17 アイリーン様との試合です
待つことしばし。
アイリーン様が鎧に着替えて戻ってきた。
その出で立ちというのが、なんとも、まぁ。
「派手、でしょう?」
という言葉の通り、派手なのだ。
何の皮を使っているのかは知らないが、皮の鎧は真っ赤に染められ、鎧下の衣装も深紅なのだ。
「これには理由があってね。戦場で、騎士たちが私を見つけやすいようにしているの」
なるほど。
それでそのド派手な衣装になっているという訳か。
「まぁ、見た目は試合には関係ないわ。始めましょうか」
と言って、アイリーン様は模擬剣を二本取って、訓練場の中心へと軽やかに足を進めた。
軽そうな長剣を二本。
双剣使いか。
やはり、敏捷に特化した剣士の様だ。
さて、敏捷に特化した剣士との戦い方は、と。
二種類あるが。
HPを削られながらも耐えて、重いのを一撃入れるか、こちらからも同程度の速度で力押しするか、だが。
HPを削られる方は却下だな。
急所に良いのを貰ったらそれで終わりだろうし。
という事は、だ。
「始め!!」
動く。
私は開始の合図と同時に、ほぼ全力で踏み込んで、棍をアイリーン様の正中線に繰り出した。
流石は敏捷特化型の剣士といった所だろう。
アイリーン様は棍を左手の剣で受け流し、右足を引いて半身になって受けた。隙は、出来ていない。仮に棍を回して石突きで左から攻撃しても、身体にブレが無いから避けられるだろう。
だが。
私はあえて、石突きでアイリーン様の左側に凪ぎを放った。
やはりと言うか、笑顔のまま、僅かに後退して避けられる。
どころか。
その勢いを利用して、私の懐に入り込もうとしてきた。
かなりの手練れだな。
私はそう確信した。
目が良い。
それに、思い切りも良い。
うん。
一手のミスが命取りになるな。
例えば。
この突っ込んできたアイリーン様など、悪手を引いたと言っても良い。
彼女は私を敏捷特化型の槍使いだと思っているようだが、私は火力特化型の槍使いだ。例えば、槍の軌道を強引に変えるなんて事も、造作もなく出来てしまう。
私は右手を引いて、強引に棍の勢いを殺し、懐に入り込もうとしてきたアイリーン様の右から穂先の一撃を放った。
ガン、と鈍い音を立てて、剣と棍がぶつかる。
アイリーン様が私の棍を受けたのだ。
そして、その衝撃で後ろに飛んだ。
「うん。実戦なら、今ので私の負けが確定ね。剣を折られて、身体まで両断されているもの」
アイリーン様が右手を振って、恐らく出たであろう手の痛みを振るい落とした。
「でも、もうちょっと遊ばせてもらえないかしら?」
「お好きなだけ」
「ありがと」
アイリーン様はそう言うと、
「出し切らせてもらうわ」
おそらく全力であろう突っ込みを見せてきた。
私は、今度は受けに回る。
右手の剣で突き。
棍の柄で受ける。
左手の剣で下からの切り上げ。
スウェーして躱す。
右、左、と基本的に回転と攻撃速度を重視した攻撃方をしてくる。時に左から右のフェイントを入れて、左から左、とリズムを替えてくるのも忘れない。
普通に、強い剣士だと、私は判断した。
この速度で、リズムを頻繁に変えてくるし、軌道もわずかに変えてくる。間合いも詰めたかと思えば遠くから突いてきたり、足払いをかけてきたりと、手を変え品を変え、攻撃を仕掛けてくる。
ゲームでも、カンスト組にもこういう攻撃を仕掛けて来る剣士は少なかった。
バランスを崩すからね。
アイリーン様は、かなりバランス感覚に優れているのだろう。
まぁ。
「くっ」
ちょっと剣筋を変えてやると、リズムを崩して、体幹も崩すのだが。
まぁ、反撃をする間を与えないようにすぐに立て直す所も素晴らしい。
「まだまだぁ!!」
アイリーン様は、自らに活を入れて、また私に向かってきた。
出し切るには、まだまだ引き出しがあるのか。
タフだな。
十分以上、全力を出し続けているから、かなり疲弊していると思うんだが。
汗もかなり出ているし、息も上がっている。
それでも、限界はまだ先か。
付き合おう。
スピードも落ちてきているから、油断さえしなければ、もう当たる事も無いだろう。
「怪我、しませんでしたね」
「まだまだ・・・・」
さて、何を見せてくれるのか。
「風の脚」
アイリーン様が、何やら呟いた。
瞬間、アイリーン様の足元の土がフワッと舞い上がる。
これは。
私は距離を取って身構えた。
アイリーン様が地面を蹴る。
一瞬で取った距離分の間合いを潰された。
やはり。
スキルか。
スピードで、優位性を取ろうという訳か。
MPを消費するからそれ程もたないだろうが、私の方が若干速かった速度が、消された。だが、弱点はある。直線的にしか動けないのだ。
私は左に飛んで、アイリーン様の突進を回避した。
さて。
MPが切れるまで、どれくらいの時間がかかる?
この手のスキルは消費し続けるから、切れるのも早いと思うのだが。
アイリーン様が、再び突進してきた。
また左に躱す。
そこでアイリーン様が、再びスキルを発動した。
同じスキルを重ね掛けして、方向を変えたのだ。
しまった。
と思った瞬間、身体が動く。
私は、アイリーン様が繰り出してきた剣の突きに合わせて、右肩を、棍で突いた。
やられた、と思った。
思わず力を込めて突いてしまったのだ。
アイリーン様が、右肩から訓練場の端まで飛んだ。
「お姉様!!」
近くに居たリーズディシア嬢が一番に駆け寄る。
私も、アイリーン様の下に走っていった。
見ると、起き上がろうと動いている。良かった。殺してはいなかったか。
ホッとしている間に、リーズディシア嬢がアイリーン様に手をかざした。その手から光が溢れ出す。
数秒の後。
リーズディシア嬢のハイヒールに癒されたアイリーン様が、身体を起こした。
「参ったわ」
アイリーン様の言葉は、むしろ清々しい音を帯びていた。
「初見でもダメ、奥の手を出してもダメ。完全に私の負けだわ」
「アイリーン様は、この国で、何番目位に強い方なんですか?」
「五本の指に入るわね」
「そうですか」
このレベル帯の強さを持った人が何人も居たら、私もうかうかとして居られないのだが。
大丈夫なようだ。
「貴女は、恐らく最強よ」
「そうですか」
「ロイド」
「どうだった?彼女は」
「文句なく、他の陣営に渡したら危険な娘ね」
「そうかい」
寄ってきたストーン辺境伯様とアイリーン様は、お互いに頷き合った。
「アイリ嬢」
「はい」
「こちらからお願いしたいね。リズについていくのに、うちの養女になってくれないかな」
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