもしれない。
リーズディシア嬢の言う通り、その辺りを取っておくか。
「当然、基礎教養は受けてもらうわよ」
「あの、殺気を察知するとかいう授業ですよね」
「それは騎士過程の基礎教養になるわね。私が言っているのは、その他の事。辺境伯家のお嬢様としての在り方を、みっちりと仕込んでもらうわ」
リーズディシア嬢は、ここでも、淑女としての教育を受けてもらうと言ってきた。
うへぇ。
女の子の教育って、意外と厳しいんだよな。
座り方一つで駄目出しを喰らうんだもの。
アイリーン義母様の教育が思い出される。
あれよりも、厳しいんだろうか。
「アイリは基礎だけが身に付いているみたいだから、多分お姉様は基礎をみっちりと教え込んだのでしょうね。応用は、まだまだこれからよ」
女の子になるって、難しいな。
まぁ、中身は46のおっさんだ。
勉強していくしかあるまい。
「わかりました」
私はリーズディシア嬢にそう答えた。
「じゃぁ、履修事務室に行きますか」
「リズも来るのですか?」
「分からないでしょうから、教えてあげるわ」
「それはありがたいのですが、授業は良いので?」
「今日は一限目が無いから安心して」
そう。
それならついてきてもらうか。
私達はそれぞれのメイドを伴って、履修事務室の方へと歩いていった。途中でメイド達と別れて、そこからは二人で歩を進める。
人の視線を感じた。
落ち着かないな。
「目立つのは落ち着かない?」
「そりゃね。元々は目立たない、普通のサラリーマンでしたから」
「まぁ、私と居る限りは諦めて欲しい所ね。私が一人の令嬢を案内しているとなると、かなり目立つの」
「そういうものですか」
「公爵家の娘ともなると、取り巻きがね、普通に寄ってくるから」
「リズも大変なんですね」
そんな感じで履修事務室へと到着した私達は、早速履修届を出して、受理された。課程の時間割を受け取り、リーズディシア嬢とサロンへと向かう。
サロンに入ると、早速リーズディシア嬢の取り巻きが寄ってくるが、それを彼女は手で制して、
「ごめんなさい。今日はこの子とお話があるの」
と言って、取り巻き達を下がらせた。
「あ、でも、エルフィンは残って」
藍髪の娘だけを呼び止める。
彼女はそれに応えて、リーズディシア嬢の後ろに黙って立った。
「エルフィン。今日は後ろに控える必要はないわ。一緒に座って飲み物を飲みましょう」
「はい」
「この娘はアイリ・ジル・アイリーン・ストーン。私のお姉様の義理の娘だから、私の姪という事になるかしら。アイリ、こちらはエルフィン・ジル・アイリーン・ローズ。ローズ伯爵家の娘で、優秀な魔術師よ、お互いに仲良くしてね」
セカンドネームとサードネームは同じか。
つまり、養子で、母親の名前は一緒という事か。
「よろしく」
とりあえず握手を求めると、
「お願いします」
と言って、エルフィン嬢は私の手を軽く握ってきた。
「エルフィン。アイリは貴女と同じで淑女教育を受ける事になったから、同じ課業を受ける事になると思うわ。その時はよろしくね」
「かしこまりました」
硬い。
硬いな。
これだと完全に主従の関係だ。
リーズディシア嬢がそれを望んでいるのかどうかは知らないが、私としては、彼女とは良い関係を築いていきたいと思っている。
数少ない、出来る娘だ。
戦場でも肩を並べる事になるだろう。
そうなると、だ。
うーん。
おっさんには、年頃の娘さんの興味を引く話題が無いぞ。
この娘、制服も着崩していないし、きっと真面目な娘なんだろうが。勉強が好き、とか?魔術に並々ならぬ興味を持っている、とか?
その辺だろうか。
となると、だ。
「エルフィン嬢は、魔術に興味があるのですか?」
そこから詰めていこう。
「何故、それをご存じで?」
「昨日、リズから聞きました。優秀な魔術師を紹介したいと。貴女がそうなんでしょう?」
「優秀かどうかは分かりませんが、少なくともこの学園で後れを取った事はありません」
そうだろう、そうだろう。
なんせ、レベル400台の魔術師だ。
「どのような魔術を得意とされているのですか?」
「このような見た目でお恥ずかしいのですが、攻撃系の魔法を得意としております」
「見た目と得意分野が違うという事は、往々にしてある事です。私もこう見えて、騎士過程で武術を専攻するんですよ」
「そうなのですか」
よし。
やはり、魔術の話を始めると饒舌になるらしい。
この線で行こう。
聞くに、エルフィン嬢は、十三歳の頃にリーズディシア嬢に見出されて伯爵家の養女となったらしい。それまでは貧民街で暮らしていたとか。
リーズディシア嬢をちらりと見ると頷いたので、彼女も優秀な武将として見出されたのだろう。
魔術の勉強は意外にも面白かったらしく、義父、義母共に教育をしてくれたのでかなりの腕前になって入学を果たしたとの事。
まぁ、レベル400台の娘だもんな。
「で、どんな攻撃魔法が得意なのですか?」
「炎系の範囲魔法です」
なるほど。
という事は、だ。
メアリー・プルと被る所があるな。
一度、会わせてみるか。
「私のメイドにも、攻撃魔法を得意とした魔術師が居るのですが、話が合いそうですね」
「そうなのですか」
「会ってみます?」
「ええ、ぜひ」
「それでは、放課後にまたサロンに寄りますので、その時にでも」
「よろしくお願いします」
と、約束を取り付けたところで、
「おいおい、もやしが三人集まって、護衛も付けずに何の相談だ?リーズディシア嬢が居るって事は、何かの悪だくみか?」
男に声をかけられた。
イラっときた。
見ると、大柄な、いかにも体育会系と言った感じの男子生徒が私達を見下ろしている。
イケメンだけど、その笑顔、気に食わない。
見た事ある顔だが。
ん-。
あー。
そうか。
王太子殿下の腰巾着だったか。
「貴方は?」
一応名前を聞いておくか。
すると、
「彼の名前はランド・フォン・ヤニス・ホッブライド。ホッブライド伯爵家の当主よ」
「へぇ・・・・・・」
その若さで、当主か。
優秀なんだろうな。
それか。
「担ぎやすい神輿、なんですかね」
脳筋そうだし。
「貴様!!俺を愚弄する気か!?」
愚弄も何も、先に突っかかってきたのはそっちでしょうに。
私は単に、火の粉が降りかかってきたから冷や水をかけただけですよ。
「愚弄するつもりはありませんでした。申し訳ありません。その見掛け倒しの筋肉を見るに、頭の方まで筋肉で出来ているのかと勘違いしたにすぎません。誠に申し訳ありません」
さらに水をかけてやると、
「良い度胸だ!!お前、昨日騎士課程棟に居た女だな。俺が相手をしてやる!!」
「おー、揉んでくれるという訳ですね」
レベル350の騎士にもなりきれてない小僧が、ほざいた。
良いでしょう。
相手になりましょう。
「リズ」
「なに?」
「筋肉の相手をしてくるので、また放課後にここで良い?」
「良いわよ。いってらっしゃい」
「じゃぁ、ランド卿、行きましょうか」
エルフィン嬢がオタオタしているのを尻目に、私は立ち上がり、サロンを後にした。
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