18 淑女教育と装備強化です
ストーン辺境伯家の養女となると決まってからは、アイリーン様のターンとなった。
宝石や調度品の目利きなどは鑑定で何とかなったが、それ以外は、徹底的に仕込まれた。
「アイリは、戦士としての立ち居振る舞いは完璧なんだけど、淑女としては不合格ね。これから学院の休暇が終わるまで、徹底的に修正するから、覚悟をしておいて頂戴」
そうやって、徹底的に扱かれた。
テーブルマナーは勿論の事、起きてから寝るまで、アイリーン様、というかお義母様につきっきりで指導を受けた。
齢46歳のおっさんのテーブルマナーなんて、ゴミですよ、はい。
もちろん、この世界特有のマナーがあるので、さらに難易度は増す。
まぁ、リーズディシア嬢の為に覚えるのだ。
そのリーズディシア嬢は、再会を期して、王都へと戻っていった。
まぁ再会した後に驚かせる為にも。
頑張ろう。
一つ疑問が残るとしたら、うちのホムンクルス達が教育免除を言い渡されたあたりだろうか。
「あの娘達は良いのよ。何一つ落ち度のないメイドだわ」
解せぬ。
「ほら」
お義母様が私の尻を鞭で叩いた。
「歩く時にお尻が出てる。それじゃ、綺麗な歩き方になってないわ」
「ヒールは慣れていないのですよ」
「言い訳をしない。貴女は痩せっぽちなんだから、せめてその身長を活かして自分を大きく見せる事に注視しなさい」
「リズのような小さい娘の方がモテるのでは?」
「身長の方は、仕方ないでしょう。それに、リズは小さくはないわよ。貴女の背が高いだけ」
またもや、お義母様にお尻を叩かれた。
「大股で歩かないのがコツ。踵に体重を乗せて、点でバランスを取りなさい」
※
またある時は。
「この国では、王家の血筋を色濃く残すために、王家は公爵家以外の家との婚姻を避けているの。その理由はわかる?」
勉強漬けになっていたりもする。
「いえ」
「他の家から嫁を迎えていたら、外戚の力が増して、王家の乗っ取りが起こる可能性があるからなの。だから、公爵家も、四つの家から交代で嫁を出しているし、嫁を出した家は出来るだけ権力に近付かないよう、監視対象となるの」
なるほど。
中国辺りの歴史でも、そういう外戚が権力を持って皇族の権威が落ちたという例もある。
理にかなった制度だ。
まぁ。
「それだと、外からの血が薄まって、不健康な子供が産まれる事になるのでは?」
「その辺はご心配なく。公爵家が外からの血を積極的に取り入れているの。例えば、私のセカンドネームはシルク、サードネームはエル、となっているでしょう?これはシルク、つまり側室生まれで、エル、つまりエルという母親から生まれたという意味を持っているの。公爵家は、側室を多く持つ事を義務付けられているわ」
「という事は、リズとは母親が違うという事ですか」
「リズは正室のエル、アンリという母親から生まれたという事になるから、腹違いの姉妹という事になるわね」
「では、私の名前は?」
「アイリ・ジル・アイリーン・ストーンになるわ。養子で、母親は私、ストーン家のアイリという訳」
なるほど。
名前を聞いただけで、出自が分かるという訳か。
では義父のフォン・エルミナというのはどういう意味を持つのだろう。
「フォンは正当な当主の名前で、エルミナは母親の名前よ」
「という事は、家督を継いだ時点で、男性は名前が変わるのですか」
「そういう事」
男性はセカンドネームが変わり、女性は姓が変わるという事か。
「ちなみに」
と、お義母様は私の後ろに控えるメイジ・プルに目を遣り、
「ホムンクルスの二番目の名前は製作者の姓を取る事が殆どね」
なるほど。
「では、お義父様の側室が生んだ子供は、セカンドネームがシルクで、母親の名前がサードネームになるのですね」
「うちは、エル、で埋め尽くすわ」
フフフ、と笑うアイリーン様を見て、私は虎の尻尾を踏んだと理解した。
この人、ヤンデレ属性持ちだったか。
※
と、まぁ、淑女教育は進んでいったわけだが。
メアリー・プル達の装備の強化も忘れた訳ではない。
一か月が経過した頃、私はホムンクルス娘達を連れて、ストーニアの貧民区に足を延ばしていた。
「おう、お嬢ちゃん、今日はみんな連れて来たかい」
そう言って出迎えてくれたハンスさんは、晴れ晴れとした顔をしていた。
「お望みの品、出来てるぜ」
検分すると、エンチャントがしっかりと三つ乗る様な防具が五つと、それぞれの武器が揃っていた。
うん。
間違いない。
この人にお任せして正解だった。
あとはお金を払ってエンチャントの術師を紹介してもらうだけだが。
「それなら隣に行け」
三百枚の金貨を数えながら、ハンスさんは左隣の家の方を親指で示した。
あ、隣でしたか。
「確かに三百枚、受け取ったぜ」
私達はハンスさんが確認し終えるのを待って、隣の店へと移動した。
そこは、占い師の館のような風貌をしていて、
「いらっしゃい」
一人の中年女性が経営しているようだった。
「ハンスさんからお話を聞かれていますか?アイリと申しますが、エンチャントをお願いしたくて」
「あぁ・・・・・」
と女性は気づいたように目を見開き、
「金払いの良い、いいお客さんが来るって言ってたね」
と言って、
「どれにエンチャントするんだい?」
と、テーブルを指し示した。
私は受け取ったばかりの装備を取り出し、
「この装備に、お願いします」
と、そう言った。
「一つのエンチャントにつき、金貨十枚だよ」
「どのようなエンチャントが付くのですか?」
「その辺は、運任せさ。良いエンチャントが付くのも、そうでもない奴が無いのが付くのも、運次第だね」
その辺は、ゲームと一緒か。
「エンチャントの重ね掛けは?」
「可能だよ」
そこも一緒なのね。
「じゃぁ、お願いします」
私はとりあえず、金貨三十枚を中年女性に渡した。
「鎧にエンチャントを三つ」
「はいよ」
女性が鎧に手をかざす。
物の十数秒で、女性は、
「はい、出来たよ」
と言って、鎧を見せてくれた。
ふむ。
防御35%アップに、健康プラス67、に、健康プラス35、か。
やり直しだな。
せめて、健康比率三分の一は引きたい。
「高くつくよ?」
「問題ありません」
何日かけてでも、最低限の装備を作りたい。
ホムンクルスに対する投資は、私の命にかかわってくる。
「やれやれ、明日は貧民区全体に肉と酒が配られるね」
そう言って、女性は鎧に再び手をかざした。
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