23 王太子殿下の登場です
「改めて」
と、赤毛の娘が手を出してきた。
「シャラ・スー・ミラボーだよ。よろしくね」
「よろしく」
私はその手を握り返す。
「ロスティー二・シルク・メアリー・ハンストンよ。ロスティと呼んで」
「アイリとお呼びください」
金髪の娘とも握手を交わす。
しかし。
シャラさんの方は、名前が三文字か。
こういう貴族も居るんだな。
「ああ・・・・あたしの名前の事かい?あたしはスー族の族長の娘だから、ミドルネームにスーって入ってるんだよ。あたしは、シャラ・スーとでも呼んでくれたら良いよ」
ふむ。
見ると、確かに肌が少し浅黒い気がする。
ま。
それだけだ。
可愛い娘に違いはない。
と、そこに。
「おいおい、ロスティ。自分だけその娘と仲良くする気か?俺にも紹介してくれよ」
金髪たれ目が現れた。
お?
こいつぁ。
「あんたには関係ないでしょ、フィリップ」
あれか?
「お?嫉妬か?未来の旦那が浮気をするとでも思ったか、ロスティ?」
イベントか?
鉄板の、悪役の登場か?
「あんたと婚約をした記憶は、私には無い」
「寄り親の後継者が、側室にしてやろうって言ってるんだ。そこは喜ぶところだろう」
はい、確定。
こいつ、悪役だわ。
ロスティに目を遣ると、嫌悪感顕わに、フィリップという少年を見ていた。
そのロスティをスッと無視して、
「で、お嬢さんは、何者なの?」
と、こちらに興味を示す。
うわっと思った。
こいつは、気持ち悪いわ。
婚約者と自称している娘を放っておいて、目の前で他の女に興味を移すのかよ。
ろくな男じゃねぇな。
名乗るのも気持ち悪いので、
「シャラ・スーとロスティの友人ですわ」
と、にっこりと笑って拒絶の意を示した。
が。
こういう奴ほどしつこいのが相場で、
「俺はカルロイ家の嫡子でフィリップというのだが、お嬢さんの名前を聞かせてくれるかな?」
喰い下がってきた。
はぁ。
溜息が出る。
「アイリ・ジル・アイリーン・ストーン。これで良い?満足したら、どっかに行ってください」
「養子風情が、俺にそのような口を利くのか!?」
フィリップ君が激高した。
沸点低いな、この子。
「カルロイ家というのがどういう家なのか知りませんし、そこの嫡子がどういうご身分なのかも知りません。ただ、少なくとも失礼な方という認識には至りました。失礼な方には、相応の対応をさせていただきます」
「俺は、王太子殿下の将来の参謀だぞ」
あ。
私、一つ勉強したわ。
フィリップ君の理屈では、この国では、権力を出して相手を威圧しても良いんだ。相手を従わせて、気分よく頭を踏みつけても良いんだ。
なるほど、なるほど。
と、いう事は、だ。
「でも、今はただの騎士の見習い、ですよね?」
「なんだと」
「しかも、シャラ・スーやロスティよりも弱い」
「何を根拠に・・・・」
「参謀になると言う割には適切な回答を返せないようですし、頭に血が上りやすいようですし、向いていないのでは?」
煽っても、全然問題なし。
「現場に出てきてかき回すような参謀になりそうで、現場で指揮を取る事になる可能性の高い私としては、今すぐ・・・・・・」
「きさまぁ!!」
やはり沸点が低くて、フィリップ君は腰に下げた剣を抜いた。
「ちょっと!!」
シャラ・スーが制止をかけるが、フィリップ君は私に向かって切りかかってくる。
さすが、というか、レベル175の剣筋だ。
鈍い。
私は立ち上がりながら踏み込んで、彼の剣を受けるために腰のショートソードを抜き、受けて、簡単に流した。その返した剣で、フィリップ君の首筋にショートソードを突きつける。
「剣を捨てろ」
冷たく、私はそう告げた。
一瞬何が起こったか分かっていなかったフィリップ君は、
「ぁ・・・・」
と声を漏らして、剣をその場に捨てた。
あーあ。
やっちまったな。
私も、もうちょっと大人になっていれば良かった。
フィリップ君の家はロスティの家の寄り親と言っていたし、これはロスティやシャラ・スーとは距離を取らないといけなくなるのかもしれない。
頭に血が上っていたのは私も同じか。
反省だ。
「悪いね、ロスティ」
剣を降ろした私は、ロスティにそう言って謝った。
そして、
「君に用は無いよ、フィリップ君」
悔しそうな顔をしているフィリップ君にそう告げる。
と、そこに、
「何をしている!!」
と、大きな声でしっ責が飛んできた。
誰だ。
と見ると、金髪の、背の高い、アイドルの様な男が立っていた。
周りにアイドルの様なキャラを侍らせて。
「学園での私闘は禁じられているはずだぞ」
「で、殿下」
フィリップ君が青ざめて、言葉を漏らす。
ほう。
殿下、という事は、こいつがあの、リーズディシア嬢を悩ませる王太子殿下か。
見た目は良いのだが。
さて。
ここで介入して、私に非がある様な事を言いだしたら、それこそ無能殿下なのだが。
「フィリップ・アグリ・リーネット・カルロイ。貴様は、何故そこに立っていられる?」
「そ、それは・・・・・・」
「私の名を出し、参謀になると息巻いておきながら、煽られて、先に仕掛けて負けるとは、無様が過ぎるぞ」
ほう。
負けた部下をしかるか。
で。
「君は?」
「アイリ・ジル・アイリーン・ストーンです。殿下と呼ばれているという事は、王太子殿下という事でよろしいのですか?」
「そうだ」
「私もおしかりになられますか?」
「ストーン家という事は、君が、リーズディシア嬢が乞うてまで学園に編入させたがった娘だな。そうだな。編入したばかりで、ここのルールが分かっていない様だから教えておくが、この学園では私闘は禁じられている。以後、気を付けるように」
「降りかかる火の粉は水をかけて消すというのが私の方針なのですが」
「それでも、だ」
「この一件で、カルロイ家からハンストン家へ制裁がいったとしても、何もせず見過ごせと仰せなのですか」
「カルロイ家には通達を出しておく。心配するな」
こちらにはお咎めなし、か。
リーズディシア嬢が言っていたように、出来る人物ではあるようだ。
王太子殿下もこの場に居るという事は、彼も私と同じ騎士課程の生徒のようだが。
噂の女性との逢瀬はどうしているのか。
リーズディシア嬢との関係をどうするつもりなのか。
さて。
見極めさせてもらうとしますか。
颯爽と去っていく王太子殿下の背中を眺めながら、私は、フィリップ君をどうしたものかと頭を悩ませていた。
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