20 サイド リーズディシア
私がこの世界をゲームの世界と認識したのは、十歳の誕生日だった。
何の事は無い。
誕生日のプレゼントで父様から頂いたブローチを見た瞬間、あ、これ、乙女舞う光の剣の世界だと。
私は高慢な悪役令嬢で、王太子殿下の婚約者。
主人公である庶民出身の女の子を虐め倒して、王太子から婚約破棄を言い渡される娘だと。
確かに、思い出すまではかなり我儘な娘だった。
メイドにはきつく当たり、優秀な姉に嫉妬し、勉学を疎かにして、凡そ淑女とは言えない娘だった。
これでは王太子殿下に見切りを付けられて婚約破棄されるのも当たり前だと思った私は、自分を変える努力をした。
メイドに優しく、優秀な姉を見習い、自らに才能のある回復魔法を会得して、淑女としての教育をしっかりと受けた。
しかし。
それでも届かなかった。
十六の春。
学園に入学した私は、立派に育った王太子殿下が恋に落ちる瞬間を目の当たりにしてしまったのだ。
目の前で。
王太子殿下と共に入学式へと向かっている途中、目の前を歩く娘が突然転んだ。
その娘を立ち上がらせるために手を出したのが王太子殿下だった。
そこからはお約束。
見つめ合う二人の姿は、乙女舞う光の剣のオープニングそのままだった。
「いつまで見つめ合っていらっしゃるのですか?」
そんな言葉と同時に、ああ、来たか、と私は思った。
前世でも十六の頃から知識が無いから、今世での年齢と合わせると三十二になる私に、初恋などというものはもはや存在しない。
だが、王太子殿下を取られた、という悔しさは、胸の内から湧き出てきた。
そこから先は、私の知るゲームの世界と一緒だ。
少女は次々と王太子殿下の部下になるであろうキャラクターを攻略していき、見事その全員の心を射止めてしまった。
私も阻止しようと努力はしたが、その度に王太子殿下の不興を買った。
「ああ、婚約者様の前で他の女性と会話するなんて、マナー違反も甚だしいね」
そう言って上辺では謝罪をしてくれる王太子殿下は、いそいそと少女の元へと向かっていったものだ。
幼少の頃から積み上げてきた関係に疑問が走る。
これは。
将来を考えないといけないのかもしれない。
ゲームの知識を知る私は、この先に来るであろう紛争を予測して、武将を集める事にした。
在野で燻っている人を集めるために、自ら出向く事なんて当たり前。
身を粉にして人を集め、優秀な人材をフェンデルトン公爵家に迎える事が出来た。
そして。
一人、加えておきたい人材の事を思い出す。
ゲームの中盤で、ある特定の時期に、ある特定の地方を探さないと見つからないというレアキャラの事を。
アイリ。
武力104を誇る、ゲームの最強キャラだ。
平地でも山岳地帯でも、水上戦でも、誰にも後れを取る事が無い、常にベストな強さを誇る最強キャラだ。
この辺りを探索すれば良いという所までは分かっている。
私は春の長い休みを利用して、ストーン辺境伯領へと馬を走らせた。馬車など、後から準備すれば良い。
とりあえずは、アイリを味方につける事が最優先だ。
だが、アイリという武将は聞いた事が無いというのが、義兄や姉や、ギルドでの答えだった。
「そんなに強い娘が居るのかい?」
「はい。この国のみならず、世界中の誰が相手をしても適わないような人材が、ここに居ます」
「聞いた事も無いが」
まだ、世に出ていないのか?
好都合ではあるが。
だが、春休みの間に見つかるのか?
