16 御前試合です
騎士たちの訓練場で。
百人程の騎士たちが燃え滾る見守る中、私は一本の長めの昆を取って、ストーン辺境伯の前に出た。
「得物は、それで良いのかい?」
その言葉に無言で頷く。
私、槍使いなので、実際の武器と近かったのが、長めの棍なのだ。ちょっと短いけれど、一番近いから、まぁ、良いだろう。
「槍、を使うのかな?」
「実戦では、そうですね」
「槍を持っていないようだが」
「アイテムボックスに仕舞ってあります」
「そうかい」
辺境伯様はそれだけを言い、
「さて、相手は誰から行くかね?」
騎士さん達に向かってそう言った。
瞬時に数人の手が挙がる。
そして、顔を見合わせて、一人を残して全員が手を下げた。
相手は、
「私のようですね」
レベル434の若い騎士さんだった。
獲物は、オーソドックスに剣と盾のスタイルか。
私と騎士さんは訓練場の中心に行って、間合いを取って相対した。
さて、久しぶりの対人戦だな。
ゲーム時代にも決闘制度はあったが、挑まれる事も少なくなっていたから、約一年ぶりになるだろうか。
この人を相手に、勘を取り戻そう。
「始め!!」
その審判の合図で試合が始まった。
同時に。
騎士さんが一気に間合いを詰めてくる。
槍相手なら、近場の間合いで戦うのが有利とでも思っているのだろうか。
だが、それは甘い。
私は棍を短く持ち、騎士さんの盾で隠れていない眉間を狙って一撃を繰り出した。
ガン!!
音を立てて、盾で防がれる。
まぁ、予想通りだな。
だが、間合いは取った。
盾持ちの剣士への対応法其一。
盾を崩して、がら空きの本体に攻撃をする。
だ。
私は石突きを横凪に振るって、盾に一撃を与えた。
支えきれなかった騎士さんが体勢を崩す。
私はそこに、穂先で一突き。
して、顔の前で棍を寸止めした。
「そこまで!!」
審判さんが試合を止める。
試合はそこで終了だった。
「ありがとうございました」
呆然とした顔のまま、騎士さんは後ろに下がる。
次の騎士さんに何やら耳打ちをして、騎士さんの中に紛れていった。
さて。
次だ。
次も盾持ちの剣士さんか。
これが、ここの騎士さんの標準装備なのかね。
レベルも400台だし、年齢も同じ位に見えるから、同期とか、かな。
「よろしくお願いします」
騎士さんに一礼して、私は昆を構えた。
「始め!!」
次の騎士さんは、私の間合いの外から突っ込んでこない。
様子見か。
やはり、先程の耳打ちで何かを吹き込まれたんだろうな。
まぁ、やりようは幾らでもあるけどね。
盾に向かって棍を振るう。
軽く当てるだけなので力は入れない。
騎士さんは盾で受けて、距離を取る。
その間に私は棍を拳一個分だけ短く持った。
これが罠。
再び間合いを取った騎士さんとの間合いは、拳一個分だけ短くなっているのだ。
だから。
再び繰り出した私の棍は、盾を通り越して、騎士さんの胸元へと届くようになっている。
騎士さんは驚いた顔をして、慌てて盾で棍を弾こうとした。
そこに、今度は力を入れて槍を回転させ、石突きで盾を弾いた。
そこでチェックメイトだ。
さっきと同じ様に、私の棍は、騎士さんの喉元に突きつけられていた。
「そこまで!!」
審判さんが、試合を止めた。
騎士さんは何が起こったか理解できていない顔で呆然としている。
周りで見ている騎士さんも、今の手品の正体がどれだけ解っているか。
私は種明かしをするつもりは無いので、
「次」
静かに審判さんにそう告げた。
さて。
私は今のところ、技術のみで勝負をしている。
相手に合わせて力を制御している。
ここの騎士さん達の中に、その事実に気付いている人が何人居る事か。
周りを見渡すに、気付いている人は、二人、か。
ストーン辺境伯と、奥方だけみたいだ。
その二人は、笑顔のまま止める様子は無い。
はぁ・・・・・。
続行か。
二人目の騎士さんが下がって、三人目の騎士さんが出てきた。
「よろしくお願いします」
次の騎士さんは、少し年齢が上っぽい。
レベルも508と少しだけ強そうだ。
このまま続けたくないので、私は少しだけ実力を見せつける事にした。
「始め!!」
その合図と同時に、私は左足を左に一歩ずらした。
右手で剣を持っている盾剣士を相手にするには、剣の方に回り込むのがセオリーだ。半身の状態の片手剣で両手持ちの武器を相手にするのはかなり厳しい状況に追い込まれる。それを理解しているのか、騎士さんは右足を引いて身体を右に回した。
同時に、私は左足で地面を蹴って右に飛ぶ。
ほぼ全力で。
盾で見えない方向へ飛ばれたので慌てて騎士さんも右足を前に出して私と相対そうとするが、私は騎士さんが右足を踏み出すまでの間に、二歩、飛んでいた。
結果。
私は騎士さんの後ろを取り、棍で彼の後頭部をコツンと突く。
それが終わりの合図だった。
「そ、そこまで!!」
審判さんも何が起こったか分かっていないまま試合を止める。
さて。
このやり取りで、何人の騎士さんが私の実力に気付いたか。
見渡すと、半数以上の騎士さんが、呆然とした顔で私を見ていた。
私は静かに、
「次の方はいらっしゃいますか?」
そう聞く。
そして、
「次からはある程度本気を出しますので、怪我人が出る事になりますよ」
そう言った。
騎士さん達の間に、動揺が走る。
やっと、実力の差に気付いたか。
相手をしていた騎士さんが退がった後、私は訓練場全体を見渡した。
静まり返る訓練場。
騎士さんを見渡す私。
目が合うと、全員が私から視線を外す。
そんな中、
「素晴らしいわ」
と、声が挙がった。
見ると、辺境伯様の奥方が、喜色露わに私を見ていた。
「セバス」
「はっ」
「私の装備を準備して」
「はっ・・・ですが、アイリーン様・・・・」
「何度も言わせないで頂戴。こんな強い娘とやり合えるなんて機会、生きていて、まず巡り合えないんだから」
「承知いたしました」
お?
という事は、奥方とやり合う事になる訳か。
レベル800台の相手とやり合うのは、この世界に来て初めてだな。
さて、どんなものか。
「アイリさん」
「はい」
「少し待ってもらえるかしら?私、貴方とやり合いたいの」
「怪我、しますが、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。怪我をしても、リズが治してくれるわ」
「どの程度の怪我なら治せるので?」
「骨折程度なら一瞬よ」
「では、骨折程度で収めます」
「あら、余裕あるわね」
「若干ですが、私の方が強いと思っておりますので」
「そうね、貴女の方が、魔物を倒すのには役に立つでしょう。が、人を相手にするのに、そこまで力は必要ないの。それを貴女に教えてあげるわ」
あ。
この台詞で分かったわ。
この人、敏捷特化型だ。
レベル800台で敏捷特化型となると、私に追いつくかな。
あとは技量の問題か。
さて、アイリーン様は、どんな戦い方をするのか。
私は、訓練場を出ていく彼女の背を見ながら、この世界に来て初めて手合わせをするレベル800台の人との戦い方を考えていた。
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