焦りを抱えたまま、私は辺境伯領で一か月を過ごした。
そして運命の朝。
アイリという新人冒険者がブルーオーガを倒してきたとギルドから情報が入った瞬間、私はメイドに遠出の準備をさせた。
「お義兄様!!騎士を数名お借りします!!誰でも良いので今すぐついて来れる騎士様の準備をお願い致します!!」
義兄の執務室でそれだけ言うと、私は厩舎に直行して馬を駆った。
ギルドに行き、アイリの家を聞く。
その足で、再び馬を駆った。
騎士が追い付いてきて、私に向かって単騎駆けは危険だと釘を刺してくるが、関係ない。
アイリを手に入れる事が出来るのであれば、多少の危険など関係ない。
アイリは誰にも渡さない。
アゾニ村という村に到着した私は、一通の手紙をしたためた。
礼を尽くし、彼女を迎えるために。
そして翌日。
私はアイリとの邂逅を果たした。
初見は、背は高いが、線の細い、本当に最強キャラなのだろうかという印象の同年代の娘だった。
モデル、とでも言いたくなるようなスタイルと美貌を持っている。
うらやましい。
だが、思い返す。
この娘がブルーオーガを片手間に倒す程の武力を持っているという事実は証明されているのだと。
私は彼女に、世に出るよう促した。
しかし、初日はにべもなく断られた。
だが、諦めない。
私の陣営に、私が勝つためには、彼女の存在は不可欠なのだ。
義兄様に、彼女を養女として迎え入れるよう手紙を書き、早馬で送る。私の熱意が伝わったのか、義兄様からは了承の返事が来た。
日を置いて、私は再び彼女の元を訪れた。
しかし、彼女には金銭も、貴族待遇で迎えるという誘いも、効果は無かった。同郷のよしみ、という共通の話題があっても、靡こうとしない。
悔しい。
自分には、彼女を落とすだけの材料が無いのか。
思わず唇を嚙む。
では、彼女は何だったら動くのか。
「私は貴女の為人を知りません」
その言葉に、ダメ元で、
「では、お友達ではいかがでしょうか?」
と、聞いてみた。
すると、初めてアイリは僅かに考え、
「わかりました」
と、私の誘いに乗ってきてくれた。
何故だか分からないが、友達という所に触れるものがあったのかもしれない。
「リーズディシア嬢に同行しましょう」
「ありがとうございます、アイリ」
「まずはお友達から」
「まずはお友達から」
「メルト・プル。皆に念話しておいてください。私はここを出て、リーズディシア嬢を手伝う事にします」
そこからはとんとん拍子だった。
「私は、貴女についていく事に決めました」
「はい」
「が」
「が?」
「このままでは芸がありません」
「それで?」
「三顧の礼というのをご存じで?」
「あぁ・・・・・」
それは、当然の事だろう。
名前も知れ渡っていない人材を迎え入れるのだ。
貴族待遇で迎え入れるのだ。
礼を以って、彼女が有能である事を世に知らしめなければならない。
かくして。
アイリが私の陣営に入る事となった。
流石に武力104の猛者だけある。
馬に乗る事なく、馬と同等以上の速度で森を抜けていた。
騎士や冒険者の中には同様の事を出来る人も居るが、彼女の様に息も切らさず出来るという人は数少ない。
というか、普通しない。
いや、驚いた。
彼女に付き従うホムンクルスも同様の事をやってのけている事にも驚いた。
驚きを後に。
アゾニ村で待たせてあった馬車にアイリを乗せて、ストーニアに向かう途中、いろんな話をした。
私の事を知ってもらう為に。
そんな中。
常に笑顔で私の話を聞いてくれていたアイリは、
「運命って、あるのかもしれないわね」
「運命、ね」
その言葉に、眉を顰めた。
運命という言葉が嫌いなのだろうか。
それなら好都合だ。
ゲームの強制力という運命に抗うために、役に立ってくれるかもしれない。
これは。
友達から始めようと言ってみたその言葉が、もしかしたら、私の運命を変える魔法の言葉だったのかもしれない。
もしかしたら。
私は生涯の友と出会ったのかもしれない。
本当に。
「運命って、あるのかもしれないわね」
ぼそりと言った私の言葉を、アイリは聞き逃していたらしく、
「なんです?」
と、そう聞いてくるが、私は、
「何でもありません」
と、わざと言葉を濁した。
「お友達に隠し事ですか、そうですか」
「そう拗ねないの、お・じ・さ・ん」
「確かに中身はおっさんですがね」
あー。
この娘、安心できるわぁ。
包容力があって。
素を見せても大丈夫なくらい、安心できるわぁ。
面白かったらブクマ、評価の程よろしくお願いいたします




